第30話 レクス、暴れる
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レクスの周囲に練りに練り込まれた魔力弾が、10、20、30……最早数えきれないほど出現した。
今まで研究に研究を重ねた上、磨きに磨き抜いてきた魔力操作により、生み出した貫通内部爆裂型の魔力弾である。
最初は攻撃対象に命中すると爆発するタイプだけであったが、後に貫通させる銃弾のようなタイプを生み出した。貫通タイプは防御魔法を展開されてフィールドができても、その貫通力でまるでガラス板を割るかのような高威力を発揮する
今回の魔力弾は攻撃対象の防御を貫き、体内で爆裂させて内部から肉体を破壊するえげつない威力を誇る。
「なッ!? しゃべれないのに何故だッ!? 太古の言語なしで……魔法か!?」
キレル男爵は驚愕で目を見開いて固まっているし、漆黒司祭たちからも焦りの感情が発せられる。唯一、動揺していないのはガルダームだが、その目からはいつもの余裕が消えていた。
「(GO!!)」
狭い部屋の中に数多の魔力弾が、五月雨に降り注いだ。
レクスは縛りつけられていた縄を鋭利に変形させた魔力で斬り裂き、自由を得ると猿轡を外す。
淡い緑色のの粒子が漂う中、動いているのはキレル男爵とガルダーム、漆黒司祭が1人だけ。残りは体を内部から破壊され爆散し、室内に血の雨を降らす。
ガルダームは結界を展開してその身を何とか守ったようだが、レクスの魔力弾によって破壊されてしまった。
レクスの魔力練成によって生み出される貫通力を舐めてはいけない。
「ようガルダーム。テメーが裏で動いてたのは知ってたが、このおっさんと繋がって何してたんだ? まぁ漆黒竜のことだよなぁ当然」
図星を突かれてガルダームの表情が強張った。
彼の頭の中では様々な考えが巡り巡っていた。
何故、わしの名を知っている?
ただの子供風情が知っていることではない。
漆黒竜の復活を目論んでいることを知っている?
何者だ、この子供は?
それにこの力の根源は……。
「おっさんだとッ!? 私によくもそのような口が利けたものだな! 下賤の身でありながら無礼であるぞ!」
ガルダームは考えの中断を余儀なくされて苛立ちながら、そんなことなどどうでも良いではないかと思わず呆れてしまう。
無論、レクスも同じことを思ったのだが。
「テメーら。今から殺される準備はOKか? 信じる神には祈ったか?」
「子供風情が、おい! お前ら、レクスを殺せ!」
レクスに挑発されたキレル男爵が、ヴォルフラムに命令する
流石に雇い主の言うことには逆らえないのか、しぶしぶと室内に入ってくるヴォルフラムとその一味。
表情からは、「せっかく捕まえたのに殺すのかよ」と言う思いが読み取れる。
顔にそう書いてあるから。
「キレル卿、殺すには惜しいかと思いますが?」
「そうは言ってもだな……チッ、マール、【眠神降臨】を使え!」
キレル男爵からの命令を受けても、依然としてマールは膝を抱えて顔を埋め、座り込んだまま反応を返さない。
「マール!! 裏切る気かッ! お前の母親がどうなってもいいのか?」
ピクリとマールの体が震えたのをレクスは見逃さなかった。
今の一言で脅されていると言うことも理解した。
彼女は敵ではない。
「マール、事情は知らんが、お前が何かに縛られてることは理解した。助けが必要なら遠慮なく言ってくれ。お前はもう俺の身内も同然なんだからな」
「身内だと? ふッ……こいつは私の血を受け継いでいる。お前たちがやっていることは家族ごっこなのだよ」
「氏より育ちって言うだろ? 大切な仲間が親から虐待を受けているのを見過ごせってか? 親ならば何をやってもいいのか? 子供は親を選べないし、どうしても情が残ってしまって言うがままになってしまうことがあるが、親は子供を自分の思うがままに染め上げることができるからな。さぞかし都合の良い存在なんだろうさ。お前にとってはな。俺はマールを助けられる力を持っている。どうやらお前はマールを駒の1つとしてしか見ていないようだが、本当に必要としている大事な存在だと言えるのか? それならば全力で阻止するのが毒を持っていようが親ってもんだと思うが?」
