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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第15話 ジブラルタ決戦 ①

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 ――ジブリル男爵領・領都ジブラルタ


 暗き天が泣き出してしとしとと大地に落ちる。


 本来は綺麗な石造りの建築群が建ち並び、その整った人工美で人々を魅了する街。しかし〈血盟旅団ブラッディソウル〉の侵攻によって建物の多くが破壊されてしまっており景観は台無しである。


 領主の邸宅にはパスカルたち幹部が、ガイネル隊の到着を今や遅しと待ち受けていた。


「しかし姐御、本当に来るんですかい?」

「来るさ。来なかったらヤツらの名誉は地に落ちるからね。鼻っ柱が強い貴族様のことさ。こんな好機を態々逃す手はないだろう」


 幹部たちは各地で転戦しながら、このジブラルタへと集結していた。

 直接、ガイネル本隊と戦ったことはないが、討伐隊の強さは理解している者ばかりだ。団長のパスカルの強さは疑っていないものの、やはり不安は大きいらしく、尋ねる声からは微かに怯えの色が潜んでいる。


「姐御! 来やしたぜ! イヴェールのガキ共です!」

「防備は完璧だな? 計画通りに動けば問題ない。ガチンコで勝負してやる必要はないんだ。防壁で相手の戦力を削れるだけ削りな!」


 自信満々な態度で余裕の表情を浮かべてさえいるパスカルは、すぐに椅子から立ち上がると防壁へと足を向けた。

 部下たちも後を追って歩き出す。


「ガキ共は何処に現れたんだい?」

「小癪にも街を包囲していやす……一斉攻撃を掛けるつもりかと」


「ふん。分散させたか。こっちにとって好都合じゃないか。こっちはガイネルとレクスを殺せば勝ったようなもんだからね、私が急襲して仕留めるから、あんたたちはとにかく凌ぎな」

