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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第28話 レクス、まさかの……

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

「ザルドゥさん、小型の荷馬車手配してきました」


 カインが御者台で馬車を操り少し寂れた裏路地に乗りつけ、大きな声で呼びかけた。ここであってたよなとカインが思い始めた頃、ようやく目的の人物が姿を現した。大きな麻袋を担いだザルドゥとドラッガーが建物の中から出てきたのだ。


「おう、カイン。ご苦労さん。目標は捕らえたぜ。すぐに出るぞ」

「では行くか……」


 2人は麻袋を荷馬車に詰め込むと、ドラッガーも共に乗り込んだ。

 ザルドゥは御者台に来てカインの隣に腰を降ろす。

 皆が乗ったことを確認したカインはザルドゥに顔を向けると彼が頷く。


「どうだ? 簡単なお仕事だろ? これだけでグラン大金貨8枚だぜ?」

「確かに……本当に運ぶだけでいいんでしょうか?」

「ああ、例の場所で引き渡しだ。それで終了さ。受けて良かったろ?」


 美味し過ぎる依頼にカインは少し納得がいっていなかったが、ザルドゥたちの言葉に、そう言う割り切りも必要かと考えて誘いに乗り依頼を受けたのだ。

 浮かない顔をするカインにザルドゥが気楽そうに笑いながら話し掛けている。


 荷馬車が向かう先は、スラム街にある空き倉庫。

 そこで依頼人が待っていると言う話なのだが、カインとしては場所が場所だけにそれさえも怪しいと思われてならなかった。何度も躊躇したが、どうしても気になってしまった彼はザルドゥに思い切って問い掛けた。


「あ、あの……引き渡し場所がスラム街って怪しいと思いませんか……?」

「ああ、もしかしたら怪しいのかもな。でもそれがどうした? オレたちゃ探求者だぜ。やってナンボの何でも屋よ」


 いつも明るい口調のザルドゥだが、今の言葉は何処か投げやりな感じに聞こえた。カインはチラリと横目で様子を窺うが、ザルドゥは顎に手を当てて遠い目をしている。


 そんな彼も口数が減り、引き渡し場所への道案内をするのみになる。

 当然、いつも無愛想なドラッガーはもうずっと無言を貫いている。


「ああ、あそこだ、あそこ。手前から3番目の倉庫に入りな。荷馬車ごとでいい」


 ザルドゥが目的地を指差してカインに指示を出した。

 言う通りに馬を操り中へと入ると、聞いていたようにガランとしている。

 まだ依頼人は到着していないようで、カインは何故かホッとしていた。

 心が騒めいてまるで悪いことをしているかのような心境になっていたからだ。

 そんな心の内が態度に出ていたのか、ザルドゥが安心させるような笑みを見せてカインの背中を軽く叩く。


「そんな顔すんなって。別に消されたりする訳じゃないし、もし襲われても反撃して殺しちまえばいい。オレたちはゴールド級探求者なんだ。心配するなよ」

られはせん……られはせんぞ」


 とても頼もしい言葉なのだが、そんなに危険な仕事なのかと改めて考えてしまうカイン。


「あの……結局、麻袋の中身って何なんですか?」

「ん? 気になるのか……?」

「気にせんことだ」


 そのように思わせぶりなことを言われては、尚更のこと気になってしまう。


 丁度そこへ1台の馬車がひづめの音を響かせてゆっくりと入ってきた。

 もう直に暗くなろうかと言う時間帯だ。

 大きめの荷台から降りてきたのは、複数の探求者風の姿をした者たち。

 そして最後に1人の少女が姿を見せる。

 予想だにしていなかった人物の登場に、カインは動揺して頭が真っ白になる。


「マ、マール!?」


 気が付くとカインは思わず叫んでいた。

 その声を聞いてマールも驚愕した表情で固まっている。


「うるせぇぞ! ああ!? 知り合いか? だがな……取り引きでは迂闊に名前は言わねぇ約束だろうがよ」

「ヴォルフラムの旦那、すまねぇな。こいつも初仕事だったもんだから許してやってくれ」


 ヴォルフラムのドスを効かせた声がカインを威圧するが、ザルドゥが慌てて止めに入った。だが収まりがつかないのか、カインの目の前にいる鬼人族の男は因縁を付けるのを止めようとしない。


