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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第24話 レクスとガイネル

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は19時の1回更新です。

 レクスはずっと気になっていたガイネルの元を訪ねてみることに決めた。


 中等部3年のどのクラスかは知らなかったが、恐らくはSクラスではないかと想像して足を運ぶ。上級生のクラスを覗き込むのは少しばかり気が引けたレックスだったが、それ以上にガイネルの精神状態が気になるので思い切って教室内を窺う。


 ガイネルの精神状態が心配と言っても、ゲームでは普通にこれから起こる双龍戦争ドラグニク・ウォーの裏でしっかり戦いを続けていた。

 だが、ここは現実となった世界――何がどうのような結果に繋がるのか分からない。


 予想もつかない展開になって混乱カオスが加速する可能性すらある。


 レクスが不審な様子で教室の引き戸にへばりつき、視線を彷徨わせていると――いた。


 教室の窓際の後方席で、1人座り片肘をついてボンヤリと外の風景を眺めている。少し躊躇われたが、レクスは覚悟を決めて教室に入るとガイネルに近づいて行く。


 誰かが近づく気配を感じたガイネルが振り返った。


「レクス……か」

「ああ、調子はどうだ、ガイネル」


 もっと気の利いたことが言えただろうとレクスは後悔するが、もう遅い。

 ガイネルは座ったまま体をレクスの方へ向けて窓際の壁に寄しかかりながら渇いた笑いを漏らす。


「ははッ……気分は最悪さ。僕のせいで討伐隊は大打撃を受けて、貴族子女の中にも犠牲者が出た。それにシグムントたちもどうなったのか……」

「お前のせいではないと思うけどな。俺も自分の無力さを思い知ったところだ」


「パスカルを殺すべきだったのかも悩んでいる」

「仕方がないことだ。彼女は殺し過ぎた。それにあの話は流石に誰も知らないことだ。胸糞が悪いのは間違いないけどな……」


 レクスは知っている。

 結果的に王国自体は滅ぶが、カルナック王家の血脈は残ると言うことを。

 それに国王のヘイヴォルはもうかなりの高齢でもうじき死ぬことになるはず。

 誰も彼を断罪することなどできないだろう。

 それにヘイヴォルの過去の蛮行を知る者のほとんどが現在この世にいない。


「この国は本当に必要なのだろうか?……いや失言だった。忘れてくれ」

「どうだろうな。国民が判断を下すんじゃないか? それが正しいのかはさて置き」


 ガイネルの貴族としての立場から考えると王家を護り国家を体制を維持することが正義だろう。

 現代を知るレクスとしては国民が国の行く末を決めると知っているが、この世界の人々はまだまだ未成熟だ。とは言え前世でさえ、情報に惑わされてまともな判断ができる国民など少なかったのだ。

 この世界の者を笑うことなどできない。


「パスカルの件で俺は人間の、いやこの世界での"血"に対する執着を見た気がする」

「……? 貴族は血統を重んじる。穢れた血は忌避されるものだ」


 ガイネルはレクスが態々『この世界の』と言い直したことに違和感を覚えた。

 一方のレクスはレクスで血統を重んじ、穢れを嫌うのは別にこの世界に限ったことでもなく、地球の歴史上でも普通に存在する話だったなと考え直していた。


「僕にはもう何が正義で何が悪……いや他の正義とでも言うだろうか……それが分からなくなってしまった。パスカルやシグムントたちからしたら僕たちは悪に見えるんだろうが……」

「正義ってーのは主観が大いに入る。これまで感じて来たこと、その人生、宗教、そこから形成された個性によって人間ごとに正義の基準なんて全く違う。結局は自分が信じる道を行くしかないんだ」


「ふッ……結局そうなるのか……?」

「ああ、仕方のないことだ。話し合いで分かり合える者もいれば、絶対に譲らない者もいる。その場合は自らの正義を掛けて戦うしかない……。俺も譲れない部分があるからな」


 レクスは大切な者に危機が迫れば、暴力を持ってしても原因を排除すると決めている。そんな一面を討伐戦を通して理解させられたガイネルが自嘲気味に呟く。


「僕は自分の偏屈な正義に失望しているよ。」

「刻と共に正義なんてものは移ろいゆく。人間の考えだって同じで、外からの影響を受けて変わっていくもんだ。ガイネルは良い方向へ変わっている。柔軟さが出てきたと言ったところだな」


