第23話 それでも日常は
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結果的に、シュナイドのお陰でレクスの心は救われた。
今になって思い出すと、彼の傍若無人っぷりが面白く感じられる。
レクスがそれを思い出して表情が緩むと共に笑いが漏れる。
「なにー? 急に笑っちゃってぇ」
隣の席にいるセリアに見られていたらしく、彼女はニヤニヤしながらからかうように絡んでくる。
ここで脳裏によぎるのは、ガイネルのことだ。
自分には構ってくれる人たちがいる。
寄り添ってくれる人たちがいる。
だが彼には?
現在のガイネルの心中は如何ばかりだろうか?
シグニューを失い、シグムントもガストンも行方不明。
シグムントは生きていて、ガイネルやイヴェール伯爵家を、そして貴族や王家を恨むのだろうか?
結局、ガストンはゲームのようにシグニューを殺したのだろうか?
「いや、別に何でもない。何かこう……退屈な毎日だなと思っただけだよ」
「レクスは十分戦ってきたんだから、こんな日々があってもいいんじゃないのかなぁ?」
レクスの顔を覗き込むように、顔を傾けながら目を細めて微笑むセリア。
その笑顔に心が癒されるような気分だ。
「そうだわ。レクス、国のことは大人が決めるわ。そんな顔しないで。貴方は考え過ぎなのよ」
そう言ってレクスを励ますのは、とことこと近づいてきたローラヴィズであった。
彼女もまた優しく微笑みかけると、レクスの肩に手を当てて体を寄せてくる。
ふんわりとした芳しい香りが鼻孔をくすぐった。
「そうだな……」
そうは言っても戦いが終わっても今度は戦争だ。
それを知っているレクスとしては考えない訳にはいかない。
浮かない顔のままのレクスを見てローラヴィズが提案する。
「あら? それならそうね……考える暇もないほど何かに打ち込んでみたらどうかしら?」
「んーそだなぁ……」
「よかったらレクスもやらない? 5月にある竜前試合の運営。戦争と蜂起のせいでズレ混んで今忙しいんだ! ね? 手伝ってくれないかしら?」
竜前試合か、とレクスはぼんやりと思い出す。
確か貴族たちの前で剣と魔法の腕を競い合い、竜神の加護があるアイテムが貰えるイベントだったはずだ。貴族のみならず、使徒やアングレス教会の教皇らも観戦し、次代の武力を見極める。
そして参加者は自らの力と名を売り込むチャンスとなる。
簡単に言えばそんなところだ。
「ローラが運営に関わってたのか。いいよ。俺も手伝うよ」
ローラヴィズの表情が華が可憐に咲き乱れるかの如く、パァッと明るいものに変わる。その表情は大人びていてとても可愛い。
「むー! それなら私もやる! いいわよね、ローラ?」
そう言って頬を膨らませるセリアに、ローラヴィズは苦笑いしながら了承する。
突然だが、行事の運営に関わることになってしまった。
―――
放課後を迎え、ローラヴィズはレクスとセリアを伴って運営委員たちが集う空き教室へ向かう。
「ローラ、突然運営に加わって大丈夫なのか?」
「問題ないわ。レクスは有名人だしね」
心配そうに尋ねるレクスにローラヴィズは何処か嬉しそうに答えてみせる。
有名人と言われてそんな訳ないだろうと高を括っていたのだが、教室に入ると中にいた者たちが一様に驚いた表情を浮かべている。
誰もが固まって動かないのが可笑しかったのか、ローラヴィズは面白そうにプッと噴き出すと口を開く。
「ふふ、運営に加わってくれる人を連れてきました。委員長、よろしいですよね?」
「え、ええ……もちろん構わないわ。でもいいの? えっとそちらはレクス君よね? 忙しい人だと思っていたのだけど……」
「は、はい。えーと今は割りと暇なので……」
委員長が言った言葉に疑問を覚えるレクス。
忙しいってなんだ?と。
「それとこちらはロードス子爵家のセリアさん。2人共、同級生なんです」
「セリアと呼んでください。よろしくお願いします」
呆けていたレクスであったが、セリアが丁寧に挨拶するのを見て慌てて彼女に倣った。
その後、運営の仕事を教えてもらいながら、書類を纏めていく。
