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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第50話 ロンメル男爵の奮闘

いつもお読み頂きありがとうございます!

 グラエキア王国の東部――小鬼ゴブリン族の国であるロストス王国付近に、ロンメル男爵領が存在する。


 ――領都ロンメル


 突如として国境を越えたロストス王国軍およそ五○○○○は、極東の護り手でありファドラ公爵家の寄り子でもあるロンメル男爵軍と激突した。


 ぶつかったのは領都から僅か5kmほどの地点。

 ほとんど王都におらず、国境を常時警戒していたロンメル男爵であったが、()()()国境沿いでロストス王国軍を迎え討つことができなかった。


 領都への接近に気付いて騎士団と領兵を率いて、何とか装備を整えて出陣した形だ。

 国境周辺は荒野が広がっており、平坦な大地が続いている。

 地方貴族で、かつ男爵と言う立場でありながらロンメル男爵領は、豊かな土地で騎士団の人数も多い。

 しかしいざ出陣してみると、あまりにも多い敵兵。


 平地での戦いは兵数が勝敗を大きく左右する。

 直ちに兵を退いたロンメル男爵は、領都付近の森林に潜んで領都へ迫るロストス王国軍を強襲。これを撃破して大混乱に陥れることに成功した。


 鮮やかな用兵で緒戦を飾ったロンメル男爵であったが、このままでは多勢に無勢。


 止む無く領都に籠って戦うしかないと判断し――




 あちこちから怒声や罵声が風に乗って聞こえてくる。

 

 そして剣と剣が交差し、弓矢や魔法が飛び交っていた。

 まさしく暴力が支配する戦場の風景そのものだ。



「ええい! 相手はゴブリンだッ!! 防壁の下へ叩き落としてやれッ!!」



 戦場に響くのはロンメル男爵の大音声。

 自らが先頭に立って街を囲む防壁上で槍を振るっていた。

 彼の職業クラスは【槍術家ランサー】、【槍使い(スピアー)】の上級職である。



「弓使いと暗黒導士は敵の魔導士を狙え! 最優先になッ! 確実に仕留めねば大損害に繋がるぞ!」



 ちなみに東西南北の門は鉄性であるが、高位階の魔法を使われれば破壊は容易だ。

 また、分厚いとは言え防壁の方が脆いため、そちらを狙われるのもマズい。

 とにかく相手に魔法を撃たせない――それが最優先事項。


 ロンメル男爵はまだ29歳と若いが、その用兵と剛勇の才を買われて防衛の要所を任されたと言う経緯があった。

 東のロストス王国が第1の警戒対象であったが、北のドレスデン連合王国に対して睨みを利かせる目的もある。


 だからこそ、必ずややり遂げなければならぬ!

 世界の紛争地域で傭兵として戦ってきた経験と実力を示す刻!

 グラエキア王国の主力がジャグラート王国へ遠征している今、危機に直面して期待に応えない訳にはいかん!

 恩を受けたファドラ公のためにも絶対に抜かせはしない!

