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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第21話 レクスの悔恨

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 オーガスティン廃砦の戦いによって〈血盟旅団ブラッディソウル〉は完全に瓦解した。


 もしかすると運良く逃げ延びた者もいるだろうが、ごく少数だろう。

 それに元々、パスカルのカリスマ性あっての旅団だったのだ。


 レクスは王都へと帰還する直前に、ガイネル隊が急襲を受け壊滅的打撃を被った上、人質まで取られたと聞いて自分の耳を疑った。

 まさかあの局面からシグニューが死ぬとは思っても見なかったのである。

 しかも聞いた話によるとシグムントとガストンの行方も不明だと言うことだ。


 大抵のルートの場合、シグニューはガストンに殺されるがシグムントは生存して、イヴェール伯爵家のやり方に怒りを覚えてガイネルと別離することになるはず。レクスはそれを阻止するためにガイネルの体に宿る『神の想い出(ロギア・メメント)』の力を覚醒させ、ガストンには平民に対する考えを改めさせるように動き、パスカルを討ち取るために尽力したつもりだ。


 関わってきた全員を生存させるために動いて来たレクスにとっては、何ともやるせない結果となった。


 せっかく討伐隊が解体されて、束の間ながら平穏な日々が戻ってきたと思ったのに。レクスは柄にもなく落ち込んでいた。


 学園も下校の時刻だと言うのにレクスが席を立つ様子はない。

 ただただ窓から外の景色を眺めているように見える。


「レークス! 早く帰ろっ!」


 そんなレクスに声を掛けたのはセリアであった。

 隣にはローラヴィズの姿も見える。

 その声からは明るく接しようと言う心配りが感じられる。

 2人共、〈血盟旅団ブラッディソウル〉が討伐隊に壊滅させられたことは聞いていたが詳細は知らない。とは言え、レクスの様子がおかしいことから討伐戦で何かあったことくらいは察せられる。


「ああ、そうだな。とっとと帰ろうか」


 ようやくレクスが立ち上がり、何も持たずにふらふらとした足取りで出入り口へと向かう。手ぶらなのは勉強する必要がないほど授業が楽だからだ。


「レクス、今日はカフェにでも寄っていかないかしら?」

「いいわね! ちょうど甘いお菓子が食べたかったの!」


 ローラヴィズの提案にセリアが少しわざとらしく賛同する。

 早く帰りたいのか、カフェに行きたいのかどちらなのか聞くのは野暮である。

 レクスが返事をする前に、話を聞きつけたリスティルがススーっと3人の元に近づいてきた。


「ボクを除け者にする気かな? こんなにもレクスのことを考えているこのボクを!」

「え、ええ、もちろんリスティルも一緒に行きましょう」


 圧が強めなリスティルに押されて苦笑いしつつもローラヴィズが了承する。

 セリアはレクスの腕を取って逃がさないように確保している。

 それが分かるだけにレクスは気を遣われていることに情けなさを感じていた。

 前世ではいい歳の大人だったのだから。


「別に逃げないよ。セリア、何処行くんだ?」

「え? ええとローラ、何処のお店?」


 まさか自分の意図が伝わっていたとは気付かなかったセリアは慌てた様子でローラヴィズに尋ねた。


「ちょっと貴族街に近いんだけれど、『ムーンフィル』って名前の店よ。結構な人気みたい」

「え、じゃあ速く行かないとだね!」


 急ぎ4人で教室から出ようとした時、ちょうどフィーネとシュナイドの言い争う声が聞こえてきた。一体何事かと思わず全員が足を止めて聞き入ってしまう。


「だから俺様は何もしてねーって! フィーネさん」

「嘘だッ! いい歳こいてパンチラ狙って待ち伏せとかバカじゃないの?」


 本当にくだらないことだったと理解した4人は思わず呆れ顔になっていた。

 下駄箱で彼らとすれ違いになった時に、カフェの話をするとフィーネが乗り気になったため、新たに2人追加されることとなった。


 思わぬ大所帯となってしまったが、駅馬車でカフェに向かうと幸運にもタイミングが良かったようですぐに入ることが出来た。


 各々がメニュー表を見てあれこれと話しながら注文を決めていくが、レクスは1人窓の外を眺めながらボーッとしている。セリアに促されてようやく注文したレクスであったが、何処か心ここにあらずの状態だ。


 セリアとローラヴィズは何となく事情を察していたが、中々話し掛けることができずにいた。リスティルは空気を読まずに語り掛ける。


「レクスぅ! 元気ないね! ボクはそんなレクスなんて見たくないかな!」

「そうか? 俺はいつも通りだぞ?」


 そうは言うものの、レクスの表情は相変わらず冴えない。

 今までこのようなことは1度もなかったのでセリアは戸惑うばかりだ。

 こんな時ばかりはミレアがいたらと考えてしまう。

 幼馴染なら何らかの影響を与えることができるだろうに。


 セリアもローラヴィズも自分がまだレクスの支えになってあげられないことに歯を噛みしめるほど悔しさを覚えていた。そんな中、いつもと違う様子のレクスを敏感に感じ取った元気印のフィーネも口数が少なくなる。


 だが今日はそれを打破する存在がいた。


「おいおいおいおい! なーに辛気(くせ)ぇ面してんだよレクスよぉ! せっかくの、おスィ~ツがマズくなんだろうがよ!」

「そうか……? 俺はそんな顔をしてんのか……」


 どうやらレクスに自覚はないらしい。

 意外な顔をしており、まるで今の自分を理解していないようだ。


「してんだよ! テメーらしくもねー。せっかく俺様ほどの男が少ーしばかり認めてやらんでもねーかも知んねーヤツなのにその態度はねーだろ。せっかく綺麗どころが揃ってんだぞ! ウハウハじゃねーか!」


 シュナイドはそんなことなどお構いなしに、凄く分かりにくい表現でレクスを褒める。

 いや、これは褒めてる?

