第13話 新学期と剣王レイリア
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は13時、20時の2回更新です。
春休みも終わりを告げ、王立学園魔導科小等部3年の2学期がスタートした。
ゲームでは主人公であるガイネルが貴族士官学院に所属しており学園生活の描写があったため、何となくはイメージできたが流石に寮生活までは分からない。
これからの学校生活は記憶の断片を頼りにしていく必要があるだろう。
ちなみに貴族士官学院へは原則16~18歳までの貴族しか通うことができない。
レクスは記憶の断片を頼りに自分が住んでいる寮へと赴く。
学校は王都の中でも平民街の1等地にあり、その敷地は広大で小等部と中等部の騎士科、魔導科の生徒が通っている。
生徒たちが暮らす寮はその隣に併設されている。
初めて入る部屋のはずなのにどこか懐かしい感じがするのは気のせいだろうか。
部屋は簡素な造りで置いてある家具なども至ってシンプルだ。
ベッドと小さなテーブル、そして椅子が備え付けられている程度である。
食事は寮の食堂で無料で食べられる。
レクスはベッドに倒れ込むようにダイブすると転生後の出来事を思い出していた。恐らく付喪神なる存在にゲーム世界へと転生させられたこと、急にできた妹の就職の儀、初めての狩り、魔物との死闘、亜神との出会い。
「普通、異世界転生って言ったら主人公になるもんだろうに……」
レクス・ガルヴィッシュというモブキャラに転生してしまったのだから一体何のために送られたのか分からない。自分の役割がとんと分からないレクスであった。
「まぁ、これに関しては歴史が動けば自ずと見えてくるだろ。それまでは修行だ修行」
レクスは考えるのを止めた。
明日から頑張ろうと気合だけ入れておく。
それよりも気になるのはゲームに絡んでくるキャラたちについてである。
王都への帰還を果たすと護衛任務を達成したガルガンダはしばらくこの地に留まるらしい。メラルガンドのせいで新人の傭兵たちが皆殺しにされたため、ロドスに置いてきた傭兵団の精鋭たちを王都に呼び寄せると言っていた。
ガルガンダとはいずれ戦うことになるかも知れないので、覚悟しておく必要がありそうだ。
戦神ホーリィは『大地の息吹』という宿屋に泊るとのこと。
亜神とは言え古代竜信仰のアングレス教会による影響が強いグラエキア王国内なので流石に大人しくしているだろう。
そうこうしている内に腹が減ってきたレクスは夕食には早かったが食堂に行くことにした。
食堂は教師たちも利用するため、中途半端な時間帯でも開いていたはずだ。
ベッドから起き上がり部屋から出る。
「ミレアも誘ってみるか」
今日4月14日現在は既に授業が始まっている。
レクスたちは春休みの延長願いを出していたため、実際に通うのは明日からである。
今日中にやることはやっておかなければならないが、今は何より飯だ。
少ない荷物の中からテッドが書いてくれた紹介状を取り出す。
そして女子寮に足を向けるが誰ともすれ違うこともなくミレアの部屋にたどり着く。
「まぁ授業中だからな……」
彼女の部屋のドアをノックすると少し間延びした声が聞こえてきた。
すぐに足音がしてその主が近づいてくることが分かる。
「はいは~い。ってレクス、どうしたの?」
「腹減ったからな。食堂行かない?」
「でも授業中だよッ!」
「それがいいんだよ。皆が真面目に授業を受けてる中、こっそり食を楽しむ背徳感を味わおうぜ」
「う~ん。まぁいっか~」
食堂は本校舎と寮との間に併設されている。
なのでわざわざ校内に入る必要がないので問題ないとミレアは思ったのだ。
レクスも何を食べようか、そもそもどんなメニューがあったかなど、記憶の糸を手繰りながら足早に歩く。
2人は談笑しながら食堂に入ると調理職員の女性に話しかける。
王都に帰ってきたばかりで、夕食を早めに食べたい旨を伝えると快諾してくれたので、窓際の席に座って待つことに。
食堂内をぐるりと見渡すと200人以上は入るであろう、かなりの広さであることが分かる。近くには先客がいたようで5人程の生徒がたむろしていた。彼らはこちらをチラチラ見た後、ニヤニヤした表情を作り聞こえるような声で話し始めた。
「おいおい。あれって昼行燈じゃねぇか?」
「ああ、何であの頓痴気野郎がいやがるんだよ」
「止めなよ~プ~クスクス……」
レクスの記憶の断片が蘇り、過去の映像が再生される。
生徒たちの露骨に人を馬鹿にした態度にすぐピンとくるレクスだが、これには訳がある。小等部でのやる気のない態度や間の抜けていつもぼんやりとしていることが理由でついたあだ名のことを言っているのだ。
「レ、レクスッ! 気にしちゃダメだよッ!」
「ああ、分かってるよ」
何故かは知りようもないが転生前のレクスは凡庸で悪目立ちする生徒だったということだ。転生後は家族もミレアやカインもまるで人が変わったようだと驚いていたくらいなのである。
「(転生前の俺はNPCだったのかよ……)」
やがて食事が出来あがったのでカウンターで受け取って元の席へと座る。
チラリと一瞥すると彼らが制服ではないことが見て取れた。
王立学園は小等部は平民のみなので制服はなく、中等部からは貴族も通うことが増えるため決められた制服が存在する。
レクスは大人の余裕で生徒たちの戯言をスルーして、ミレアと剣王レイリアの話をしながら食事を摂ると職員に礼を言って食堂を後にした。
出て行く時も生徒たちが何か言っていたが気にする必要もない。
後は今日中にやっておくべきことをやるのみだ。