 ロンメル男爵のそんな想いは、見事に奮闘に繋がっていた。



「侵略者は出ていけッ! この蛮族共がッ!! ゴブリン風情が人間に勝てると思うなよ!!」



 防壁をよじ登ってくるゴブリンの群れに槍の穂先が迫る。

 刺突の雨が降り、体中に風穴を空けられて流血しながら地面へと落下していくゴブリンたち。



「【ドリル突き】!!」



 ロンメル男爵が『槍術』の能力ファクタスを行使すると、5体のゴブリンが巻き込まれて血みどろの肉塊に変わる。

 その名の通り槍をドリルの様に回転させ、風の力を纏って敵を貫くのだ。

 槍の周囲に発生する風は容易く脆い体を斬り裂き、バラバラの肉片へと変える。


 もう防壁外はゴブリンたちの死体の山。

 血の臭いが風に乗って吹き付けるため、防壁上にも蔓延しているのだが誰も気にしている様子はない。

 必死なのもそうだが、もう既に慣れてしまっているのだ。


 防壁が大きな音と共に崩れてガラガラと崩れ落ちた。

 魔法による攻撃だ。



「閣下! 敵の勢いが強過ぎます! 次々と湧いてきますぞ!」


「そのようなことは、とうの昔に理解しておるわッ! しゃべっている暇があったら手を動かせ!」



 叱り飛ばされた騎士がすごすごと離れて行き、再びゴブリンへ向かっていく。

 そうは言ったものの、ロンメル男爵も内心では徐々に焦りが募っている。



「やはりファドラ公のご助力がなければきついか……」



 誰にも聞こえない小声で独りちるロンメル男爵。

 ロストス王国軍は領都を完全に包囲しており、脱出口はない。

 一部の領民は西に逃すことができたが、とにかく時間が足りなかった。



「ゴブリンも強くなったものだ。やはり亜人と上手くやることなどできん。所詮は暗黙の了解だったと言うことだな」



 部下を叱りつけた手前、働かない訳にはいかない。

 そもそも兵士が足りていないのだから、ロンメル男爵に残された道は最早、奮闘する以外にないだろう。 


 長年の王国東部の平穏な時代が、相互不干渉と言う暗黙の了解を生み出した。

 かつてのグラエキア王国は、亜人に対してもっと苛烈だったはず。


 色々なことが脳を過っていくが、ロンメル男爵の手は止まらない。

 ただただ無謀にも雲梯うんていで上ってくるゴブリンたちを突き殺していくだけだ。



「雲梯など……技術を使うのは人間だけだ。本当に小賢しい……亜人と言う種族は」



 その時、1体の体格の良いゴブリンが斧を片手に防壁上へ乗り込んできた。

 東門では1番槍だろう。

 ゴブリンが両手を挙げて意気揚々と怒鳴り散らす。



「うがああああ!! オラが1番乗りだァ!! オラに続けェェェ!!」



 それを見たロンメル男爵の胸中にドス黒い怒りが湧きあがる。

 血が沸騰して煮えたぎっているような感覚。


 ロンメル男爵はすぐに処すべく駆ける。

 顔に怒りを張りつかせて。



 槍の長所はリーチの長さ――【烈光突き】



 目には捉えられないほどの刺突が放たれると、槍が倍以上に伸びたかのようにぐんぐんのゴブリンへと肉迫する。


 それに気付いた巨躯のゴブリンが槍を見た。



 刹那――頭が粉々に砕け散る。



 頭部を無くした巨体は首から大量の血を噴きだしながらゆっくりと倒れ込んだ。

 それを見た兵士たちの士気は否応なく上がる。



『ロンメル閣下万歳!! グラエキア王国万歳!!』



 槍を暮れなずむ陽に高く掲げてそれに応えるロンメル男爵。

 これも総大将としての大事な務め。

 気分が高揚し心拍数が上がるのを感じる。

 まさに生きていると言う実感!!