「ははは……レクスにそう言ってもらえるのは嬉しいよ。嫌われていると思っていたからね」

「まぁ貴族ってーのはそう言うもんだ。1度凝り固まった考え方は中々変えられるものじゃない。それを変えようと悩んでいるガイネルを嫌ってはいない。今はな」


 ゲームでガイネルの言動の変遷は知っていたからとは言えるはずもない。

 通常ルートではガイネルは新たに芽生えた理念を全うするのだから。


「とにかく今の世の中は流れが止まり淀んで濁った、汚い川と同じだ。誰かが変えていかなければならない」

「それは誰になるんだろうか……僕はレクスじゃないかと思っているんだが……」


「止めてくれよ。俺はそんな柄じゃない。俺が影響を与えられるのはせいぜい周囲の人たちくらいだ」

「それでも大したものだよ。僕も君に影響を受けた者の1人だからね」


 そんなことはない。

 自分が動けているのはゲーム世界の知識があるからだ。

 そうでなければ、時代に翻弄されるただのモブで終りだったはず。

 レクスにはそう思えてならない。


「なぁレクス。シグムントたちは生きていると思うか?」

「……何でそんなことを俺に聞くんだよ。俺は全知の存在じゃねーんだぞ?」


「レクスと話していると時々、思いもしない考え方に巡り合う時があるような気がするんだ。そう……全てを見通したかのような……」

「買い被り過ぎだ。しかしまぁシグムントは生きているんじゃねーか? あいつはあいつでしぶとい。いずれ再会の機会があるかも知れないな」


 ガイネルとシグムントの離別を防ぐために、レクスが取ったシグニュー生存ルート計画は失敗に終わった。

 本来ならばイヴェール伯爵家が〈血盟旅団ブラッディソウル〉に奇襲を受けてシグニューが人質になるはずだったのを、ジブラルタ決戦で敵を壊滅に追い込んだため一応は防ぐことはできた。


 しかし結果的にガイネル本隊への奇襲に未来が書き変わっただけであった。

 となればシグムントが生きている可能性は十分考えられることだ。


「そうか……僕は一体どんな顔をしてシグムントに会ったらいいんだろうな……」

「俺はもう過去とは決別した。今の俺は違う!ってところを見せたらいいんじゃないか?」


 それでも2人にはわだかまりが解けることはないだろう。

 シグニューが死んだと思われる以上、別々の道を歩むことになる。


「そう……そうだな。もうグラエキア王国の、古代竜の時代は終わった方がいいのかも知れない」

「終わるよ。ガイネルが理想を持って起てば必ずお前を慕って仲間が集まってくるはずだ。仲間と共に信じる道へ進めばいい」


 レクスの言葉にガイネルの口から愉快そうな笑い声が漏れる。

 心なしか表情もほぐれて緩んでいるようにも見える。


「意外だな……レクスはもっと現実主義者リアリストだと思っていたんだが」

「俺が? ははッ俺って案外、理想主義者ロマンチストなんだぜ?」


 その時ちょうど授業を告げる鐘の音が鳴り響いた。

 レクスが教室に戻るかと考えてきびすを返そうとすると、ガイネルが引き止める。


「レクス、最後に。君は王家はカルナック王家はどうするべきだと思う?」

「ヘイヴォルは死んで詫びさせるべきだとは思うが無理だろうな。もう寿命だよ。カルナック王家は……王子や王女たちは恐らくヘイヴォルの過去を知らないと思う。俺は親の罪を子供にも負わせるのは違うと思うね」


 それ以上、ガイネルは何も聞いて来ない。

 レクスはチラリと様子を窺うが、何かを考えているように見える。


「じゃあな、ガイネル」


 そう声だけ掛けて、ガイネルに背中を向けたレクスに一言の言葉が投げ掛けられる。


「レクス、ありがとう」


 レクスはフッと笑うと右手をひらひらと振ってそのまま立ち去った。

次回、レクスに纏わりつく影が明らかになっていく。


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は18時30分の1回更新です。

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