第16話 王都散策
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「アナタぁ、ちょっとは構いなさいよ!」
出会い頭にコレだよ。
亜神ってーのは結構暇らしい。
レクスが放課後、毎日のように第三騎士団駐屯所に通っているのを聞きつけたようで戦神ホーリィが学園の門の前で待っていた。
一体誰に聞いたのか……謎である。
と言っても今日はレイリアの都合で稽古は休みだ。
この世界については大体の知識は持ち合わせているとは言え、将来何が起こるか分からないし徹底解説ガイドなどにはない情報があるかも知れない。
以前に決めたように悔いのない行動を普段から心がけるべきなのだ。
そう言う訳で今日は街をぶらついて見識を深めることに決めたのであった。
「学校がありますし、放課後は剣の修行してるんですから無理ですよ。それに前にも言いましたけど寮生活なので入れませんって言いましたよね?」
「そんなこと忘れちゃったわぁ。たまには付き合いなさい。ひょっとしたらご加護があるかも知れないわよぉ!」
亜神の加護が貰えるなら考えないこともないか。
確かにお買い得かも知れない。
思案顔のレクスにホーリィのツッコミが入る。
「何だか無礼なことを考えてる顔ねぇ」
「いえ、まったく」
鋭い。亜神鋭い。
ジト目で睨んでくるので取り敢えず沈黙を貫くことにした。
下手な言い訳をして迂闊なことを言っても困る。
「じゃあミレア、行こうか」
「は~い! どこに行くか決めてるの?」
レクスの隣で所在なさげにしていたミレアが飛び上がってはしゃぐ。
いつも放課後は放置されていたのがよっぽど不満だったのか、その顔は上気して赤く染まっていた。
「決めてないけど時間はあるんだ。適当に回っていくよ」
「仕方ないわねぇ……護衛役は任せなさい?」
「別に頼んでないんですが。それは(アンタが暴れたら王都が壊滅するわ)」
古代竜信仰の強い王国の首都で何かやらかしたらどうなるのか。
もちろん理解していないはずがないだろうが彼女は終始余裕の表情を崩さない。
伊達に800年以上生きている訳ではないと言うことだ。
最初は探求者ギルドに行ってみることにした。
ゲーム本編にはほとんど絡むことはないが、色んなクエストが用意されており仲間を派遣することで収入や多種多様な情報を得ることができる。
それがゲームの世界観に奥行を与えていると言ってもいい。
とは言え、稀にストーリーの根幹部分に関わってくるから性質が悪い。
王城へと続く道――中央通りを真っ直ぐに北に進むと探求者ギルドがあった。
この区画には主要なギルドの本部が置かれているらしくどの建物も豪華でその敷地面積も広い。
探求者ギルドの他にも商業や製薬、錬金、傭兵などのギルドも拠点を構えている。取り敢えず最初の目的地であった探求者ギルドに入ってみたが内部の広さに驚かされる。大きな建物なんだからそりゃ中も広いだろと思うだろうが、そう感じるのは建築様式によるものだ。
5階建で内部は吹き抜けになっていて天井が高い。
入ってすぐは受付カウンターがあり大勢の人たちで賑わっており、その正面の壁には依頼状が所狭しと貼り付けられていた。左側に大きな飲食スペース――まるで居酒屋のような――が取られており喧騒は絶えることはなさそうだ。
既に多くの探求者たちが呑み始めているらしくかなり喧しい。
右側には魔核や素材買い取りカウンターがある。
「魔物を倒しても運び込むのが大変そうだな……」
「中で解体してるのかな? 解体してから運ぶのかな?」
「大物なんかだと持ち運ぶだけでも重労働でしょうしぃ……もっと城壁の近くに建てるべきだわぁ」
家を出るつもりはまだないが探求者になっておいても損はないので受付カウンターにいる受付嬢に色々質問してみた。
どうやら登録できるのは12歳以上からだそうで11歳のレクスには無理だった。今年の9月で12歳にはなるのだが……。
任務についても聞いてみたが魔物討伐、護衛、薬草などの錬金素材採取、遺跡調査、迷宮探索、前人未到の地の調査などがあるらしい。探求者でもないのに微笑みを絶やさず決して嫌な顔もせずに対応する辺りプロである。