 亜人は殲滅だ。

 だが状況は圧倒的に不利。

 このままでは数の暴力で押し潰されてしまう。

 ロンメル男爵がそんなことを考えていた時、今にも倒れそうになりながらも1人の兵士が走ってくるのが見えた。その兵士は息も絶え絶えになりながらも懸命に告げる。



「ご注進! 閣下ぁ! 南門が持ちそうにありません!」



 報告を聞いたロンメル男爵が東――遠くに陣を張る大軍に目をやった。

 現在、領都に攻め寄せているのは、少なく見積もっても一○○○○から一五○○○ほど。


 あの大軍が動き出したら終わるだろうに、ゴブリンは一体何を考えているのか不思議に思う。


「何を考えているのか知らんが、粘れば近くの貴族諸侯が援軍に来てくれるはず……いや、必ず来るッ!!」


 既に王都へは急使を出して状況を伝えに向かわせている。

 何名も放っているので他貴族の領都にも報せは届くだろう。



「俺は南へ向かう。貴様ら! この場を死守せよ!! 援軍は必ずやってくる!!」



『応!!』


 ロンメル男爵は東をを護る兵士たちへ向けて大音声で鼓舞すると、壁伝いの階段を駆け下りて南門へと向かった。

 頼もしい部下たちの返事を耳にして。




 ―――

 ――

 ―




 南門付近では激闘が繰り広げられていた。

 既に防壁が破られて領都内に侵入されて、乱戦状態になっており陣形も何もない。


 先程までの高揚感と煮えたぎるような猛りはもう失われていた。

 だが、何としても負けられない、負ける訳にはいかないと言う強い想いがロンメル男爵を支える。



「聞けッ!! 我こそがマティス・ド・ロンメルだッ! 亜人どもは皆殺しだッ! 掛かってきませいッ!!」



 その名を聞いて周囲の視線がロンメル男爵に殺到する。

 敵味方問わずに。

 だが考えていることは相反している。


 彼の武勇をよく知る者は――やっと来てくれた!と言う安堵。


 ゴブリンは――大将首だ!と言う歓喜。



 だが――ゴブリン如きに沈むロンメル男爵ではなかった。



 大地に倒れ伏す部下たちの姿。

 既に暗闇が支配する時間帯に入っているが、煌々と照らされた篝火かがりびによって嫌でも彼の目に入ってくる。


 部下を護り、共に戦い、苦楽を共にするのがロンメル男爵の流儀だ。

 彼の心には再び激情が燃え上がり、熱い血が体内でほとばしる。



 ロンメル男爵の無双が始まった。



 槍を振り回しながら近づく者は皆、薙ぎ払う。

 ゴブリンたちは頭蓋は叩き割られ、首が飛び、心臓を貫かれる。


 ロンメル男爵の位階レベルは40。

 ゴブリンが10~15であることを考えると、その実力差は果てしない。




 どれくらいそれが続いただろうか?


 ロンメル男爵の来援によって勢いを盛り返した兵士たちであったが、そこへ1体の巨躯を持つゴブリンが現れる。

 

 瞬時に理解させられる――圧倒的強者の力


 人間からしてみれば、どのゴブリンも同じ顔にしか見えないのだが、何処か強い気迫と圧力が感じられるのだろう。

 兵士の間に動揺が広がる中、悠々とロンメル男爵へ向かって歩いて来る。

 その表情は狂喜の笑みで歪んでいるが、彼を射抜く目は鋭い。


 ゴブリン特有のしわがれた声で尋ねてきたのは、巨躯のゴブリンだ。



「よぉ……貴様が大将か?」


「……だとしたらどうする」


 ロンメル男爵が強い圧力を心身に受けながらも、動じることなく静かに答えた。

 それを聞いた巨躯のゴブリンが、込み上げる感情を抑えきれずに狂気の雄叫びを上げる。


「決まってんだろぉ……殺すんだよぉぉぉぉぉ!!」


「奇遇だな。俺も貴様を殺そうかと考えていたところだ」


 スゥッと目を細めたロンメル男爵は煽りを含んだ声で挑発してみせた。

 相手は好戦的かつ獰猛。

 それを裏付けるかのように目の前のゴブリンが嬉しそうに吠える。


「言うねぇ言うねぇ! 驕り高ぶった人間様がよぉ。()ってやる。俺様はゴスゲス……ロストス王国の第1王子よ」


「ほう……それは都合がいいことだ。亜人風情が調子に乗るなよ。この街の領主たる俺に殺されることを感謝するがいい。このマティス・ド・ロンメルにな」


 目を細めたまま鋭い視線を向けながら、ロンメル男爵は更なる挑発の言葉を掛けた。


 ロンメル男爵は考える。

 目の前のゴブリンは別格。

 それは認めなければならない。

 亜人は人間と相容れることは絶対にない。

 ならば一刻も早く殺処分してやるまで。

 王子を名乗る者を殺せば戦況は必ず変わるはず。


 ゴスケスが太い腕で戦斧バトルアクスを握り直すと、重心を落とす。


「燃えるぜ……! 貴様を殺して王国中を蹂躙してやる!」


「やってみろ。極東にロンメルありと教えてやる!」


 吠えるゴスゲスを見下すようにして更に煽るロンメル男爵。


 両者の視線が虚空で絡まり合い激しい火花を散らした。


 ここに――絶対に負けられない戦いが始まる。

ありがとうございました!

次回、ロンメル男爵とゴスケスの一騎討ちが始まる。

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