「は、はい……」


 パスカルの獰猛な笑みが〈血盟旅団ブラッディソウル〉のメンバーたちの心を震撼せしめる。

 だが同時にそこには頼もしさも存在しており彼らからは笑みが漏れる。


 外に出ると小雨だった天候が本降りになり始めていた。

 雨の中の激闘か。それもいいじゃないか。

 これから貴族共の子女たちを殺戮できる。

 そう思うと心が躍るようでパスカルは足早に進みゆく。


「最初にるのはレクスだ。ガイネルをると撤退される可能性があるからね。で? 何処にいるんだい?」

「レクスとか言うガキは北門ですぜ」


「そう言えばギュスターヴはどうしている?」

「閉じ込めてます。大人しいもんですよ」


 ギュスターヴが何か行動を起こすと考えていたパスカルは少し期待が外れて残念な気持ちになり、思わず溜め息がいて出た。

 しかしこれからの戦闘のことを考えると喜びで顔が歪むのを止められない。


「レクスか……どの程度なのか楽しみだ――」



 その瞬間――凄まじいまでの轟音。



 パスカルの目に飛び込んできたのは、北門が大爆発を起こして崩壊、周囲の防壁もガラガラと崩れ瓦礫の山と化した状態であった。


「おし! 全員一気に雪崩れ込めー。油断すんじゃねーぞ!!」


 防壁上にいた者は瓦礫の下敷きになっているし、門が大爆発を起こしたことでその周囲にいた者は衝撃で吹き飛ばされてしまっていた。

 瓦礫の上から顔を出したレクスとパスカルの視線が交錯する。

 両者はそれだけで理解する。


 こいつが、こいつこそが敵なのだ、と。


「ハァッハァ!! 貴様がレクスかい!! いきなりとんだご挨拶だね。少しばかり胸が高鳴ってきやがったよ!!」


 期待に胸を膨らませるパスカルに、レクスも余裕の笑みを見せながら挑発して見せる。


「あ? そう言うお前は首領のパスカルか? いいところで会ったな。殺してやるから掛かって来い」


「吠えるねガキが。死んでも文句は言わないことだね」

「御託はいいから掛かって来いよ。それとも強い言葉を使ってないと不安なのか?」


 それを聞くが速いかパスカルは猛然とダッシュを掛けて、瓦礫から飛び降りたレクスに肉薄する。


「魔導士風情が舐めた口を利いてんじゃないよ!」


 パスカル渾身の右拳がその胸を貫く――かに思われた瞬間、その一撃を紙一重で躱しつつレクスが魔法を発動する。


「【雷電ボルタ】」


 レクスを中心にプラズマのような電撃が発生し周囲で荒れ狂う。

 その放電現象は周囲の者全てを巻き込んで暴れに暴れた。


「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 当然、真横にいたパスカルはもろに直撃を受けて、その口からは絶叫がほとばしった。レクスはすぐに抜剣すると、仁王立ちで焦げ付いている彼女の胸に鋭い突きを放つ。