王都は貴族の邸宅が建ち並ぶ貴族街と平民街に別れている。
剣王レイリアがいる第三騎士団は平民街にあるため、用がない者の立ち入りは禁止とは言え入れない訳ではない。
レクスとミレアは紹介状を持って第三騎士団駐屯所へと向かった。
見張りの騎士に紹介状を渡し、レイリアに届けてもらうように頼む。
疑われるかとも思ったが、案外すんなりといったのはレイリアの指導の賜物であろうか。
ミレアにも剣の稽古を勧めながら雑談していると、長い銀髪と健康的な褐色肌を持つ長身の女性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。彼女はレクスたちの前まで来ると、釣り目がちの鋭い目で値踏みするかのようにこちらを観察する。
目の前の堅物にも見える人物をレイリアその人であると判断したレクスは先手を打って挨拶の言葉を述べる。
「初めまして。スターナ村のテッド・ガルヴィッシュの子、レクスと申します。今日はお忙しいところ申し訳ございません」
「ん。ああ、構わん。お前がテッドの子か……私がレイリア・オレイルだ」
「はい。村では父に剣の稽古を受けていたのですが、王都では剣を学ぶことができません。そこで紹介状にもあったと思いますがオレイルさんに是非、稽古をつけて頂きたく存じます」
レイリアの抱いた印象は子供の物言いではないなという感じであった。
普段なら一笑に付すところだが、昔馴染みであるテッドの頼みとなれば無視する訳にもいかない。
「いいだろう。だが、まずお前の腕前を見せてもらおうか。時間はあるのか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。よろしくお願いします」
それを聞いたレイリアは「こっちへ来い」とレクスに先だって歩き始めた。
ミレアも慌ててそれに続く。
王都自体の大きさもかなりのものだが、第三騎士団の兵舎も広大で思わず周囲を興味深げに見回しながら後に着いて行く。
何人規模の軍団なのか気になるところだ。
すれ違う騎士たちの視線を感じながら兵舎屋内の練兵場へとたどり着くと、剣を取るように言われたので自分にあったいつも使っている物に近い得物を選ぶ。
木剣ではなく刃を潰した鉄剣だ。
「では勝負と行こうか」
「はい。よろしくお願いします」
レクスは思わず姿勢を正し頭を下げる。
こんな時、日本人だと感じさせられてしまうものだ。
レクスとレイリアが対峙する。
ミレアに加えて話を聞きつけた騎士たちも見物するために集まってくる。
既に野次を飛ばす者も現れている。普段絶対に出さないようなミレアの声援も聞こえてくる。
「打ち込んでこい」
その言葉が合図となりレクスが剣を思い切り叩き込む。
簡単にいなされるもいつもテッド相手にしているような剣撃を見舞っていく。
連撃にフェイント、何でもありである。
しかし相手は流石の剣王。
その全てに余裕で反応してくる。
「なるほど。テッドらしい剣筋だ。ではこちらからも攻めるぞ」
そう言うが速いか強力な一撃が繰り出される。
それを踏ん張って何とか止めるも、その膂力は留まるところを知らない。
豪撃が間断なく襲ってくるのでとてもじゃないが気が抜けない。
防戦一方になるレクスだが必死にレイリアに隙ができるのを待っていた。
それは永遠に続くかのように感じられ疲労ばかりが蓄積されてゆく。
――ここだッ
スキルの【神魔装甲Ⅰ】は常時発動型だが、意図的に使用することで一定時間、全身がオーラに包まれ身体強化の効果が跳ね上がる。
瞬間、レクスの踏み込んだその速度にレイリアの反応が遅れた。
「何ッ!?」
思わず驚愕の声が出るレイリアに剣先が触れるかに思われた。
レクスが顔が喜色に染まる。
【パリィ】
吐き出された太古の言語と共にその剣は強烈な打撃で薙ぎ払われてしまう。
今度はレクスが舌打ちをする番であった。
【剛剣突貫】
見物していた外野から感嘆と驚愕の声が上がる。
「(カウンターかよッ喰らってたまるかッ!)」
弾かれた剣を力ずくで抑え込み、爆発的な瞬発力で迫るレイリアの刺突を上段から叩き落とす。それを見て反撃がくると思ったのか、バックステップで距離を取ったのはレイリアの方であった。
「私に騎士剣技を使わせるとはやるな! その歳で大したものだ」
この短時間の戦いでレクスは心身ともに疲労困憊だ。
スキルが発動しているのでまだ戦えるが、それを持ってしてもどれだけ耐えられるだろうか。
「はぁ……はぁ……ありがとうございます……」
「ここまでにしよう。試験は合格だ」
一番聞きたかった言葉が聞けてレクスは内心でガッツポーズしていた。
これで強くなれる。万が一に備えられる。
「ありがとうございました!」
感情のこもった大声で感謝の言葉を述べるレクスにレイリアは苦笑いを返す。
「そう畏まるな。子供は無邪気なのが一番だぞ?」
「はい! これからよろしくお願いします!」
レクスは嬉しさを爆発させ、頭を下げる。
注意してもなお子供らしくない言動をする様子を見てますます変な子供だと率直に思うレイリアであった。
「レクスは小等部3年だったな。稽古は学校終了後だ。6時から相手をするから入って来い。喜べ! 第三騎士団を顔パスだぞ!」
そんな豪快に笑うレイリアを見て、最初に抱いた堅物のような印象は既にない。
レクスは自分が受け入れられたことを素直に喜んだ。
いよいよ明日から新生活が始まる!
ありがとうございました!
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明日も13時、20時の2回更新です。




