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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第31話 戦いの末に

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

「【神器招来じんきしょうらい】!!」


 レクスが習得した技能スキル――【神器招来】


 古代よりも遥かなる彼方。

 大いなる太古に散逸した絶対神が創造せし神器セイクリッド・アームズを呼び出す技能スキルだ。

 神器を精神に宿している者は、必ずこの技能スキルを習得する。


 レクスの胸の辺りにぽっかりと漆黒の穴が開く。

 プラズマのようにバチバチと放電現象が起こっており、紫色に煌めいている。

 さしずめブラックホールとでも言うべき虚無の中からつばのない黒刀が徐々に姿を現していく。レクスはその柄を掴むと一気に引き抜いた。


 漆黒に長刀は室内の光を受けて妖しく黒光り、神々しいまでの輝きを放っている。

 

 これが、これこそがレクスがその身に宿した神器、『不惜身命ふしゃくしんみょう


 ゲームでも神器セイクリッド・アームズ持ちのキャラは存在していたが、その強さは隔絶していた。設定では召喚者の魂と結びついているため、盗むこともできず、多くのプレイヤーをやきもきさせた。


 とある攻略本では、『小数点以下の確率――気が遠くなるほど低い確率だが盗める可能性はゼロではない』と紹介されたせいで延々と挑戦を繰り返したプレイヤーが続出したと言われているほどだ。


 実際はガセネタなのだが。


「な、なんだ……これは……」


 誰かの口から呟きが漏れる。

 呆気に取られて神秘的な光景に見入っていたガルダームたちであったが、その言葉に我に返ると慌てて攻撃態勢に入った。


「小癪な小僧がッ!! 3rdマジック【空破斬刃エアロカッター】」


 強力過ぎて殺戮魔法とまで呼ばれている第3位階の魔法を放つキレル男爵。

 その必殺の一撃をレクスは不惜身命ふしゃくしんみょうを軽く振るだけで叩き割って見せた。

 本当に第3位階魔法かと突っ込まれるほどの威力を誇り、この世界では発動と同時に移動しないと躱せないとまで言われている魔法をあっさりと防がれてキレル男爵は開いた口が塞がらない。


「貴族にしてはやるようだが、俺を倒したいなら神でも呼んでくるんだな」


 そう言うレクスだが、流石に世界はまだまだ広い。

 レクスよりも強い者など数えきれないほど存在する。

 だが――レクスは少なくとも目の前の敵ならば倒せると確信していた。

 現時点なら、漆黒竜の強化を受けていない状態のガルダームすら殺せるだろう。


「死ねや! ガキがッ!!」


 硬直から脱したヴォルフラムが、大剣をレクスの脳天に向かって振り下ろした。

 巨躯を持つ彼の大上段からの一撃はとてつもなく重いが、レクスはそれを黒刀を斜めににして軽く受け流し、そのまま横薙ぎに払い斬る。


 狙いは――首。


「うあああ!? あ……? な、何でぇ驚かせやがって」


 レクスの目にも止まらぬ一閃に防ぐことも躱すこともできなかったヴォルフラムだったが、まだ自分の意識があることに安堵する。


「ヴォルフラム、速くれッ!」


 焦れたキレル男爵が命じるが、そんなことは命じられるまでもない。

 少しでも無様な叫び声を上げてしまった屈辱感を胸にヴォルフラムが吠える。

 しかしレクスは残酷な未来を宣告。


「動くと終わるぞ」


「あ? 何を、あばぁ……」


 ゆっくりと頭と胴体が別れを告げた。

 既に死んでいたことにすら気付かないままであったヴォルフラムだったが、今度こそ正真正銘の死を与えられたのだ。


「な、何……だと……?」


 キレル男爵のだらしなく開いた口から呆けたような声が漏れた。

 何が起こったのか理解できなかったのだ。

 それほどまでに速い一閃。


「う、うわああああ!!」


 目の前の現実を受け止められずにいたヴォルフラムの手下たちの理解がようやく脳に届いたのか、彼らは我先にと逃げ出し離れの扉に殺到する。


「おい! 逃げるな!!」 


 彼らを引き止めるキレル男爵の言葉には焦燥が混じっている。

 制止の声も恐慌状態に陥っている者の心に届くことはなく、落ち着かせるには至らない。


「逃がす訳ねーだろッ!」


 レクスの怒りの咆哮と共に魔力弾が降り注ぎ、扉から逃げ出そうとしていた者全ての体に風穴を空ける。

 鮮血がほとばしり、全員が崩れ落ちるように倒れ伏した。


 残るはキレル男爵とガルダームのみ。


 ガルダームは自分に攻撃の意識が向かないように、じっと動かず様子を見ている。


 キレル男爵は諦めない。

 俺は今までずっと慎重に上手く立ち回ってきた。

 それに特殊な技能スキルがある。

 未来を見通せる俺に負けはない!

