第25話 打つべき手は
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本日は18時30分の1回更新です。
今日は温暖で平穏な休日。
レクスはギルドハウスに来てヤンたちとのんびり過ごしていた。
ちなみにセリアとホーリィも一緒である。
ここのところ討伐続きで碌に休んだ気がしなかったので、こんな日に寮に閉じこもるのも嫌だったのである。
居心地の良いギルドハウスはレクスの心のオアシスであった。
相変わらずシャルに出迎えられたのだが、その時に彼女から何者かがレクスを監視している旨を伝えられた。レクスとしては心当たりがあり過ぎて全く分からないと言うのが本当のところだ。
まずはイヴェール伯爵家でも相対した神聖ルナリア帝國。
他には恐らくアングレス教会やケルミナス伯爵。
シャルが怪しいと教えてくれたのはミレアと友達になったマールである。
他にも大長老衆筆頭である傲慢のスペルビアやアングレス教会の神殿騎士団、ダイダロス公爵領の南西に位置しボーア海を臨む場所に独自の領土を持つガルサダス枢機卿などの存在もあるのだが、当然の如くレクスは知らない。
「セリアーあのさ」
「え、なーに?」
レクスが果実水を飲みながら世間話でもするかのようにセリアに話し掛けると、彼女もレクスの方にちらりと視線を向けて返事をした。
「ケルミナス伯爵のことなんだけど……確か領都の屋敷が襲われたんだよな?」
「ええ、そうみたいね。私もそう聞いたわ」
ケルミナス伯爵領で邸宅が襲撃された件は竜神裁判のこともあり、貴族の多くが知るところとなった。因縁の深いセリアの耳にも当然入っている。
「でも死んでないんだよね?」
「王都の貴族街で見たって情報があるわ……お父様たちも目を離さないようにしてるみたい」
「結局、奪爵されたんだっけ?」
「ええ、そうだと思うんだけど正式な発表がないらしいのよね。少なくとも今は貴族じゃないと思うんだけど分からないってお母様が……何かあった?」
レクスの意図が読めずにセリアが不思議な顔をして尋ねてくる。
「随分と素直になったもんだと思ってさ。それに恐らくだけどまだ俺に執着してるみたいなんだよ」
「えっそうなの!? 何かされたの!?」
驚いて心配するセリアには否定してみせたレクスだが、嫌な予感をひしひしと感じていることは確かであった。
「いんやー? されるとしたら今からじゃないかなぁ……」
「あらぁ? よく分かってるじゃない。あなたはぁ、とてもぉ、目立つのぉ……」
何となくそんな気がして言葉に出してみたらホーリィが釣れてしまった。
「うーん。そんなに目立つかな?」
「見る者が見れば何かを感じるはずよぉ? あたしがあなたに付いてるのも何かあると思ったからだしぃ……他にもたくさんのお偉いさんから注目されてるみたいだしねぇ」
レクスとしてはホーリィが何故、自分に纏わりつくのかが疑問だったので真実を聞けて驚くと同時に喜んだ。
「え、そうなん?」
「聖下、確かにレクスは目立ってると思いますけど、そんなに凄いのですか?」
2人の質問にこくこくと頷きながらホーリィは事もなげに告げる。
「レクスの力の根源を知りたがってるのよぉ。皆、この動乱で何か切り札を持ちたがってるって訳。後は邪魔だから消そうとしているのかも知れないわねぇ……」
「レクスが殺されちゃうってことですか!?」
ホーリィの物騒な言葉にセリアがレクスの身を案じて動揺する。
当のレクスは自分が1番、自身の力の根源について知りたいよと内心考えてしまう。何しろ自分が何者なのかも分からないから特にそう思うのだ。
「大いにあり得る話だと思うけどぉ?」
「はわわ……レクスどうしよう……?」
まるで自分のことのように心配してくれるセリアの姿を見るとレクスは心の底から癒される気がした。
「俺だけなら何とかなる気はするんだけどな。正直、周囲の人たちに手を出されると何もできないと思う」
個人としての武力だけなら勝てずとも負けない戦いはできるとレクスは考えているが、権威や権力によって周囲が危険に晒されると護る手段がないのだ。
「どうする気かしらぁ? 私としてはぁ、あなたに死んで欲しくはないわねぇ」
「取り敢えずは権力者とのパイプを持たないとですね。一応はカルディア公とバルバストル侯爵辺りの庇護を得ようと考えてますが……後は考えられるとしたらファドラ公ですかね。更に欲を言えば大長老衆の誰かとか」