 しかしそれはパスカルの右拳によって弾き返されてしまった。

 すぐに距離を取るべく大きく後方へ飛ぶと、すぐに魔法を放つ。


「8thマジック【大砲撃バズーカ】」


 練りに練り上げられて作られた魔力の砲弾がパスカルに直撃する。

 通常の魔力弾や魔法程度なら軽く相殺することができる彼女は、反射的に左ストレートを繰り出したが、レクスオリジナルの大出力魔法である。

 防げるはずがない。


 パスカルを中心にした大爆発が発生し、轟音と共に周囲が激しい振動に襲われる。土煙と振動が治まった後には左腕を突き出して動かない彼女の姿。


「何ちゅう堅いんだよ。普通なら爆散してるぞ……」


 当然、パスカルは死んでなどいなかった。

 突如、狂ったような声で笑い出す。


「ふははははは! やるなぁ! ギュスターヴが褒める訳だ。だがそれでは私の防御は抜けん。この穢れた血に感謝する日が来るとはなぁ!!」


 そう言って哄笑しながらレクスに向かって突っ込んでくる。

 その顔は狂気の笑みに染まっていた。


 速い――


 レクスもすぐに対応する。

 彼女は聖闘士であり、その『聖闘技』は神聖で強力無比な威力を誇る。

 修行僧モンクなどとは比較にならないほどだ。


「【神魔装甲Ⅳ】」


 黄金色こがねいろに輝くオーラに包み込まれるレクス。

 技能スキルを発動したその能力値は攻撃も防御も魔力も速度も何もかもが跳ね上がる。

 神聖なオーラを纏った拳と魔力で強化された剣が、激しくぶつかり合って火花を散らし澄んだ音が鳴り響く。


「(こいつの力の根源は何だ? 強過ぎるぞ……。こんなに強いのにゲームではあっさりと倒されている理由は何だ?)」

「【神聖衝撃波しんせいしょうげきは】」


 不可視の波動が、レクスに迫るが反応できる速度を越えている。

 躱せるはずがないが、魔力障壁がある。


 しかし――衝撃波はそれをすり抜けてレクスに直撃した。


「ガハッ……ぐ、防げないタイプかよ!」

「【貫手】」


 衝撃で一瞬息ができなくなるが、装甲のお陰で威力が抑制されている。

 ダメージは入ったが動けないほどではない。


 『聖闘技』を放った直後に、レクスへと迫っていたパスカルの貫手が常時展開している魔力障壁を破壊しながら迫る。

 しかし届かない。

 今やレクスは常時、八重に魔力障壁を展開している。


「何ッ!?」


 今度はパスカルが驚く番であった。

 その隙を突いて剣を繰り出すレクスだったが無駄に終わる。

 となればやはり勝負は魔法。

 強化された大出力の魔法で倒す。


「3rdマジック【轟火撃ファラ】」


 目くらましに魔法を放ったレクスは、再びパスカルから距離を取るとすぐに魔法を発動した。


「8thマジック【大砲撃バズーカ】」

「チィッ」


 舌打ちをしながらも、先程耐えることができたことから、今回も同様だと考えたパスカルは避ける気配はない。

 と言うか避けられるほど甘くはない速度だ。


 再び大地を揺るがすほどの爆音を上げてパスカル自身が大爆発を起こした。


 周囲には音につられた敵や味方が集まってきている。

 ガイネルも抜き身の剣を片手に駆け付ける。

 シグムントやガストンも一緒だ。


「レクス! すまない! 遅れた!」


 それに片手を上げて応えるとレクスは立て続けに魔法を放ち続ける。


「8thマジック【大砲撃バズーカ】」


「8thマジック【大砲撃バズーカ】」


「8thマジック【大砲撃バズーカ】」


 レクスだからこそできる高位階魔法の連射である。

 普通なら魔法陣を展開するだけでも時間が掛かるほどの魔法――第8位階なのだ。


 あまりの衝撃に周囲は敵も味方も2人の戦いに見入っている。

 レクスの口から疑問の声が漏れる。


「お前は何者だ……?」


 雨が土煙を消して視界が戻る。

 そこには依然として神聖なるオーラを纏って耐えきったパスカルがいた。


「私はパスカル・レジス……王家を滅ぼす者だ……」


「(こいつは使徒クラスか……? なら何故、ガイネルは勝てたんだ? 古代竜クラスに勝てる力は……そうか、確かガイネルの母親は……となれば)」


 パスカルの正体こそ分からなかったが、ガイネルに関する原因に思い当たったレクスが彼に視線を向けると話し掛けた。

 詳しく語る必要はない。


「ガイネル、お前の力が必要だ。俺と一緒に倒すぞ」

「ぼ、僕が? 正直、レクスの魔法に驚いている……僕がついて行ける戦いじゃない……」


 確かにガイネルの言う通りなのだが、恐らくゲームでは覚醒する描写が省かれている。彼が何故、これから使徒クラスの化物たちと戦い抜くことができたのか。


 それは()()()()()()()()()宿()()()()()()()


 ガイネルの母親は正式にイヴェール伯爵家には入っていない妾なのだ。

 ローグ公爵家の血が入っている彼の兄たちとは違い、使徒の血を受け継いでいない。彼は母親に宿っていた神の想い出(ロギア・メメント)を継承した結果、強くなることができたと言う訳である。


「大丈夫だ。問題ない。と言うかここでお前が戦っておかなければ、これからの戦いはずっと蚊帳の外だぞ(つまり旅団戦が隠し覚醒イベントになっていたのか……)」

「!?」


 今まさに歴史が動いていることを感じているのだろう。

 その表情は驚きや困惑の他に、悔しさも混じっている感じがした。

 ガイネルは自分にももっと力があればと思っているのは間違いない。


「ふッ……貴族はやはり汚いな……一騎討ちを止めると言うのか……?」


 パスカルはかなりのダメージを受けているようで表情には余裕がなく、言葉も途切れ途切れだ。


「いや、お前にも何か事情があることは分かった。それは俺の想像の遥か上を行くほどのものなんだろう。だがお前は少しばかり人を殺し過ぎた。ガイネルが戦う。俺は支援に徹するさ」


「レクス……貴様は一体何者だ……?」

「俺はただの人間だよ。なるべく世界の人々が苦しまないように動いているだけのな」


 その答えに納得がいかないのか、パスカルが沈黙する。

 するとそこへ意外な人物が現れた。


「久しぶりだな。レクス。また強くなったようだ」

「お前もここにいたのかよ、ギュスターヴ。悪いが相手なんかしてらんねーぞ」


「パスカルもまた王国の被害者と言える。何とか見逃してやってくれないか?」

「俺が逃しても使徒からは逃げられんぞ? それにここでガイネルにられるかも知れん(ここまま覚醒せずにいけばいつかガイネルは死ぬ。そうすれば未知のルートに入る可能性があるからな)」


 レクスの言葉など全く聞いていない返事に、逃げても無駄だと分からせるために釘を刺す。しかし効果はなかったようだ。


「そうか……ではお前の相手は俺がしよう」


 そう言うと覚悟を決めた表情でギュスターヴが剣をスラリと抜いた。


「死んでも知らんぞギュスターヴ。ガイネル! 覚悟は決まったか?」

「ああ、パスカルは僕が倒す!!」


 ここにガイネル対パスカル、レクス対ギュスターヴの戦いが開始されようとしていた。

ジブリル男爵領・領都ジブラルタで血盟旅団との決戦が続きます。


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は19時の1回更新です。

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