第13話 血盟旅団の乱・鏖のパスカル
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ギュスターヴはすぐにレクスに向けた書状をしたためて、信用出来る者に持たせて送り出した。
元〈義國旅団〉のメンバーで、止む無く〈血盟旅団〉に身を寄せていた者の1人だ。そのような仲間たちが意外と多いことを知ったギュスターヴはすぐに彼らとも連絡を取り合って旅団から抜けるように説得を始める。最早、現時点では武力による革命は不可能と判断したことと、苦しくとも少しでも幸せな暮らしをしてもらいたいとの想いからである。
武力で王国を何とかするのならば、使徒の勢力が大きく落ちた時を置いて他にない。その可能性が見えない以上、自分たちの幸せのみを追求して欲しいと、ギュスターヴは願ったのだ。
◆ ◆ ◆
現在、パスカルはラヴァンド伯爵領の領都ルーシを攻め続けていた。
彼女が直接乗り込んだお陰もあり、戦況は一気に〈血盟旅団〉側に傾いた。
「オラオラ! お前たち! さっさと殺っちまいなぁ!! 我々は常に力を見せ続けないといけないんだよ!!」
パスカルの貴族に、いや王家に対する恨みはとてつもなく強い。
あの時の忌々しい出来事を思い出すと反吐が出る。
今でも悪夢にうなされて夜中に飛び起きるほどだ。
目が覚めるとベッドのシーツが寝汗でぐっしょりと濡れていることなどザラである。
「貴様らッ! 賊徒共風情が領都を落とせると思うなよッ!」
「賊徒だとッ!? 汚らわしい王家の狗がッ!! 貴様ら全員地獄へ送ってやる!!」
修行僧の1撃よりも遥かに強力な右拳が唸りを上げて、ラヴァンド伯爵騎士団の騎士の腹にめり込む。装備しているプレートなどあっさりと貫通するほどの威力が、彼の体内で解放されて内部がぐちゃぐちゃに破壊され死に至る。ただでさえ強力な1撃は彼女に流れる血によって更に強化されて、それが解放されるのだ。
如何に正騎士とは言え、位階は15程度。
パスカルの敵ではない。
まさに一撃必殺の名に相応しい圧倒的な攻撃力の前に、ラヴァンド伯爵の兵は次々と物言わぬ屍と化していった。
「貴様が首領か! ここは通さん! 例え死んでもなぁ!!」
騎士団団長が要塞と化している領主屋敷への入り口で仁王立ちしている。
彼の周囲にはおびただしい死体が転がっていた。
「私が! 私こそが〈血盟旅団〉が団長、パスカル・レジスだッ! 邪魔すると言うのなら押し通るのみさ!!」
「はん! 騎士でもないならず者如きが名乗るなッ!! 俺の名が穢れるわッ!!」
その言葉がパスカルの逆鱗に触れる。
今までの表情が優しいとさえ感じられるほどの形相の激的な変化。
「穢れるだと!? 穢れると言ったのか貴様ッ!! ではその穢れきった私の血で貴様を殴り殺してやるッ!!」
「はん! 貴様などにぶべらぁ――」
「【神聖爆轟拳】」
パスカル渾身の『聖闘技』によって騎士団長の顔が柘榴のように弾け飛ぶ。
最早、罵倒することは愚か、考えることすらできなくなった頭のない死体は屋敷の壁に激突して爆ぜて散った。
「貴様らの血で穢れてしまったわ……これ以上は穢れようがないと言うのに……」
一瞬で沸騰した頭の中が今度は急激に冷えていくように感じる。
熱くなり過ぎてはいけない。
あの鬼畜にこの拳をぶち込むまでは死ぬ訳にはいかないのだ。
必ずや広げた領土を維持して他国に王国を攻めさせ、亡国の道を歩ませてやる。
そう自分に強く言い聞かせたパスカルは大音声で喊声を上げる。
「ラヴァンド伯爵家騎士団長、このパスカル・レジスが討ち取った!! 次は領主だ! 私に続けッ!!」
『うおおおおおおおお!!』
猛々しく吠えたパスカルは我先にと領主の邸宅へと侵入する。
耳に入るのは――太古の言語。
「3rdマジック【空破斬刃】」
「3rdマジック【貫電撃】」
入ったところを狙っていたらしくタイミングを合わせて魔法が飛んでくる。
反応するのは――一瞬。
何もかもを切断する風の刃よりも硬い聖なる魔力を纏った拳でそれを叩き割り、直線的に伸びてくる電撃を受け止める。電撃自体は完全に無効化はできないため、多少は苦痛で顔が歪む。最早、それは人間業ではない。
反応速度を凌駕する魔法を軽く防がれた魔導士たちに動揺が広がる。
躱されたのではなく防がれたのだ。
その隙を逃すパスカルではない。
獣の如く魔導士たちに襲い掛かると強化した右手でその体を貫く。
更に後ろ回し蹴りでもう1人の胸を蹴り上げた。
人間がここまで飛ぶのかと思わされるほどの速度で彼は壁の染みとなった。