過去の資料を参考に手さぐり状態で進めているようだ。
「竜前試合が行われるのは久しぶりらしいの。秋の竜神大祭は毎年行われているのにねぇ?」
それが中々進んでいない理由のようだ。
一時的に途切れてしまえば、ノウハウを持つ者もいなくなるものである。
竜前試合は竜神大祭よりも規模は小さいものの、多くの出店が軒を連ね、見物客も多いらしい。生徒たちのガチンコ勝負なのだから余興に飢えた平民たちには刺激的なのだろう。
当然、学園に通っている使徒の子女も出場するらしいのだが、勝負になるのか?と不安になるレクス。
そこへ1人の少女が教室の扉を開けた。
はぁはぁと息を切らしており慌てて来たことが分かる。
彼女は長くて艶のある髪を整えながら委員長に近づいて行く。
思わずレクスの視線はその大きくて円らな瞳に吸い寄せられる。
とても美しい蒼い宝石のようで、深窓の令嬢と言った雰囲気を持つ美人である。
すれ違う瞬間、とても良い香り――ラベンダーのような――がして、レクスの目には全てが魅力的に映った。
「大丈夫よ、シルヴィ。別に慌てなくてもいいのに」
「いえ、遅れているんですし急がないとです」
彼女の名前を聞いてレクスは脳内でキャラクター検索を始める。
これほどの美貌を持っているとなると主要人物であることは間違いないように思える。
「シルヴィ、紹介するわ。こちら今日から運営に加わってくれるレクス君とセリアさんよ」
委員長がご丁寧にも紹介してくれたので、レクスたちも頭を下げて挨拶しようとするが、声を上げる前にシルヴィの言葉に遮られる。
「よろしくお願いします。私の名はシルヴィ、シルヴィ・ド・カルディアと申します」
人懐っこい笑みを浮かべながら深々と頭を下げる彼女の名前を聞いてレクスは少し困惑する。
まさかカルディア公の公女が学園中等部に通っているとは思っていなかった。
レクスの1つ年上なのだが、彼女は自分のことは聞かされているのか気になってしまう。
「俺……私はレクス・ガルヴィッシュと言います。よろしくお願いします」
「レクス……? レ、レクス様! やっとお会いできました! 私は貴方のお陰で命が助かったんです! 本当に……とってもとーっても感謝しているんです!」
シルヴィの蒼い瞳が感極まって潤んでいる。
彼女のとてつもない感情の波がレクスを襲い、その勢いに押されてしまう。
「い、いえ……私は大したことはしていませんよ。貴女のお父上が手を尽くされた結果だと思いますよ?」
「そのようなことは良いのです! ずっとお会いしたかったんですからね! レクス様!」
それを聞いて反応を示した少女が2人。
言うまでもなくセリアとローラヴィズである。
理由はまぁ言わなくても分かるよね?
レクスはその突き刺さるような視線を浴びて非常に居たたまれない。
前からは怒涛のシルヴィの攻撃を受け、隣りからは嫉妬の波動が押し寄せてくる。
「取り敢えず、様と言うのは止めてもろて……」
「ですが! レクス様!」
「いいんですよ。せっかく会えたんですし。それに仲良くなるのに『様』付けなんて良くないと思いませんか?」
歯の浮くようなレクスのセリフに、セリアとローラヴィズからの痛い視線が更に強まった。2人は頬をぷくっと膨らませながらジト目でレクスを眺めている。
「そうでしょうか……?」
「そうです。シルヴィ様、私のことはレクスとお呼びください」
「そんな! 様はいらないと言ったのはレクスさ……レクスではありませんか! 私のこともシルヴィと呼んでください!」
「わ、分かりました……分かりましたから……」
ずっと病に臥せっていたから反動で、前のめりになっているだけだろうとレクスは良い方向へ考える。実際、シルヴィはお淑やかな性格であり、運営の仲間たちは初めてみる彼女の姿に目を白黒させていた。
「これは……早まったかしら……」
「私の時はすぐに呼び捨てにしてくれなかった癖に……」
レクスがシルヴィといちゃつく隣でローラヴィズとセリアがため息を吐きながら呟くのであった。
次回、レクスがガイネルの心を救うべく動く。
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