第15話 余裕の剣王
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本日は13時、20時の2回更新です。
授業を終えたレクスが第三騎士団駐屯所に足を運ぶとレイリアの言う通り、顔パス状態で入ることができた。
昨日の帰りに写真のようなものを撮られたことを思い出す。
見張りの騎士に聞くと懐から紙を取り出して見せてくれたのだが、どうやら魔写と言う魔導具で撮られたものらしい。
まんま写真である。
せっかくなのでじっくりと見せてもらった。
ふむふむ。俺ってこんな顔なのか。
今更ながらレクスはそう思った。
黒髪に茶色がかった瞳、細く整った眉。
顔付きはどこにでもいそうな凡庸な感じがする。
せっかくなので内部を見学しがてら練兵場へ向かう。
ところどころに騎士が立っているが閑散としている。
なんでだろうと思いながらも目的地へたどり着くと答えはそこにあった。
この時間帯は元々鍛練の時間だったのだ。
多くの騎士たちが額に汗しながら思い思いに剣の稽古に励んでいる。
「おお、早速来たか。レクス」
大声で名前を呼ばれて少しビクッとしつつレクスはレイリアの下へ駆け寄った。
改めて彼女をまじまじと観察してみたが強者の風格しかない。
「(しっかしもの凄い腹筋してんな。バッキバキやん)」
腹筋だけではなく腕や脚も引き締まった良い筋肉がついているのが素人目にも良く分かる。これで脳筋でなければ良いのだが……昨日の印象だと大丈夫だろう。多分。
そう思ったがもちろん声には出さない。
「こんばんは。レイリア様。今日からお願いします」
日本人ならではの丁寧なお辞儀にレイリアはどこか呆れたような目を向けてくる。
「昨日も思ったが全くお前は慇懃すぎやしないか? 私が10歳くらいの頃なんかもっとヤンチャだったぞ?」
「性分でして……」
「ふむ。難儀な性分だな。しかし様などいらん。それこそ性分ではないからな。私のことはレイリアと呼べ」
「分かりました。師匠と呼ばせてもらいます」
レイリアは何か言いたげな様子であったがどこか諦めたように溜め息をつくと剣を肩に担ぐ。
「まぁなんでもいい。さっさと始めようか」
「よろしくお願いします」
レイリアが構えたのでレクスも同時に構える。
すぐにでも攻撃がくるかと思いきや彼女はうーんと唸りながらこちらをジト目で見ていた。
「うーん。お前の構えを見ると流派は豪放果断流くずれだな。テッドらしいと言えばらしいが……」
レイリアの構えは腰を落として半身になり剣を斜め45度に向けるものだ。
対するレクスの構えは相手を正面から迎え討つ型で剣をゆらゆらと相手に向ける感じでどっしり構えて懐に相手を呼び込んで超至近距離で戦う。
「王国第三騎士団は久遠流だ。その剣撃は永遠に続き、相手に息をつかせる暇も与えない超攻撃型。お前にはどんな攻撃に対しても体が自然に動くようになるまで技を教え込むつもりだ」
そう言えば流派も徹底解説ガイドに載ってたな。
久遠流は『死中に活あり』を是とするもので相手を仕留めるまで攻撃を止めない狂気の剣技だ。レクス自身としては様々な流派の良いところを組み合わせた独自の剣技を確立させたいと考えているが、まずは基本となるものが必要だろう。
「分かりました。それでお願いします」
「では私から打ち込もう。全て受けて見せろ。反撃も許可するぞ」
そう言うが速いかレイリアは瞬く間にレクスとの距離を詰めると鋭い剣撃を浴びせて来た。慌てて捌くレクスだったが息をもつかせぬ連撃に何とか着いて行くのが精一杯だ。
「ほれほれ。足下がお留守になってるぞ!」
確かに彼女の動きはまさに縦横無尽の動きで、しなやかな剣はどこから出てくるのか予想するのも難しい。
レクスはアドバイス通りに足を使って下がりながら何とか対応する。
キーンと澄んだ音と共にレクスの剣が大きく跳ね上げられる。
勝負あり。
レイリアの剣はレクスの首元に突きつけられていた。
その顔はどこか自慢げだ。
してやったりと言う感情が伝わってくる。
「言っただろう? 久遠流は超攻撃型の剣だと」
「そうですね……まさに『死中に活あり』だと感じました」
「お! よく分かってるじゃないか。それだよそれ。お前のように受けてばかりではいかんし何より後ろに下がった時点で負けだ。踏みとどまるか前に出るんだな」
意外そうな表情だが同時に嬉しそうにも見える。
まさか久遠流の真理を言い当てるとは思っていなかったのだろう。
「よし。ではそれを踏まえて打ち込んでこい」
レイリアが腰を落として構える。
周囲から野次とも応援ともつかない歓声が沸き起こる。
気が付くと鍛錬に励んでいた騎士たちが野次馬と化して2人の手合せを見物していた。
楽しそうな職場だなとレクスの顔が思わず綻ぶ。
第三騎士団の雰囲気……気に入った!