 キレル男爵はそう自分に言い聞かせると技能スキルを使用した。


「【未来視】」


 そして男爵は視た。

 周囲一帯に広がる闇を。

 こんな現象は今まで1度も視たことなどなかったため、キレル男爵の焦燥は更に強くなる。


 何が起こっている。何が起こっている。何が起こっている。

 そんな混乱の中でもキレル男爵が諦めることはない。

 とにかく考え続けることで今まで、伏魔殿のような貴族社会で生き残ってきたのだから。


「レクス・ガルヴィッシュ。お前は貴族殺しがどう言うことか理解しているのかね」

「ああ、理解しているつもりだ」


「ならば私を生かすべきだろうと思うがね」

「メリットはあるのか?」


「もちろんだとも。私は才能ある若者に出資することが出来る。君のやりたいことを支援しようじゃないか」

「お金の心配はいらないな。お金稼ぎの裏テク知ってるし」


 こいつは一体何を言っているんだ。

 キレル男爵の頭にその言葉が浮かぶ。

 意味がまるで理解できない上、レクスの態度が全く変わらないので焦燥感だけが募っていく。


「で、ではな……有力者とのパイプではどうだね? カルディア公を紹介しよう。貴族との繋がりを構築しておくと色々便利だと思うのだがね」

「カルディア公か。もうパイプはあるからいらないな」


 レクスの言葉に思わず耳を疑うキレル男爵。

 有り得ない。ハッタリだ。

 こんな平民の子供がそのような関係を持っているはずがない。

 そう考えるキレル男爵だが、一概に否定できないのも事実だ。

 レクスからは真実だと思わせられるナニカが感じられる。


「そんな関係があるとはな……」

「もうメリットとやらは出尽くしたのか?」


 うんざりして冷たく言い放つレクスに、更に焦るキレル男爵。


「い、いや! では私の騎士団に入らないかね? 君ほどの猛者なら大歓迎だとも!」

「今は平穏な学園生活を送りたいところだ。誰かさんに邪魔されたがな」


 言葉に詰まりながらもここで提案し続けなければ――考えただけでも恐ろしい。

 自分の目の前にいる子供は普通ではないとキレル男爵の直感が警告を告げている。


「ぐ……ではな……君に漆黒竜の力を与えようではないか! ガルダーム! できるのだろう?」

「恐らく無理だ。レクス・ガルヴィッシュからは漆黒なる力は感じるが憑代よりしろとしては不適格だ」


 これほどの器ならばと提案したものの、ガルダームにばっさりと斬って捨てられてしまう。


「だ、そうだが?」


 冷淡な口調でレクスが言い放つ。

 キレル男爵は足掻いているが、レクスとしてはマールに助けを求められた時点でどんな提案にも乗るつもりはなかった。


「クソッ……」


 流石の彼も悟る。

 と言うか既に悟っていたのだが足掻いていただけで、こうなっては現実を受け入れざるを得ない。


「であれば……死ね! 3rdマジック【貫電撃チェイン・ライトニング】!!」


 キレル男爵が前に突き出した手から烈光がほとばしる。

 直線状の敵を強力な雷撃で貫く魔法だ。


 流石の貫通力でレクスが展開していた魔力障壁が3枚破られる。

 だが――それだけだ。


「な、なんだと……? 私の【貫電撃チェイン・ライトニング】すら効かないと言うのか……?」


「テメーは俺を死ぬ気で攻撃した。と言うことは自分が殺されても仕方ないよな?」


 レクスがおもむろにと歩き出す。

 キレル男爵はここに至ってようやく逃げる決断をして身を翻した。

 こいつとまともに殺りあっても死ぬのは自分だと。


「逝け……【瞬歩】」


 一瞬で間合いを詰める技能スキルを使用したレクスは一気にキレル男爵を抜き去ると同時に黒刀を振るった。

 そしてそのままの勢いでガルダームにも斬りかかる。


「チッ……」


 ガルダームは右手に込めた大量の漆黒力でその斬撃を何とか止める。

 バチバチと凄まじい放電現象のようなものが起こり、漆黒の力が暴れ狂う。


 レクスは一撃で止まるはずもない。

 続けて黒刀を横薙ぎに払うと、ガルダームの結界はいとも容易く斬り裂かれ崩壊。三度、振るった攻撃はとうとうガルダームの体に傷を付けた。


「レクス・ガルヴィッシュ……貴様の名は覚えたぞ。よくぞわしに傷を負わせよったな……さらばだ」


 そう言い捨ててガルダームは転移魔法を使うと一瞬で姿を消した。


「まぁそう簡単にはれないか……キレル男爵! テメーはこれまでだ。マールは俺が連れていく。安心して死ぬんだな」


 キレル男爵はヴォルフラムと同様に、鋭い一閃で首を斬られており、まだ意識があった。


 クソクソクソクソクソ!

 私の人生が終わる。せっかく築き上げてきた物が無に帰すと言うのか!

 全てが上手くいっていたのに、こいつにさえ関わらなければ……。


 後悔してももう遅い。

 レクスは護るべき者は必ず護ると決めたのだから。


「じゃあな。さぁマール、家に帰ろう」


「うぼあぁ……」



 【未来視】で視た闇――これが――死か。



 キレル男爵の胴から首が床に転がり落ちた。

 目を見開いたその顔には悔しさが滲み出ていた。


 レクスが差し出した手を、恐る恐るマールが掴む。


「私のことは殺さないの……?」

「んな訳ないだろ? お前は俺に助けて欲しいと願った。何か事情があることくらいは分かる」


「信じるなんてお人好し過ぎるよ。私が嘘を言っているとは思わないの?」

「そうだったらホーリィ聖下にでも断罪してもらうよ」


「ふふ……」


 マールから笑みが零れる。

 こんなにも晴れやかな気持ちになれたのは、全ての重圧から解放されたからだろうか。

 レクスは何も聞こうとはしないが、後でしっかりと話そう。

 そうすべきだとマールは決心した。


「とっととズラかるか。貴族と司祭がりあったことにすればいい。マールも1人くらい持ってくれよ」

「ふふふ……こんな大きい人たちなんて運べないよ」


 そんな軽口を叩きながらレクスとマールは、カイン、ザルドゥ、ドラッガーを担ぎ上げてキレル男爵邸から無事に脱出を果たしたのであった。

次回、レクスは捕らえたザルドゥとドラッガーをどのように扱うのか……


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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