第14話 血盟旅団の乱・膠着
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〈血盟旅団〉の包囲網は確実に狭まっていたが、団長のパスカルとその息子であるダビドが各地を転戦、奮闘しており討伐隊も決め手がない状況であった。
そんな中、レクス隊で怪しい者が捕らえられる。
彼がレクスの名前を出したと言うことだったので、レクスは興味を引かれて会ってみることにした。
ここはジブリル男爵領ジブリールにある野営地である。
と言っても粗末な物であるが。
「それで俺に一体何の用だ? 態々、俺を指名するなんて俺のことを知ってたのか?」
「はい。俺は元は〈義國旅団〉にいたもんです。今日はギュスターヴ団長の書状を持ってきましたんで見て欲しいんでさ」
「おお、ギュスターヴが? 久しぶりだな。元気にやってる?」
男から書状を受け取ったレクスは早速中に目を通し始める。
「元気ですぜ。ですが今は〈血盟旅団〉に半ば軟禁されてる感じでしてね……」
「マジか……旅団は潰されるぞ。それは確定事項だ。速く離れた方が良い」
書状の内容はパスカルがレクスと戦いたがっていると言うものだ。
パスカルと言えば戦闘狂だと言う印象しかないレクスは、ギュスターヴが余計なことでも吹きこんだかと内心で毒づいた。
「今、ギュスターヴ様が元メンバーを説得してるところでさぁ」
「ああ、それがいい。それにしてもパスカルが俺と戦いたいそうだが、ギュスターヴは俺の味方と言うことでいいのか?」
「いえ、何も聞いてませんぜ」
「ええ……(あのアホッ! 肝心なこと書いとけよなぁ! パスカルとギュスターヴ相手にするのはちと辛いぞ! 罠か? でもあの時の様子だと組むとは思えないんだよな)」
レクスは取り敢えずガイネルたちに連絡を取って一大決戦を仕掛けようと考える。各地でチマチマと撃破していくよりは、一気に大将を討ち取った方が楽で手っ取り早い。
決戦の地はジブリル男爵領の領都ジブラルタ。
レクスはすぐに討伐隊の主力に書状を送った。
使いの男を返すと、入れ違いでマルグリットが入ってきた。
「レクス殿ーいいッスかー」
「ああいいよ。何かあった?」
ちらりと出て行った男を一瞥したが、特に何も聞いてくる様子はない。
「明日からこのまま領都に進軍するッスか?」
「今伝えようと思ってたんだけど、しばらくここで待機だ。全部隊と連絡を取り合って一気に片を付ける」
急な方針転換にもかかわらず、全く動じる気配など見せない。
戦闘でも聖女なのに前衛で敵を殴り倒しているほどで、その物怖じしない態度にはレクスも一目置いていた。
そもそも聞いた話では、自ら志願して討伐隊に参加したらしい。
「そーなんスね。そりゃまた急ッスねぇ」
「そうなのよ……イベントはいつも突然やってくるんだよな」
聞き慣れない単語にマルグリットの表情が訝しげなものに変わる。
「いべんと……?ッスか?」
「ああ、俺もこんな展開になるとは思ってもみなかったけどな……」
ゲームなら普通にパスカル本隊を追い込んで彼女を撃破することになっている。
確かに強キャラではあったが、詰むほどではないし、特にストーリーの裏側が描かれている訳でもない。その後に息子のダビドによるガイネル本隊の襲撃と拉致があり、〈血盟旅団〉との最後の戦い『オーガスティン廃砦の戦い』で決着を迎える。
そしてそれが更なる悲劇の引き金となるのだ。
そんなことを考えているレクスの顔をマルグリットが覗き込む。
その端整で儚げな感じで見つめられると流石のレクスも照れてしまう。
何せ、美しいサラサラの金髪に蒼く澄んだ瞳。
言葉遣いとは裏腹に清楚な雰囲気を纏いつつも元気溌剌な少女なのだ。
マルグリットは滅びしティア聖教国出身である。
ゲームには登場しないが、レクスの予感では今後絡んでくることは間違いない。
何しろ絶対神ガトゥの伝説が残る唯一の地なのだから。
〈血盟旅団〉のパスカルも一気にガイネル率いる討伐隊を殲滅したいはずだ。
そのためにギュスターヴを通してレクスにこのような書状を寄越したのだろう。
ガイネルとしても膠着する状況を打破したいと考えているはずなので、乗ってくるとレクスは考えている。
全ては領都ジブラルタで決める。
◆ ◆ ◆