「おい、ザルドゥよぉ。これはお前さんだから回してやった仕事なんだぜ? 信用ってのはな。一瞬で崩れ去るってことくらい分かってんだろうがよ」

 

 低い声の中には怒りのような感情が混じっている。

 流石のザルドゥも気圧されているようで引きつった表情になっていた。


「すまないな。許してくれ」

「チッ……ドラッガーか。まぁいい。取り敢えずブツを確認させろ。金はその後だ」


 謝ってきたのが龍人のドラッガーと言うこともあってヴォルフラムも仕方なく引き下がる。ザルドゥはふうッと息を吐いて、ドラッガーと共に荷台から麻袋を取り出すと、縛っていた紐を解いて中を見せた。


「おい。間違いないか確認しろ」

「は、はい……」


 命令されたマールが袋の中を恐る恐る覗き込むと、青ざめた顔でヴォルフラムの方に向き直り首を縦に振った。

 その様子が気になったカインは、隙を見て麻袋の中に目をやった。


「!? レクスか!?」


 信じられない物が目に飛び込んできたのだから驚くのも無理もない話だ。

 しかし2度目の大声に、ヴォルフラムの怒りが頂点に達したらしく、カインの襟を掴んで絞り上げる。


「うるせぇって言ったよなぁ……ってかお前の知り合いか?」


 そう言ってからザルドゥを睨みつけるヴォルフラム。

 そして再び視線をカインに戻すと襟を離して突き飛ばした。


「ザルドゥよぉ、お前さんも鬼畜なことをするもんだ……ターゲットのことを教えなかったのか? はッ……まぁ俺には関係ねぇがな」


「……いい稼ぎになるんだ。やらねぇ理由はねぇよ。それに人間との関係なんざそんなもんだろうが。探求者は稼いでナンボだぜ」


 開き直ってそう告げるザルドゥだが、気まずげにそっぽを向いてしまった。

 更にヴォルフラムはドラッガーにも目を向けた。

 「お前はどうなんだ?」と問い掛けるかのような目をしている。


「……」


 答えは――沈黙。

 しばらくドラッガーを見ていたヴォルフラムであったが、興味を失ったのか、レクスが入っている麻袋に目を戻す。



 その瞬間だった――



「どーーーーーーん!!」


 大音声が倉庫内に木霊すると同時に、麻袋が千切れ飛ぶ。

 そこには大きく伸びをしたレクスの姿。

 どうしたのかと言うと、もちろん魔力の力押し。

 魔力を全身から爆発的に放出して脱出したと言う訳だ。


「あーやっとかよ。怪しさ花丸満天パパ状態だったぜ。ザルドゥさんよ。テメーは何処かの大根役者か何かか? あんなもんでこの俺が捕らえられる訳ねーだろ。理解できりゅ?」