この受付嬢……できる。
せっかくだからとホーリィが食べ歩きしながら街を見て回ろうと言うので甘えてみた。「神様もお金持ってるんですね」と言うと従属神の神殿からの喜捨や供物による収入が結構あるらしい。
「(結局は先立つものが必要なんだよな。経済を抑えれば天下だって取れるんだろうし)」
まぁ素直に奢られたことでホーリィも満足したようだし、毎日放置していたミレアの機嫌も直ったので良しとしようか。
探求者ギルドから出ると薬屋や武器屋、防具屋を冷やかして回る。
何しろ先立つものがないのである。
ガルヴィッシュ家の家計はレクス1人を王立学園に通わせるだけで精一杯なのだ。
自由に使えるお金は少ない。
せいぜいちょっとした買い食いなんかができる程度だ。
とは言っても有り難いことなのは十分過ぎるほど理解している。
「(恩ってーのは返すためにあるからな。忘恩の徒にはなりたくはない)」
それにしても王都の隆盛は予想を遥かに超えていた。
内陸部にあるので海運が使える訳ではないが大きな河川グラエキア川とフラントス川に挟まれており、更に南にセントリア湖が存在するため川を使った流通路を掌握している。
北にはネフィリア山脈からの豊富な水資源もあり経済の要所なのは間違いない。
唯一の懸念事項は東に広がる不浄の大森林くらいのものだが、王国内でも武闘派で知られるザビ侯爵家やバルバストル侯爵家の領地が盾の役割を担っていることが大きいのか国民に不安はないようだ。
栄えるための要素は揃っている。
レクスが王都の立地の良さを改めて再認識していると、ミレアが何かを見上げながら質問してきた。
「ねぇ、レクス。あの旗みたいなのって何なの~?」
「あー? ああ、時計塔のヤツか? あれは黄金竜アウラナーガを表してる。カルナック王家の紋章だよ」
「ミレアらしいわぁ……でもそれくらいは覚えておきなさい?」
時計塔はまだ遠くにあるが、この場所からでも十分見えるほどの大きさを誇る。
王都を象徴する建物の1つと言っても過言ではない。
ミレアも納得したようで頻りに「なるほどなるほど」と言って頷いている。
王都はとても1日で回れる広さではないが今日は結構な距離を歩いて疲れた。
とは言えゲームでは分からなかったが実際に体験してみてようやく実感できたように思う。
しっかりとした計画の下、整然と区画整理された平民街。
建築群も石造りで強固にできている。
道路も石畳だが整備されており直線的で洗練されている。
一部スラムになっている場所もあるようだが色々と目が届きやすい設計になっているのだろう。
中央通りはひっきりなしに馬車が通り多くの人々が行き交っている。
そんな中、一際豪奢な造りをした馬車がレクスの目に入る。
装飾も見事なもので細部にも緻密な細工がなされておりこだわりが感じられる。さぞ高貴な存在が乗っているのだろうと考えると思わず目が吸い寄せられてしまう。
窓にはカーテンがかかっていない。
すれ違いざまレクスは中にいる人物と目が合ったような気がした。
「あれは……カルディア公爵?」
カルディア公爵家と言えば古代竜派、そして盟主派の大貴族だ。
当主のクレイオスは聖剣ガラルティーンを使えば向かうところ敵なし。
流石に使徒が使う究極魔法は使えないが大魔法をも操る万夫不当の猛者と言われている。
「クレイオスのお坊ちゃんねぇ……この空気懐かしいわぁ」
ホーリィも知っているらしい。
もう完全な生き字引きだな。大貴族をお坊ちゃん呼ばわりできる辺り流石は亜神と言ったところか。ミレアは当然の如くほわ~とした空気感を出しながら天真爛漫にニコニコしている。
何も感じていないのだろう。
でも不満はない。彼女は癒し枠なのだから。
最後に中央にある通称、光の広場に天高くそびえ立っている時計塔を見て散策はお開きとなった。まさに王都の象徴的な建物で造った人たちも誇りに思っていることだろう。
明日も時計塔の鐘の音で目が覚めるだろう。
勉学だけでなく魔法と剣を極めるための日々が待っている。
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