第34話 王都、激震
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は12時の1回更新です。
現在、今作品はコンテストに参加しております!
少しでも続きが気になる方は評価★★★★★とブクマをして頂けると嬉しいです!
ブクマをしてもらえれば更新された時分かりますし、評価して頂ければ作品が浮上できます。
王都に激震走る!
『ロイナス王太子討ち死に』の報が王都に住む国民の耳にも入ったのだ。
更に情報は波及し、グラエキア王国の西から東まで凄まじい速度で駆け抜けていった。ロイナスは国民からかなり慕われており、その報せに王国は悲しみに包まれていた。
箝口令が敷かれていたため、国民に漏れるのはもうしばらく後になるだろうと考える者が多かったが、誰が意図的にリークしたのは間違いない。まさかここまで早く事が露見するとは考えていなかったカルディア公はすぐに動く。
王国内の取りまとめは当然のこと、外国への牽制も忘れない。
特に不浄戦争で血縁関係を持ったジオーニア王国、ヴァリス王国。国王ヘイヴォルの継室の故郷であるドレスデン連合王国。
対応を誤れば国内の問題に干渉される可能性がある。
そう。後継者問題だ。
現在のところ黄金竜アウラナーガの血を色濃く継いでいるのは、後継順位第2位のリーゼ・ド・カルナック王女である。ヘイヴォルの側室の子であり15歳と若いが、そこは摂政を付けるなりどうとでもなる。
ダイダロス公爵の公女、ヴェリタス・ド・カルナックの子なのでどうしてもダイダロス公の影響力が強くなるだろうが、やむを得ない。ヘイヴォルが側室を娶る際のゴタゴタでアウラの称号は与えられなかったが、血の濃さは全てに優先される。
「誰がリークしたのやら……ガルダームの奴やも知れんな」
レクスのギルドハウスに向かう馬車の中で、カルディア公がぼやいて見せる。
窓下の手すりに肘をつきながら外の景色を見ているようだが、彼の頭の中は今後の対応のことで一杯だ。どうせ外の景色と言っても家々から漏れる明かりや、魔導具の街灯がぼんやりと辺りを照らしているくらいでほとんどが闇に包まれている。
「恐らくそうでしょうな。漆黒司祭共は何処にでもおります故」
戦闘執事のクロノスがカルディア公の意見に即座に賛同する。
「漆黒竜復活に目途が立ったと思うか?」
「思えませぬな」
「だろうな。混乱に乗じて何かやらかす気か、ただの時間稼ぎか」
確信しているかのように否定するクロノスに、予想通りだと頷くカルディア公。
「すでに陛下にはお話を通してあるが、後継者はリーゼ殿下に決まりだ。アウラの称号も与えられるだろう。問題は――」
言葉を切ったカルディア公の懸念は1つ。
アウラナーガの宝珠の行方のみである。
候補は問題ないのだ。
正室であろうと側室であろうと、もっとも大切なのは血の濃さである。
誰にも文句は言わせないし、言い掛かりを付ける者はグラエキア王国の成り立ちを否定する者であり、即ち敵であることを意味する。
「しかしロストス王国への備えはどうされるのですか?」
「既に第1公子のユベールは領都に戻した。イシュタルは私が保護しているから問題はないだろう」
「ロストス王はゴブリンながら中々の強者と聞き及んでおります」
「使徒の血脈に連なる者であり、ファドラ公爵家の後継者なのだ。防いでもらわねば困る」
ファドラ公爵家のみが扱えるのは雷系の究極魔法トールガルヴァであるが、宝珠を継承していなければ使えない。つまりユベールがもしロストス王国と戦うとしたら、実力と純粋な血の力で勝たなければならないと言う訳だ。
「後はアングレス教会が余計なことをしなければ良いのだがな。一応は手は打っておいたが……竜神裁判の件がある」
カルディア公はアングレス教会が裏で動いていることは把握しているが何を企んでいるかまでは判明していない。古代竜に関することではないかとの情報は上がってきているのだが、教皇が私怨で動いてくるのか、アングレス教会として動くのかは気になるところだ。
「あれはシルヴィ様のためには仕方なかったことと愚考致します」
「大丈夫だ。私は後悔などしていないからね」