 レクスとシュナイド以外の全員がそう思ったに違いない。


「確かに綺麗なに囲まれて幸せなのかもな」


 普段、お世辞をあまり言わないレクスの素直な褒め言葉に、セリアとローラヴィズ、そして何故かリスティルまで頬を赤く染めて照れ照れし始める。


「チッ……しゃーねー。ここは俺様がテメーの話を聞いてやんよ。死ぬほど感謝しながら話しやがれ」


 耳を小指でかっぽじりながら面倒そうにシュナイドが言った。

 何故かシュナイドまで頬を染めている。


「流石に俺は女の子が好きだぞ」

「か、勘違いしてんじゃねーよ! ぶち転がすぞ!」


 それを聞いて思わず吹き出すレクス。


「ふッ……はははは……お前もおもしれー奴だよ。まぁ俺は最近まで王国に対して蜂起した〈血盟旅団ブラッディソウル〉と戦ってたんだ。そこで死ぬはずだった奴らを俺は救おうとした。最善は尽くしたつもりだった。だがそれも無駄に終わったらしい。いや……より事態が悪くなった可能性すらある。俺は恐らく最後の最後で油断した。気を抜いてしまった……出来得る限り縁を持った者は護ると決めていたのに……」


「はぁ!? おもしれーのはテメーだよ。護りたい奴、全員なんて護れるはずねーだろーがよ! 死ぬのは死んだヤツがわりぃんだよ。自分で運命を切り開けねーと生き残れる訳がねーのよ。大体、人間なんて簡単に死ぬモンだろ。どんな強いヤツでも運が悪けりゃあっさり死ぬ。ってかよ? 人様の人生勝手にいじくりまわしてんじゃねーよ! 余計なお世話なんだよ。そいつの人生はそいつ自身が決めんだろーが! 誰だか知らねーがそいつの生死なんか変えられるかっての。テメーは神様にでもなったつもりか?」


 思い切って話したのにもかかわらず、あっさりと言い返したシュナイドの言葉がレクスの心にストンと落ちた。


 なるほどなるほど。

 俺は思い上がっていたのか。

 ここがまだゲームだと何処かで考えていた。

 ここは現実化した元ゲーム世界で、未来がどう転ぶかなんてまだまだ分からないんだ。確かに俺は未来の様々なルートやイベントを把握しているが、この世界の一員になった時点で異分子である俺の行動が予期せぬ未来を紡ぐ可能性を生み出してしまう。

 では完全に不干渉を貫くのか?

 それも違う気がする。

 異分子でも俺はレクス・ガルヴィッシュと言うこの世界に存在した1人の人間であり、世界を構成する一部なのだ。

 ゲームではモブでも今はモブなんかじゃない。

 そこに皇帝すめらぎ みかどと言う男の意志が介在しているからな。

 俺は付喪神に呼ばれた存在だが、神ではない。

 他人の運命を操作しようだなんて烏滸がましいにもほどがある。


 そうレクスは思ったのだ。

 しかし一応は呼ばれた以上、何かさせたがっているのだろう。

 それが分からない以上、レクスはレクスとしての人生を全うすれば良いのだ。


「そうだな。俺は俺のままで生きよう。この世界の人間モブとして」


 レクスの態度が明らかに変わったことにシュナイドを除く全員が驚いていた。

 自信を持ち、縁を大切にする、時々やらかす男。

 それがレクスなのである。


「(良かった……よく分からないけど元に戻ったみたいね。色々考え過ぎなのよレクスってば。でもやっぱり私たち皆を護ろうと考えてたのね)」


 セリアは心の底から安堵して相好を崩した。


「(元のレクスに戻ったのは良かったけれど……()()()()()()()奴らを救おうとした? これはどう言う意味なのかしら)」


 一方のローラヴィズはホッとしながらもレクスの言葉の意味を量りかねて真剣な面持ちになってしまう。


「(レクスったらボクの見立て通りみたい。ミステリアスでそこがいいんだよね。何か色々と知ってるみたいだし。流石はボクが見込んだ男! ボク、絶頂!)」


 リスティルに至ってはヘヴン状態に陥っていた。


「よく分からねーが調子が戻ったみてーだな。これも俺様の――」


 珍しいことに役に立ったシュナイドの背中をフィーネがバーンと叩く。


「いってぇぇぇぇ!! ちょっとフィーネさん。手加減してくれよ!! せっかく俺様の名言が炸裂したってのに!」

「やったねシュナイド! よく分かんないけどたまには役に立ったみたいだねッ!! あたしは嬉しいよ!」


 カフェの中に笑い声が響く。


 活気が戻った6人の会話は店員に注意されるまで続き、全員で謝り倒したのであった。


 騒いでいたのは正確には1人なんだけどね。

次回、一方のガイネルは……?


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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