〈血盟旅団〉の版図はヴィルヌーヴ侯爵領、ジブリル男爵領、ラヴァンド伯爵領に及んでいた。
その内のヴィルヌーヴ侯爵領とジブリル男爵領の1/3が討伐隊に取り返された。それもこれも指揮官となる人物が圧倒的に少ない、いやいないのが致命的な問題であった。
パスカルはギュスターヴから聞いたレクスの印象から小賢しいガキであると判断。
討伐隊が攻め切れていないことからも、向こうも焦れていると感じていた。
故にレクスと戦う時が決戦の刻であるとの考えに至る。
「必ず総大将のガイネルたちと連携して乾坤一擲の攻勢をかけてくる……そこで主なヤツらを討ち取ってやるさ」
そのためにヴィルヌーヴ侯爵領にある精霊の森の隠れ家『レッドムーン』にパスカルは一時帰還した。
兵はラヴァンド伯爵領に多く駐留させているが、精鋭はパスカルと共にある。
北西のダーシュ子爵領の領都ダンケルクと、北のアドラン公爵領の領都アドランヌに対する牽制が目的である。
ダーシュ子爵はジャグラート王国が自由都市サマサに攻め込んだ時点で領土に戻り防備を固めているので攻めたとしてもすぐには落ちないだろうが、パスカル自身が赴けば早期に落とす自信があった。
アドラン公爵は遠征中で不在だし、子息のフェリクスは王都にいるため、こちらも自身が乗り込んで蹂躙してやるつもりだ。
例え、使徒の血を色濃く受け継ぐフェリクスで来援しても負けない自信もある。
パスカルはそう思いながら今後の動きを考えていた。
酒が注がれたグラスを傾ける。
室内は薄暗いが、月明かりのお陰で左程不自由でもない。
それにたまには1人でこうして呑むのも悪くはない。
カルナック王家は必ずや滅ぼして見せる。
特に現国王のヘイヴォルはこの手で八つ裂きにしたいが、高齢でいつ死ぬかも分からない。使徒たる公爵領の1つも落とせば、現在、〈血盟旅団〉への協力とグラエキア王国への侵攻を依頼している国々も重い腰を上げるだろう。
神聖ルナリア帝國は書状に記されていたレクスを倒せば兵を挙げるだろうし、聖ガルディア市国(西方教会)は大義名分を得たとばかりに攻め込む準備をしていると言う。
「母上……ただいま戻りました」
パスカルはその言葉を聞いて我に返った。
思ったより深く考え込んでいたようで、部屋に入ってくる者の存在に気が付かなかったらしい。
「ダビドか……私をそう呼ぶなと言っているだろう?」
「は、すみません。団長」
少し寂しそうな沈んだ声で言い直すダビド。
そして気になっていることをパスカルに尋ねる。
「団長、イヴェールの子が率いる軍と戦うと聞きましたが、勝算はおありなのですか?」
「当然だ。強いと言っても所詮はガキさ。私が出れば勝利は堅い。それにガイネルは甘いお坊ちゃんだ。最悪人質でも捕れば戦意を喪失するだろうよ」
パスカルはこれまで有言実行を貫いてきたし、ダビドも彼女の桁外れの実力をよく理解していた。
信頼していない訳ではないのだが、嫌な予感がするのだ。
態々、レクスと言う得体の知れない者に拘って決戦を急ぐ必要はないと思うのである。黙り込むダビドに、パスカルが彼の胸の内を読んだかのように笑いながら言い放った。
いつも通りの豪快な笑い声だ。
「心配するな。ギュスターヴが言っていた。ガイネル隊はレクスを潰せば終わりだとな」
「……そのレクスとやらが心配なのです。不確定要素は暗殺でもした方が良い」
「気にし過ぎだ。ギュスターヴも所詮は敗軍の将なのだ。自分を倒した者を強かったことにしたいのだろうさ」
「……」
なおも不安げなダビドに、パスカルが溜め息を吐くと噛んで含めるように言い聞かせる。
「お前も頑なだな。馬鹿正直に戦う訳でもない……ちゃんと手も打ってあるぞ? それとも母親を信じられないと言うのか? ほら、お前もこっちへ来て酒でも呑め。勝利の前祝いだ」
「はい。母上……承知しました」
パスカルは棚からグラスを取り出すとワインをなみなみと注いだ。
紅いそれが薄暗さで漆黒に見える。
「ほれ。呑んで気を落ち着けるんだな。……それと私をそう呼ぶな」
「団長が言ったのではありませんか……」
ようやくダビドはフッと笑うとパスカルの隣に腰掛けてグラスを傾けた。
ジブリル男爵領・領都ジブラルタで血盟旅団との決戦開始です。
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