大事な娘の命を護るためだったのだから、カルディア公に後悔などあろうはずもない。敢えて言えば、カルナック王家への復讐を企てた浅慮だけだ。
「閣下、間もなく到着致します」
クロノスと共に馬車に乗っていた〈狼牙〉のイリアスが告げた。
周囲に人の気配はない。
レクスは多くの諜報員に見張られている存在なので、密会が表沙汰にならないように大規模に〈狼牙〉を動員しているのだ。
ギルドハウスに到着したカルディア公は馬車から降りて、そそくさと入口をノックする。すぐに反応があり、中に入ると淡い青色の髪を持つ侍女が出迎えた。
「お待ちしておりました。です! レクス様が応接室でお待ちですのでお入りくださいませ。です!」
「ああ、すまないな」
彼女の後に着いて応接室へと足を踏み入れるカルディア公とクロノス。
いよいよ、謎多き中学生レクスとの出会いの刻が訪れる。
◆ ◆ ◆
レクスは柄にもなく少し緊張しながらも、姿勢を正してカルディア公を迎えた。
何度か姿を見ているし竜神裁判で会話をしたこともあるが、こうやって面と向かって相対するのは初めてだ。
ちなみにレクスの隣にはホーリィがいる。
なんでも「クレイオスの坊ちゃんに久しぶりに会いたい」のだそうだ。
カルディア公とクロノスをソファに座るように勧め、全員が腰を降ろすとシャルが緑茶を淹れてそれぞれの前に置いていく。
一緒に砂糖菓子も用意してもらった。
甘い物好きなレクスが何とか和菓子を作れないかと試行錯誤して、シャルに手伝ってもらい羊羹のような物を作り上げたのだ。
「貴女はホーリィ・エカルラート聖下……? ここにいらっしゃると言う話は本当でしたか」
やはりホーリィのことは知っているようだ。
彼女によればカルディア公が子供の頃に会ったそうだが……。
「久しぶりじゃない? クレイオスのお坊ちゃん。すっかり大きくなって使徒として板についてきたようねぇ……」
「お恥ずかしい限りです。聖下には敵いませんね」
「此度は突然の申し出を受けて頂きカルディア公爵家の者として感謝する。レクス殿忙しいところすまないな」
「いえ、まぁ色々ありましたが、何とかやっております。それより竜神裁判ではご助力頂き感謝の念に堪えません」
ホーリィに簡単に挨拶すると、カルディア公がレクスに頭を下げた。
大貴族が軽率に取る行動ではないので驚いたレクスであったが、表情に出さずに答えた。
「いやこちらこそ礼を言わねばならない。君のお陰でシルヴィが助かったのだからね」
「ジャンヌが神の想い出を持っていたのは偶然ですからお気になさらず」
「とにかく私は感謝しているし、シルヴィもそれは同じなんだ。気持ちは受け取って欲しいね」
「分かりました。シルヴィ様とは学園でお会いしました。お元気なようで何よりです」
まずは前置きと言ったところだろう。
当たり障りのない会話が続いた。
「ああ、今まで臥せっていた分、元気過ぎるような気がするがね」
そこに待ったを掛けたのはホーリィであった。
同席すると言ってきたほどなので、余程気になっているのだろう。
「ちょっとぉ、挨拶はそれくらいにしてぇ早く本題に入りなさい?」
「そうでした。では……単刀直入に言うのだが、ロイナス王太子殿下が亡くなられた話は耳に入っていると思う」
「ええ、街中で噂になっていますからね」
「ジャグラート王国は制圧できたようだが軍はまだ戻っていない。彼らはもちろん事実を知っているし、戻ってから混乱は加速するだろう。国内が混乱し外国からの干渉もあり得る状況。さらにはアングレス教会と西方教会などの宗教勢力も動きかねない」
「存じ上げております。1番の問題は後継者のことだと思いますが、閣下がリーゼ王女殿下をお守りすればそれで良いのではありませんか?」
子供とは思えない口調と本質が後継問題にあると理解しているレクスに不気味な物を感じながらも、より興味を惹かれるカルディア公。
「それはそうなのだがね……リーゼ王女殿下の母親はダイダロス公だ。彼の影響力は強まるだろう」
「私に何を期待されているのかは存じ上げませんが、恐らく内乱になるのは避けられないかと愚考致します」
「ほう……内乱になると思うのだね? では今後どのような展開になると?」
