第14話 王立学園魔導科
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本日は13時、20時の2回更新です。
長いようで短かった春休みも終わり、いよいよ登校する日がやってきた。
基本的に授業は座学と実技で行われる。
小等部は平民のみが通う前提なのでそれほどレベルが高いとは言えないが、グラエキア王国の方針としては国民にそれなりの教養を与えるべく動いていると言えるだろう。知識や教養を身に付けさせて人材を育成するのか、情報を与えず煽動や操作しやすい国民のままでいさせるのか、大国のグラエキア王国としては前者を選んだと言うことだ。
座学では王国史、世界史、算術、魔導科学、倫理学、神学、国語、太古の言語、薬学、魔物学などを学ぶ。もちろん小等部レベルの内容などたかが知れているが、それでも国力の底上げになっているであろうことは想像に難くない。
実技はそのままの意味だ。
魔導科で言えば、魔法実演、魔法陣描画、魔力練成、魔力操作、魔力感知、対人戦などが挙げられる。
朝、いつも通り寮を出て食堂へと向かうと朝食を摂りに来た生徒たちが列を為していた。
とは言え、まだまだその数は少ない。
寮ではなく実家から直接通っている生徒もいるせいもあるのだろう。
レクスの朝は早く、村では6の鐘が鳴る頃には起床して剣の朝練していたので慣れている。ミレアが寝坊助なので迎えに行ってやれば良かったかなと思ったが気にしないことにしておこう。カウンターで朝食を受け取ると場所など気にせず空いていた席に座り硬いパンに手を伸ばした。
「(想像通り硬ぇ……)」
仕方ないので定石通りに野菜のスープにひたして食べることにする。
日本の柔らかく甘いパンが恋しくなる。
そんなことをぼんやりと考えながらもさっさと食事を終わらせて席を立つレクス。
「(さて、お次は教科書の確認だな)」
この世界でも魔導具を使った印刷技術があるらしいのだが本はまだまだ貴重品なようで平民が購入するには高過ぎる。授業は主に教師が黒板に内容を記載して生徒は貸し出された教科書を参考にしつつ、小さな黒板に文字を書いて勉強すると言った具合だ。
教科書は教室に置きっぱなしになっているため、手ぶらで本校舎へと向かう。
思った通りまだ誰もいるはずもなく、レクスはこんなことなら素振りでもしてから登校すればよかったなと自嘲気味に考えた。
迷うことなく3年Dクラスの教室に入ると自分の席に座ってそう厚くもない教科書を開く。パラパラと軽く目を通していくが、特に目につく情報はない。
「知っている知識ばかりだな……ちょっと期待してたのに」
中には誇張されたり逆に隠されたりしているような記述はあるが、基本的には問題なく思える。ゲームをやり込んだ上に関連書籍を読み漁っていたのだから当然とも言える。
しかし何処かにあるはずなのだ。
どこにも記載されていない情報が。
情報は力だ。この先の展開を知っていてもレクスがこの世界にかかわる以上、歴史は変わってしまう。まだまだこの世界に愛着を持てたとは言えないかも知れないが、巻き込まれたとは言え付喪神なる存在に頼られたのだから役には立ってあげたいと思っているし、護りたい人たちもできてしまった。
「やれることをやろう。後悔しないように……」
そう呟いたレクスは始業までの時間を一番重要な知識になるであろう太古の言語の教科書を読み進めることに決めた。
こればかりは日本語ではなく、新たに覚える必要がある新言語であったからだ。
日本ので開発されたゲームなのでもちろん魔法や剣技も日本語でテキスト表示されているが、設定上は別の言語とされている。
つまり太古の言語でなければ発動しないため学習は必須と言って良い。
更に言えば魔法はや剣技はその名前を言うだけでも発動するが、それだけでなくしっかりと意味のある詠唱をするとその効果は桁違いに跳ね上がる。
そうこうしている内に生徒たちが登校してきて始業の時間となった。
教室に入ってレクスが教科書を読んでいるのを見た生徒の大半が驚きで表情を歪めていたのが面白かった。
「(ってか太古の言語って漢字とカタカナじゃん……開発陣め、諦めたな?)」
かなりカクカクした文字になっているがどう見ても漢字とカタカナである。
これが魔法陣に描写されるのだ。
例として魔法陣の図解が描かれれているが、見た感じは全部がそうである訳ではなく魔法名と詠唱部分が漢字とカタカナになっているようだ。
