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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第43話 竜前試合 ⑤

いつもお読み頂きありがとうございます。

 第7試合はダイダロス公爵家の第1公子テステムが出場する。

 ダイダロス公爵家は聖剣『ダインスレイヴァ』を扱える家系である。

 テステムは継いだ血が薄いとは言え、腐っても古代竜の血統でありその力は常人を遥かに凌ぐ。強いとは言え一般生徒に引けを取ることもなく順当に勝利を収めた。


 ―――


 第8試合は注目の1戦となった。

 使徒であるファドラ公爵家の第2公女イシュタルと、武門の家イヴェール伯爵家の4男ガイネルとの戦いだ。


 ファドラ公が扱う究極魔法は雷属性の『トールガルヴァ』であり、古代竜の血が色濃く受け継ぐ雷系の魔法を得意とするイシュタル。

 

 対するガイネルは義母がローグ公の病死した姉であるが、実母は妾であり古代竜の血こそ受け継いでいないが、レクスにより内に宿る神の想い出(ロギア・メメント)の力が解放されており、その力は強大。

 封魔騎士ルーンナイトとして剣での戦いを得意とする。

 神の想い出(ロギア・メメント)を宿すことはレクス以外知らないが。


 と言う訳で第8試合目は共に強力無比な力を持つ2人の戦いである。


『さぁ注目の第8試合!! ファドラ公爵家の公女、イシュタル・ド・ファドラ選手ーーー!! ヴァーサス! 武門の家柄、イエヴェール伯爵家のイヴェール・ド・ガイネル選手の戦いだーーー!! ではーーーファイッ!!』




 大歓声の闘技場に一陣の風が吹き抜ける。

 両者はお互いに見つめあったまま一向に動かない。


「ガイネル先輩、よろしくお願いします。勇名は聞き及んでいます。どうぞお手柔らかに……」


「使徒の貴女がそれを言うのか。だけど僕は負ける気はないよ。僕はもう絶対に負ける訳にはいかないんだ」


 中等部2年のイシュタルと3年のガイネル。

 対人戦の経験は圧倒的にガイネルの方に分があるが、古代竜の強い血に連なる者のイシュタルが簡単に沈むとは思えない。余裕の笑みを浮かべながらも丁寧な口調のイシュタルに比べ、ガイネルからは強い覚悟が滲み出ておりその表情は真剣そのもの。


 彼女の黒い瞳と彼の濃紺の瞳が虚空で絡まり合う。


 抜剣したガイネルがおもむろに歩き出す。

 それを見たイシュタルの心が警戒しろと囁いたことで彼女の表情は真剣なものに変わる。剣士であり魔法が使えないと聞いているガイネルが無防備に歩いてくるのだ。イシュタルが膨大な魔力を持ち強大な魔法を操ると知っているはずなのにもかかわらず。