「ダイダロス公とローグ公の争いに発展するのは必定。そこにアングレス教会も介入してくるでしょう。混乱しているところへ外国勢力――ロストス王国なんかが侵攻してくるかと」
カルディア公が細い目を更に細めて尋ねてくるので、レクスは正直に答える。
正規とされるガイネルルートの流れを説明する意思をレクスは持っていた。
どう話を持ってくるかと考えようとすると、割り込んできたのはホーリィであった。
「ちょっとぉ、どうしてそこまで言える訳ぇ? 特に他国なんてどこも漁夫の利を狙いに来ると思うんだけどぉ?」
「ちょっとちょっと! ホーリィ聖下はあんまり特定の国に絡んじゃいけないんでしょ……?」
「別に構わないわよぉ。神って言うのは気まぐれな存在なのだしぃ……」
神の気まぐれで世界がどうにかなると困るので自重して欲しいものなんだが。
ホント止めて欲しいんだよね……読めなくなるから。
「どうしてそこまで言えるのかね? 君には確信があるように見える」
カルディア公がレクスの心を見通すかのような目で見つめてくる。
その細い目で。
レクスとしては世界が荒れることによって想定外のイベントが起こり、大切な者たちが犠牲になることだけは避けたいのだ。
故にカルディア公にはもっと積極的に介入して欲しいと思っていた。
何故なら彼はゲームでは静観の姿勢を見せるからだ。
「ええ。情報源がありますので。閣下が積極的に動いて頂けるのであれば、私としても協力するつもりです」
カルディア公が訝しげな表情になる。
中学生がグラエキア王国の行く末を予想できるような情報を得られるとは思っていないのだ。情報源があるなどと信じられるはずがないのである。
「それは興味深い。私としても王国が混乱するのは本意ではない。聞かせてもらおうかな」
「閣下はリーゼ王女殿下を保護し、直ちに王位を継承させること、摂政は立てず殿下が成人されるまでは6公爵家による合議制で国家を運営すること、アングレス教会、および神殿騎士団を粛清すること、ファドラ公爵家の暴走を止めること、それを主導して頂きたく存じます」
それを聞いたカルディア公の心の内は今までにないほど乱れに乱れていた。
レクスは強いだけではなく、何かを知っている様子――しかもそれを確信している。
それが解せないのだ。
カルディア公が口を開きかけたその刻――応接室の棚の方から大きな音がして陰から見覚えしかない人物が2人転がり出てきた。
「痛たたたた……こらッ! テレジアっち、見つかっちゃったじゃんよー!」
「ええッ……僕のせいなの?」
レクスは何だこいつらと思いながらどうやって侵入したのかと疑問が浮かぶ。
ゆっくりと彼女たちに近づいたレクスが見下すような目を向け低い声で告げた。
「ちょっと……ヒナノっちとテレジアっちが何でここにいるんスか……?」
「いやねーちょっと噂を聞いてキミに色々と質問しようかなーって……えへへ」
テヘペロと舌を出して可愛い顔をしているが、レクスは騙されない。
心の中で突っ込みを入れる。
こいつ誤魔化す気しかねぇ!
「えへへ? じゃないですよ! ビビったじゃないですか、いやマジで。どうやって入ったんですか?」
この邸宅は結界が張られている。
侵入者は全てシャルが把握できるようになっているのだ。
「僕の精霊獣の力に決まってるでしょ!! どうかな? 凄いでしょ?」
何故か大威張りでテレジアが自慢げに何かをほざいている。
カルディア公たちは何が起こったのか着いてこれずに固まっていた。
「話は聞いたよー! あーしも王国のためにひと肌脱ごうかなってねー。これでも宮廷魔導士だしー?」
「僕にも協力させてよ。もう聞いちゃったから仕方ないよね?」
事態を混乱させるトラブルメイカーの出現に、この場にいた全員が頭を抱えたのであった。
次回、密談は続き……
ストックが死ぬ!!\(^O^)/
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。
大切なお願いです。
ここまで読んで頂いた方は是非、、
評価★★★★★、リアクション、ブックマークなどをして頂ければと思います。
感想やレビューもお待ちしております。
モチベーションのアップにも繋がりますのでよろしくお願い致します。