その他の部分はぱっと見た感じ太古の言語なのかも分からない。
単なる装飾と言う可能性すらあるだろう。
「(まぁ見た感じはかっこいいな)」
魔法陣は男のロマンである。
虚空に描画されるそれを目にすれば誰もがその美しさに刮目するであろう。
ガラッとドアが開きやる気のなさそうな男が教室に入ってきた。
無精髭を生やしており、どこかだらしなさを感じさせる。
彼は教壇の前までくると全体を見渡して言った。
「おう。欠席者はいないようだな。今年も俺が担任だ。よろしく頼む。お前らも3年だ。中等部進学を視野に入れている奴は頑張るんだな。では学級長」
「全員、起立! 礼!」
『おはようございます!』
全員が学級長に従って担任教師――ガルム・ローランに挨拶する。
レクスの記憶によればローラン先生は暗黒導士のはずだ。
王立学園小等部では基本的に担任教師が全ての教科を担当するので彼はこう見えてそれなりの知識を広く修めていると言えるだろう。
「あー今日の連絡事項だが、重要なことが1つある。王都の近くにCランクの魔物メラルガンドが出現した。幸いにも討伐済みなので心配はいらんが王都の外には出ないようにしろ」
そのメラルガンドは件の個体だろう。
ガルガンダたちと共に何とか倒すことに成功したのだが、すぐに傭兵ギルドへ報告が上がったらしい。大都市の周辺、特に王都付近は頻繁に魔物討伐が行われているため地方に比べて安全である。そのためCランクの魔物の出現に王都の上層部には緊張が走っていると言う。
「では1限目は神学だな。教科書を開け」
神学と言えば古代神、漆黒神、古代竜、漆黒竜などの信仰と言ったところだ。
世界を作ったとされるのは古代神だが、かつて世界が漆黒竜により滅亡の危機に瀕した時に実際に救世主となったのは聖イドラと呼ばれる人物が召喚した古代竜たちの存在であった。
「聖イドラが12使徒に古代竜が姿を変えた宝珠を渡してその力と聖なる武器を使えるようにしたことは知っていると思うが、無事、漆黒竜を倒した12使徒は世界の各地に散らばった。このグラエキア王国はそのうちの7使徒が建国した国家だ」
ローランは生徒たちの様子を確認しながら説明を続ける。
「我が国の7使徒はそれぞれカルナック王家、カルディア公爵家、ローグ公爵家、ダイダロス公爵家、アドラン公爵家、イグニス公爵家、ファドラ公爵家だ。だから王国は古代竜信仰が非常に強い。そもそも王家が12使徒の盟主なのだからな」
レクスは真剣に聞いているが、生徒の中には既に夢の中に入り込んだ者もいるようだ。
ローランは特に注意するでもなく流れるように話し続ける。
ここにいるのは平民だけなので興味がない者も多いのだろう。
いちいち注意していてはキリが無い……と言うよりローランの性格のせいかも知れないが。
「残りの5使徒も地方で新たに国家を建設した。ジャグラート王国、ドレスデン連合王国のガリオン王家、ランディア王国、ベロムス帝國、グロスター王国だな」
その後もつらつらと説明が続くが徹底解説ガイドを隅々まで読みつくしたレクスにとっては知っている内容である。
とは言え情報の齟齬があってはならないためしっかりと耳を傾けていた。
非常に興味深い。
ここで生徒が手を挙げて質問した。
中々熱心に聞いている者もいるようだ。
内容は聖イドラに関してである。
「聖イドラのことは以前にも話したと思うが、漆黒竜を崇めるガーレ帝國を滅ぼしたはいいが彼は古代神を否定し激しく批難した。それに激怒した聖ガルディア市国……通称、西方教会だな。そこに捕らえられ処刑されたと言われている」
「西方教会は古代神崇拝なんですね?」
「その通りだ。その時はグラエキア王国成立前だったからな。その処刑場が現在の聖地リベラとなっている。皮肉なことにな」
その後もローランの巧みな話術のお陰か退屈することなかった。
今日は魔法陣描画、魔力練成、算術の授業があって1日目は何事もなく授業を終えることができた。算術などは日本人の特性である暗算などを駆使してその計算能力を大いに発揮してやると、周囲のレクスへの見る目が少し変わったようだ。
授業は問題なさそうなので後は剣の修行だ。
せっかく剣王レイリアに教わるのだからその時間は無駄にはできないなとレクスは思ったのであった。
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