 となれば彼女が取る選択肢は1つ。

 ロクサーヌのように大出力の魔法を連発して片を付ける。


 イシュタルは右手を前に突き出すと、太古の言語(ラング・オリジン)を紡いだ。



「5thマジック【通貫雷撃チェイン・ライトニング】」



 先手必勝。

 右手からバチバチと言う激しい音と共に眩く光る電撃が発せられ、ガイネルに向けて一直線に伸びていく。

 直線状の全ての敵を貫く第5位階の魔法だ。

 雷系の魔法は風系の魔法と並んで速度が速く、回避するのが難しい。



 だが――



「『魔封剣まふうけん』」



 広い闘技場内にガイネルの言葉が大きく木霊した。

 天に剣を掲げると、イシュタルの魔法はその剣に吸い込まれて消滅する。


「なッ!?」


 滅多に顔に出すことのないイシュタルの表情が驚きへと変化する。

 ガイネルが使った能力ファクタス封魔騎士ルーンナイトの『魔封剣』――全ての魔法を吸収し自らの力に変える。



 好機――



 驚きで固まって動けないイシュタルに向かって、ガイネルが駆ける。

 我に返った彼女はすぐに腰に佩いていた剣を抜き放ち、更に魔法陣を展開した。


「2thマジック【雷撃ライトニング】」


 青天の空から一条の光の雷がガイネルへと降り注ぐ。

 だがこれも同じ結果に終わったことでイシュタルの表情には焦りの色が濃くなっていく。


「ハァ!!」

「く……」


 ガイネルが気合の叫びと共に中段から薙ぎ払いを掛けた。

 剣術が得意ではないイシュタルは衝撃を殺すべく身を引きつつも、どうにか向かい来る剣と自身の体の間に剣を滑り込ませる。

 それでもガイネルの一撃は重くかなりの衝撃だ。

 イシュタルは軽々と吹き飛ばされ、地面に何度も叩きつけられてようやく止まった。


 顔も黒いローブも茶褐色の土にまみれている。


 魔導士と封魔騎士ルーンナイト

 最も相性が悪いであろう組み合わせになったことにイシュタルは思わず天を呪った。



「僕に魔法は効かない。賢い君なら理解したはずだ。僕には勝てないと」



 ガイネルは正義を信じて人々を救い、巨悪を滅するべきと考えていた。

 それを繰り返していけば国は良くなり、人々の為にもなると。

 だがそれも〈義國旅団ユリスティオ〉や〈血盟旅団ブラッディソウル〉と戦い多くの者たちに接することで色々な色々な形の正義があることを知った。


 国家から見れば悪なのかも知れないが、彼らはその国家に裏切られて苦しみ、そして戦いの道を選んだだけなのだ。

 彼らには固い信念があった。

 そしてガイネルはレクス・ガルヴィッシュと言う少年に出会ったことで大きな心境の変化を得た。



 倒れ伏すイシュタルに剣を向けたまま、ガイネルは自嘲気味に思い返す。

 最初は本当に甘っちょろいことを言っていた。

 相手の事情も知らないくせに偉そうに自分の正義に酔っていたんだ。

 戦って勝つことだけが正義を為すことではないことも学んだ。

 敵であろうと相手をおもんぱかって話してみることもまた必要な手段。

 どうしてもぶつからざるを得ない時には、相応の覚悟と武力が必要なこと。


『力なき正義は無力である。 正義なき力は暴力である』


 考えは徐々に変化し、ついには改めるまでに至った。

 レクスのお陰だ。


 しかし――大事な物のために力を付けて護ると決めたのに。

 皆、死んでしまった――シグムント、シグニュー、そしてガストン、学園の仲間たち。今でも彼らのことを夢に見て、起きた時には無力感と喪失感に襲われて震えがくる。


 悩んだ挙句――再びレクスに救われた。

 そして神の想い出(ロギア・メメント)と言う力を解放させてくれた。

 この力は慎重に真実を見極め、本当の悪意を撒き散らす者を倒すために使って見せる!

 何かを護るためにも僕はもう――負けられないんだ!

 ガイネルは自らの覚悟を思い出しながら無情にもイシュタルに告げる。


「イシュタル、降参してくれ。僕はもう負けられない」


「それは無理と言うものです。私とて古代竜の血に連なる者。使徒の子だって……負けられない」


 きっぱりと拒否したイシュタルはガイネルをキッと睨みつけ、太古の言語(ラング・オリジン)つむぎ始める。


「【おお、大いなる古代竜ボルザークよ! 裁きの審判を行う者よ! 顕現せよ!】」


 唱え始めたのは古代竜の血に連なる者が扱える極大魔法。

 宝珠サフィラスの力を借りた究極魔法よりは落ちるものの、その威力は絶大無比。


 朗々と詠み上げるイシュタルを見ても、ガイネルは動こうとはしない。

 別に今まさに放たれようとしている魔法が、究極なる魔法だと知っている訳でもない。


「レクスと会って不思議な感覚がしたんだ。そう。力と言う物にも種類があるってね。そう理解できたんだ」



 ガイネルの心は何故か何とかなると言う確信に占拠されており、平常な状態に保たれて不安の1つもない状態だ。

 そして貴賓席から飛び出してくる複数の人影。



「【この我の血をにえに! さぁ断罪せよ! 古代竜に歯向かいし愚かなる者たちを!】」



「そう。これは……恐らくなんだけど。調べてもみたんだ。古代神と漆黒神、そして古代竜について」


 明らかに余裕の態度のガイネルに、イシュタルの焦燥が募っていく。

 最早、聡明で彼女の視線は吸い寄せられるように、ただ1人に向けられていた。

 冷静な思考はショートし、闘技場で生徒相手に戦っていることを失念しているように見える。


 そもそも極大魔法を使うような場面ではない。


 飛び出してきた人影――カルディア公、ヒナノ、テレジアが極大魔法の詠唱を止めるべくイシュタルに跳び掛かった。



「【その刻は来た! 雷光烈光ボルタニカ・レイ】」


「『魔封剣』」



 闘技場内で。観客席以外の全ての場所で裁きの雷が荒れ狂おうと、イシュタルが付き出した右手から出現した。耳をつんざくほどの轟音を雷鳴の如く響かせて、紫色の光が電撃となって暴れ回ろうとする。




 が――




 全方位に向かうはずだった雷撃は、ガイネルが掲げた剣に吸い込まれるように集束していく。


 理解が及ばず目を見開いたまま固まるのはイシュタルだ。


 愕然とした表情――表情は蒼白。


 防がれた事実――即ち()()()()()()()()()()()()と言うこと。


 おもむろにガイネルが歩き出し、そして止まる。

 右手に持つ剣をイシュタルの首筋に当てると、静かにもう1度告げた。


「降伏しろ。イシュタル。君では僕には勝てない」



 ガクリと項垂れて膝から崩れ落ちるイシュタル。

 極大魔法を止めようとしていた3人はホッと安堵のため息を吐いていた。

 そしてカルディア公が救護班を呼び寄せて、試合の勝敗を告げた。



『よく分からないが、ガイネル選手があのイシュタル選手の魔法を防ぎ切ったーーー!! ガイネル選手の勝利だーーー!!』



 それを聞いたガイネルは剣を鞘にしまうと退場すべく出入り口へ向かって歩き出す。


「いやーあーしはビビちゃったよー。まっさか極大魔法を使うなんてねー」

「そりゃ、僕だってあのイシュタルちゃんが暴走するなんて思わないよ」


 ヒナノとテレジアがそう話す中、カルディア公だけはガイネルに近づいて尋ねる。



「ガイネル。イヴェール伯爵家の子息だったな。君の職業クラスはなんなのかね?」



 グラエキア王国では戸籍制度があるため調べれば分かるはずなのだが、カルディア公は今聞かずにはおれなかったのだ。


「僕は封魔騎士ルーンナイトですよ」


 振り向くことなく背中越しにそう伝えると、ガイネルはそのまま闘技場から消えた。



「古代竜の力をも吸収したと言うのか……。第10位階よりも強いとされる極大魔法だぞ。封魔騎士ルーンナイトか……」


 カルディア公が呟く中、控室の上にある観覧席でレクスも同時に呟いていた。


「あいつもこの世界の力ってものが分かってきたみてーだな。……もう使徒にも勝てるかも知れないな」

最初から殺しにきているイシュタルちゃん、マジパねーッス!

次回、竜前試合が開催される中、王都にジャグラート懲罰軍が帰還する。


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。

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