レクスがあまりにも多くの人物の名を出したので、ホーリィが思わず噴き出した。
「あなた本当に強欲ねぇ……くくく……あはははは! けっさくぅ!!」
「ホーリィ聖下にもお願いしたいんですが」
更なる追撃にホーリィがまたもや豪快に笑い出す。
「あはははは! わ……私は別に構わないわよぉ……ふふふ……面白い子ねぇ。それに平然と大長老衆の名前が出てくる辺り、あなたらしくていいわぁ……でもそれよりどうしてファドラ公の名前が出たのか気になるんだけどぉ?」
「これから王国だけの内乱から世界規模の動乱になると思うんですよね。ファドラ公の名前を出したのは今の6公爵家の中で最もまともそうな使徒だからです」
これはレクスの嘘である。
真実がひと摘みほど入っているが。
本当のところは現在行われているジャグラート王国懲罰戦争で起こるロイナス王太子暗殺に絡んでいない唯一の使徒がファドラ公だからである。
そしてファドラ公の公子たちがストーリーに大きく関わってくるせいでもある。
「ふぅん……よく分からないけどぉ世界が荒れるのだけは理解できるわぁ。もしかしたら面白いものが見れそうねぇ」
「ねぇ、レクス。王国の内乱って何? 何か起こるの? 今の武力蜂起だけじゃないの?」
不安げな表情で問い掛けるセリアにレクスはどう説明したものかと考える。
ホーリィに構い過ぎて少ししゃべり過ぎたかと反省するレクス。
「内乱になりそうって話だよ。別に決まった話じゃない。ここには色んな情報が集まって来るからさ。何となく分かるんだよ」
「そ、そう……? それならいいんだけど……」
レクスの話を聞いてもなお、不安そうな表情は変わらない。
元々正義感が強い上に、王国貴族の令嬢なのだからこの国の行く末が気になるのは当然の話だろう。
「ロードス子爵家も派閥に入れとは言わないけど、カルディア公とは親しくしておいた方がいい。念の為にね。良い人か悪い人かはともかくやっぱり公爵家筆頭の力は凄いと思うよ」
「分かったわ……お父様たちにも話してみる」
セリアは納得した様子で頷いて見せたが、まだ何処か神妙な表情をしている。
何か気にかかることでもあるのかも知れないと思ったレクスは単刀直入に聞いてみることにした。
「何か気になる?」
「いいえ……別に何でもないわ」
否定するセリアだがいつもと違って歯切れが悪いので、敢えて突っ込んで聞いてみる。
「えーホントに? 相談があるなら聞くけど?」
「ないったらないの! レクスのバカ! もう知らない!」
そう言ってプイッとそっぽを向いてしまった。
本気で怒っているようではないのでホッとしたレクスであったが、彼女は頑固なところがあるためそっとしておくことに。
「まぁそれは置いといて……ホーリィ聖下、ちょいと聞きたいんだけどいいかな?」
「何よぉ? ずっといちゃついてなさいよ」
この亜神、毎回いちゃついてるっていちゃもん付けてくんのな。
そんなことを考えつつレクスが小声で話し掛ける。
「あのさ。マールのことなんだけど……」
「何ぃ? ハーレム要員にでもしたいのかしらぁ?」
とてつもなくやる気も聞く気もなさそうな態度で寝ぼけたを言われてしまった。
「んなこと言ってねーよ! いやね? シャルから忠告されたんだけど、彼女の素性って分かるか?」
「へぇ……シャルは流石ねぇ。それに比べてこの鈍感男と言ったら……」
最早、亜神とは思えないほどにやさぐれた言動だ。
これもう現代日本人だろと思いつつレクスは何とか宥めすかす。
「いやいやいや、俺も怪しいなと思ってたんだよ。何か気付いたことはない?」
「そんな意味で言ったんじゃないんだけどぉ……。まぁそうねぇ……何処かの諜報員じゃないかしら? あなたの言動にいつも注意を払ってる感じだしぃ……」
「そうか……尾行でもしてみるか……?」
周囲を嗅ぎまわる者は速めに潰したい。
もしくは把握だけでもしておきたいところだが――
「いや下手に接触か潰すかして黒幕に悟らせない方がいいのか……」
レクスはそう小声で呟きつつ、今後について考えを巡らせるのであった。
次回、レクスも色々な人か狙われるようになった。レクス危機。
ありがとうございました。
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明日は19時の1回更新です。