その時、ダダンッと言う射撃音が屋敷の中に木霊する。
ラヴァンド伯爵の銃兵による一斉射撃だ。
「はぁっはぁ!! この私の領土まで攻め込んできたことを後悔しながら死ぬのだなぁ!! 野盗風情が領都を落とせると思うな!! 弁えろ!!」
「お前が大切なのは自分の領土か? それとも王国なのか?」
「な、何ぃ!?」
仕留めたと思っていたラヴァンド伯爵は、余裕のある言葉を掛けられて驚愕で目を見開く。
両腕を顔の前でクロスさせ、その場からピクリとも動かないパスカル。
全身に『聖域』を使って纏った聖なるオーラに護られて銃弾は全く届いていない。
「いやどちらにしろ貴様は私を殺そうとしているな? それは王家に対する叛逆なのさ」
「ど、どう言う意味だ……? ふはははッやはり狂人よ。第2射急げ!!」
銃兵たちが次弾の装填を急いでいるが、所詮はただの銃に過ぎない。
魔導銃や最新式の機械銃とは違い、大した性能など持ち合わせていなかった。
パスカルが力を解放する。
とは言っても全身全霊の力を持って暴れるだけだ。
それだけで兵士の腕はもがれ、頭は弾け散り、体に風穴を開けられ、体中の骨が粉砕される。
『鏖のパスカル』ここにあり。
「ま、待てぇい! このラ――」
ラヴァンド伯爵が最期に見たのは狂気の色に染まり切ったとても人間の物とは思えないパスカルの目であった。
ここに領都ルーシは陥落した。
その後もパスカルの狂気が治まるまで殺戮の宴は終わることはなく、騎士団は全滅、特に領主の邸宅内にいた者は全て黄泉へと旅立った。
◆ ◆ ◆
その頃、部隊長にされてしまったレクスも動いていた。
任されてしまった以上は、やり遂げなければならないと言う日本人の責任感からか、放置するのも憚られる。それに部隊の貴族子女たちの目もある。
特にレクスが絡まなくても鎮圧されるのが〈血盟旅団〉の乱である。
無理をする必要などないのだが、部隊の者がやる気になっている以上、動かない訳にもいかなかった。
レクス隊が攻め込んだのはジブリル男爵領ジブリール。
〈血盟旅団〉で注意するのは2人だけだ。
団長のパスカルと副団長のダビドしかおらず、統率できる者自体が少ないため戦線が崩壊するのだ。現在、パスカルはラヴァンド伯爵領に攻め込んでいるし、ダビドはヴィルヌーヴ侯爵領にいるらしいので勝負は簡単にケリが付くだろう。
やる気がなかったレクスだが、仲間に傷付いて欲しい訳ではないので先頭を切って突撃を開始した。
オリジナル魔法で一気に制圧すれば済む話。
旅団員がいる場所のみを狙うために、一応は入念な調査を行った。
「8thマジック【大砲撃】」
第8位階魔法で建物そのものが吹き飛ばされて一瞬で瓦礫と化す。
これで旅団員は何が起きたのかも理解できずにあの世行きと言う訳である。
「8thマジック【大砲撃】」
次々と溜まり場になっている建物を破壊していくレクス。
それを茫然と眺めているだけの仲間たち。
「(不満だろうけど戦いなんて碌なもんじゃねーぞ。命大事に!って奴だな)」
しかし全てを叩き潰す前にわらわらと〈血盟旅団〉の面々が表に出てきた。
手柄を立てるチャンスとばかりに部隊の仲間たちが攻撃の態勢に入るが、空気を読まずにそれを遮った者がいた。
もちろん――誰とは言わないが……。
「7thマジック【機関銃弾】」
魔力の弾丸が雨霰となって敵に降り注ぐ。
避けられる者などいない。
高度な防御魔法を扱える者もいなければ、レクスのように魔力障壁を張れる者もいない。
「7thマジック【機関銃弾】」
ただひたすら一方的に練りに練られた魔力の銃撃を浴びて体中に風穴を開けて大地に倒れ伏すのみ。
仲間たちはあまりの光景にただただ見ていることしかできずにいた。
「7thマジック【機関銃弾】」
迎え討とうとする者がいなくなったので、レクスは大声で呼びかける。
歯向かわないのなら命を取るつもりはない。
「〈血盟旅団〉へ告ぐ! 降伏するなら命は取らない! 徹底抗戦するのなら相手になるぞ!」
しかし待てど暮らせど誰も出てくる気配はない。
「っかしーなー。もういないのかな? 魔力波に感知があるのは住民だけか……」
その後、〈血盟旅団〉殲滅を呼び掛けるとようやく住民と思しき人々が外に出てきた。
そこで目撃した物は――死屍累々、屍山血河の惨状。
レクスは仲間からも住民からも畏怖のこもった視線を向けられることとなった。
血盟旅団戦が続きます。
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