最初はレクスにとってマールの存在はそれほど大きなものではなかった。
だがミレアの友人となり、ギルドハウスにも居つくようになってそれなりに交流してきた。マールの身に何かが起こればミレアが悲しむのは目に見えているし、例え敵対したとしても脅されているとなれば話は別だ。
「おい、マールよ。誰がここまでお前を育ててやったと思っている? 私はずっとお前を大事にしてきた。それは理解しているな?」
「そんな言葉に耳を傾ける必要なんざねーな。もう1度言うが俺は事情は知らん。だがマールのことは信じている。そんな毒親にいつまでも縛られ続ける気か? 全て吐き出す必要はねー。一言があれば俺は全力でお前の敵を排除するだろう」
誰もが動くことができずにいた。
先程のレクスの尋常ではない攻撃を見てしまった。
ヴォルフラムたちも命令に逆らう気はないとは言え、そう簡単に死ぬ選択肢を取るつもりもない。マールが【眠神降臨】さえ使えば、無傷で勝てるのに敢えて動く理由がないのだ。
決して短くない時間が流れる。
そして膝を抱えてうずくまるマールの目から涙が零れた。
小さな言葉と共に。
「レクスくん……助けて……」
「よく言えました」
レクスの笑みが深くなる。
速攻重視――
瞬時に魔力を練ると、レクスの周囲にまたもや大量の魔力弾が出現した。
そして降り注ぐ――淡い緑色の魔力弾の雨が。
最初に犠牲となったのは、キレル男爵の前に立ちはだかっていたヴォルフラムの一味。
魔力を纏って防御することもできなければ、身体強化することもできない。ましてや防御障壁を出すなどできるはずもなく。
バタバタとゴロツキたちが倒れ伏し、一気にその数を減らす。
ヴォルフラムとキレル男爵は何とか逃れ、ガルダームは結界で相殺し、暗黒司祭は同じく結界を展開するも簡単に貫かれて体に風穴が空く。
レクスとしては太古の言語を使った魔法として魔力を使いたいのだが、今はいち早い殲滅が先決。
「3rdマジック【轟火撃】!!」
「何ッ!?」
速攻でガルダームを殺そうとしていたレクスの耳に、太古の言語が飛び込んでくる。
魔法を放ったのは――キレル男爵。
「チィッ!」
避けられる間合いだが、そうしてしまえば背後にいる4人に魔法が直撃してしまう。迷うことなく魔力障壁を何重にも展開し全員を包み込む。
着弾の瞬間、爆発による轟音が鳴り響いた。
「なんだと!?」
自慢の第3位階魔法を軽々と防ぎきられたせいで、今度はキレル男爵が驚愕の声を上げた。レクスの方は、彼が魔法を使えるとは想定していなかったが、この程度であれば魔力障壁でどうとでもなる。
「【ネビュラス】」
聞き慣れない声にレクスが反応する。
これは魔法ではなく――漆黒竜の力を借りた漆黒術。
漆黒術はガルダームを始めとした漆黒教団の者くらいしか使い手がいない。
床から出現した数匹の漆黒の蛇がレクスに絡みつこうとするが、あっさりと魔力障壁に阻まれる。
漆黒司祭は信じられない光景を目にして驚愕の叫び声を上げる。
「我が漆黒術が通じないなど!! 信じられん!!」
「鬱陶しいッ!! 6thマジック【重弾丸】!」
特大の魔力弾が漆黒司祭の胸に直撃する。
上半身を粉砕され、残った半身が衝撃で吹き飛んだ。
それを隣で目撃したガルダームの額からは冷や汗が止まらない。
レクスが放った魔法は恐らく、自分を狙っていた。
ガルダームはそう直感し、味わったことのないほどの戦慄を覚える。
半身を消滅させるほどの出力の魔法など結界で防げるとは思えなかった。
これまで余裕の態度を貫き続けてきた彼が初めて抱いた感情――焦燥。
その時、間近にいたヴォルフラムが大剣をレクス目がけて振り下ろした。
予測していたレクスは軽々と避けるものの、得物がないのでどうしたものかと考えていた。
背後の4人を護るにも攻撃するにも剣があった方がよい。
剣を持っていれば、今頃全員をあの世に送っていただろう。
残るは漆黒司教ガルダーム、キレル男爵、ヴォルフラムと数人だ。
レクスは一気に勝負を決めるべく、技能を発動した。
次回、レクスとキレル男爵の戦いの行方は?
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