 起きて早々、レクスがザルドゥを煽る煽る。

 図星を突かれたザルドゥだったが、それよりもどうしてレクスの意識が戻っているのかと言う疑問の方が先にくる。


「な……あれは数日は昏睡状態にできるもんなんだぞ……? どうして無事でいられるんだ……?」


 衝撃を受けて動けないザルドゥがいつもの様子とは全く違う苦々しい表情と口調で言葉を絞り出した。


 それには答えず、レクスは状況把握のために周囲に目を配る。

 ドラッガーは剣を抜き、臨戦態勢に入っているし、ヴォルフラムとその一味もまた同様だ。


 何故か驚いているカインとマールの姿があるが、そこは後で問い質せばよい話。

 特にマールは諜報員のようなので何とか情報を引き出したいとレクスは考えた。


「やる気か? 態々捕まえたのに殺すの? そりゃねーよな。依頼主が黙っていないだろうし」


「捕らえろ」


 ヴォルフラムが低い声で部下に命令を下したが、そこに動揺はないようだ。

 魔法を使うまでもないので、レクスは魔力を練り、得物を片手に襲い掛かってきたヴォルフラム一味に向けて解き放つ。

 複数の練りに練り込まれた魔力弾が、狙いを違えることなく着弾すると、彼らの体に風穴を空け、あるいは爆散して肉が抉れて次々と地面に倒れ伏す。


 初撃であっと言う間にその数を大きく減らした誘拐犯。


 衝撃を受けたドラッガーは慌てて急激なダッシュを掛け、レクスに肉薄すると、大剣を叩きつけるように振り下ろす。

 だがそんな大振りが当たるはずもなく、レクスは余裕で躱して魔法を使った。


「6thマジック【重弾丸マグナム】」


 至近距離から放たれた破壊力に特化した一撃が、ドラッガーの右肩を吹き飛ばす。かなりの堅さを誇る龍人族であっても、免れることのできない威力。


 ザルドゥもようやく目の前にいる子供程度が凄まじい力を持っていると認識してようで、抜剣して走り出す。


「クソがッ……まさかここまでとはッ!!」


 心の内が思わず口を吐いて出たのか、苛立ちの混じった声を上げるザルドゥ。

 ヴォルフラムも大剣を既に抜いており、レクスの背後に回ると挟撃の形を取る。


 2人をしてレクスを押さえようとするが、次々と繰り出される剣撃は見切られて躱され続ける。鋭い刺突はレクスの革鎧にすら触れることはなく、払い斬ってもバックステップで回避される。


 とにかく何をどうしても2人の攻撃は絶望なまでに当たらなかった。


「チッ当たらねぇ!! ザルドゥ! こいつは何者だッ!?」

「強いガキだ! だが見誤っていた! 騙された! こいつぁバケモンだぜ!」


 ヴォルフラムの問いに対してザルドゥが自分の認識を伝えるが、レクスからしてみれば甘い。


 パンケーキに生クリームをメガ盛りにしてシロップかけまくるより甘い。


「おい、ザルドゥ。俺も舐められたもんだな。テメーなんぞに見極められるものかよッ!」


 レクスがブチキレモードに入っているが、信頼していた者だっただけに裏切られたショックは大きい。ザルドゥが袈裟斬りのモーションに入った瞬間、レクスの後ろ回し蹴りがその腹に決まる。


 大きく吹っ飛ばされたザルドゥが倉庫内に積み上げられていた木箱に頭から突っ込み、見事なまでに木端微塵に粉砕されてしまった。


「カイン! マール!」


 レクスの未だかつてない怒りの籠った言葉が、彼らの心に突き刺さり、その体を震わせる。


「後で詳しく話を聞かせてもらおうか」

「レ、レク――」

「ごちゃごちゃとうるせぇ! ガキが……お前は殺すつもりはない。捕らえなければならない仕事だからな……」

「あー? 殺せないの間違いじゃねーのか? おっさん」


 カインの言葉は発する前に、ヴォルフラムの怒鳴り声によって掻き消された。

 それを聞いたレクスが余裕の態度で挑発する。


「おい。マール、アレを使え!」


 完全に追い詰めた有利な状況。

 ザルドゥは木箱に頭から突っ込んでピクリとも動かないし、ドラッガーも抉れた右肩を押さえてうずくまっている。

 後に残るヴォルフラム一味は恐怖で顔が引きつっており動けない。

 レクスは彼の言葉がハッタリだと考えて全員を消すことに決める。

 事実、マールは震えて動こうとはしない。

 そんな中、ヴォルフラムが怒りの孕んだ低い声で意味ありげな言葉を使って恫喝する。


「マールよぉ……意味は理解してんだろうなぁ……」


 ビクリと肩を震わせて反応したのはマール。

 少しの間ガタガタと震えていた彼女だったが、覚悟を決めたのか、太古の言語(ラング・オリジン)を口から吐き出した。


 虚空に魔法陣が描かれて、展開する。


「5thマジック【眠神降臨ヒュプノス】!」


 何ッ――


 完全に予想外の魔法にレクスの反応が遅れる。


「(第5位階……付与……魔法……ぬかった――)」


 レクスの意識が途切れ途切れとなり、徐々に消失してゆく。


 第5位階魔法【眠神降臨ヒュプノス】――強力な睡眠の付与魔法によって。

次回、レクスが運命的な出会いを果たす。


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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