「行きます!」
再び剣と剣のぶつかり合う音が練兵場に鳴り響く。
レクスとて今まで伊達にテッドに鍛えられてきた訳ではない。
レイリアの真似をしながらテッドの剣を取り入れる。
最初からできる者などいないのが当然であり第一歩は真似をすることから始めるべきなのだ。
今度は注意された通り足の動きに重点を置いて攻める。
反復横跳びの要領で左右に動き攻撃を加えていく。
剣もただ斬るだけではなく突き、払いを臨機応変に使い分けて時にはフェイントも入れる。
しかし相手は流石の剣王。
全ての動きを読み尽くして反撃してくる。
焦りは禁物だ。
レイリアの豪撃に耐えながら機を窺う。
何より剣技は剣による攻撃だけが全てではないのだ。
――ここだ!
絶妙のタイミングでレクスは足払いを仕掛ける。
レイリアの顔が驚愕に染まるがそれも一瞬のこと。
すぐに余裕の笑みを浮かべると逆に右手側に強烈な蹴りが飛んできた。
左手を右肘に添えつつ右足と共にその蹴りを防いだものの、その隙を見逃す剣王ではなかった。
横薙ぎの一閃。
何とか剣を体の間に捻じ込むがその衝撃は凄まじく重心を落として受けるもレクスは大きく弾き飛ばされてしまった。
地面には足の踏ん張りでできた溝ができていた。
「今のは中々筋が良かったぞ。お前には才能がある」
レクスは大きく深呼吸して息の乱れを整える。
「ふぅーーー。ありがとうございます……」
一方のレイリアは息の乱れ1つなく余裕の表情だ。
「良い対戦だったぞ!」
「ウチの大将とここまでやるたぁ、お前さんホントに魔導士かよ!?」
「やるやんけ! 俺とも勝負しろーーー!!」
場外から野次が飛んでくる。
だが不愉快では決してない。
レクスがその心地良さに身を委ねながらも、いつかその表情を変えてやると意気込んでいると彼女から意外な質問が飛んできた。
「レクス、お前は最終的に何になりたいんだ? 今は暗黒導士なんだろう? となると暗黒騎士か?」
「いえ、特に考えていません。騎士爵位でも頂かないと転職すらできませんし」
「ならば第三騎士団に入って手柄を立てればいい。騎士爵位なら労せず取れるだろう。それか……確かテッドの村がある領地はロードス子爵が治めていたな。領地で魔物討伐を続けていればいずれ叙爵されることもあるだろうしな?」
「そうですね……今のところは村に戻って村と皆を護る生活を送ろうと考えているんですが」
「まぁお前はまだ11歳だ。先のことは追々考えて行けばいい。だがどんな職業に就きたいのかも考えておいた方がいいだろう。騎士か、天騎士か……」
転職士を呼んで職業変更するにも多額の資金が必要だ。
そもそも平民のままでは職業変更など出来ないし、スターナ村のような小さな村の騎士爵ではそんな稼ぎは到底期待できない。
道のりは険しいが剣聖になるのも良いかも知れない。
暗黒導士のまま位階を上げていけば魔力値は大幅に上昇するだろう。
魔力依存の剣技もあるので威力が高まることを考えるとしばらくはこのままが良いと思う。せっかく魔導科に通学していることでもあるし。
「ふふ……何なら剣聖にでもなるか?」
レイリアは妖艶な笑みを浮かべてそう言った。
もしかして見透かされた!?
しかし――
せっかく王都にいるんだ。
将来のために今できることを見つけて行動に移そう。
きっといつか役に立つ。
レクスは自らの心にそう誓いを立てるのであった。
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