第12話 討伐隊、反抗開始
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あっと言う間に2つの領土を制圧した〈血盟旅団〉は続いて西側に位置するラヴァンド伯爵領へと攻め込んだ。
彼はジャグラート王国の備えとして遠征軍の派遣前から領都ルーシへ戻り、対ジャグラートのために軍備を強化していただけあって〈血盟旅団〉も攻めあぐねていた。もちろん、隣領のジブリル男爵領が落とされたため警戒していたこともあるが、旅団が戦力を分散させていたことも原因であった。
ジブリル男爵領の領都ジブラルタで友軍の苦戦を聞いたパスカルは、苛立ちを隠そうともせずに酒場のテーブルを蹴り倒す。
「役に立たない連中さね。私がいないと都市の1つも落とせないのかい?」
パスカルは他国へと送った密使からの返事を待っていた。
神聖ルナリア帝國に速やかに挙兵してもらって、ジャグラート王国遠征軍の大軍の背後を突き、ジャグラート王国と共に挟撃することでグラエキア王国主力を粉砕できると考えていたし、海底都市ファナゴリアには南からガルサダス枢機卿やダイダロス公爵家を牽制してもらえるように依頼している。そして古代竜信仰と敵対する聖ガルディア市国(西方教会)に古代竜の使徒たちの横暴を大袈裟に伝えて北から攻め込ませようとしている状況である。
「パスカルの姐御! 神聖ルナリア帝國からの返書です」
タイミング良く書状を手に旅団のメンバーが近づいてくる。
「ようやく来たか。待ちかねたよ」
待ちくたびれたと言った様子でパスカルが乱暴に書状をひったくると、すぐに中身を改める。
一刻も早く知りたいのか、一心不乱に内容を読み始めた。
読み進める内に彼女の顔が憤怒に染まっていくのを見て、周囲にいた旅団員たちはとばっちりを恐れて徐々に離れていく。
「何だこの内容はッ! 動けないだとッ……何故、今が絶好の機会だと分からないのだ!? 王国は滅ぼすのは今を置いて他にないと言うのに……。何だと……? 使徒以外にも猛者が存在する? 当たり前だろう……使徒の血に連なる者が強いのは当然だ。うん? レクスだって? こいつを倒して見せろだと……? 誰だこいつは……」
初めは怒り狂うほどであった彼女も書状を最後まで目に通し終えて、冷静になったのか何やら考え込んでいる。
レクスと言う訳の分からない存在が出てきたのだからしょうがないとも言える。
この場にいたギュスターヴは思いもよらない名前を聞いてただただ困惑していた。
「(レクスだと……? あのレクスか? 何故、神聖ルナリア帝國からその名前が出てくるのだ? あいつが帝國相手に何かやったと言うことなのか?)」
「お前たち! レクスと言う名前に聞き覚えはあるかい!」
パスカルが皆に尋ねるが、誰にも心当たりはないようで口を開く者はいない。
皆、困惑しながらお互いに顔を見合わせて様子を窺っている。
ギュスターヴはレクスに連絡を取る好機だと思い、知っていることを伝えることに決める。
「俺が知っている。レクス・ガルヴィッシュ。俺たち〈義國旅団〉を倒した実質的な主力となった男だ」
「何!? あんたを倒したのはイヴェールのガキじゃなかったのかい?」
「ああ、怖いのはガイネルではなく、その男だ。奴らはお前たちを討伐しに来るぞ! 必ずな!」
「ほう。それは面白い……帝國が名前を挙げてくるほどの男の実力! 試させてもらおうか!」
ギュスターヴの話に興味をそそられたパスカルは先程までとは打って変わって、上機嫌に笑い出した。
「俺が渡りをつけよう。レクスも俺がいると知ればきっと現れるはずだ」
彼女の顔に警戒感が現れるも、すぐにその申し出は許可された。
ギュスターヴを逃がすような真似はしないだろうが、多少は行動に自由が許されるはずである。
「いいだろう。すぐに連絡を取るんだな。私が直接ボコボコにしてやる! その刻は帝國の見る目のなさを皆で笑ってやろうじゃないか!」
酒場の雰囲気から重たい空気は消え、聞こえるのは喊声。
良くも悪くも〈血盟旅団〉は団長、パスカル・レジスによって成り立っている。
◆ ◆ ◆
その頃、既に〈血盟旅団〉討伐隊は動き始めていた。
数で負けていても実力で黙らせる。
少数精鋭でも撃破する自信がガイネルにはあった。
〈血盟旅団〉はその数を増やしているようだが、それを分散させて各個撃破するのが彼の考えである。
前回の〈義國旅団〉討伐戦では考えさせられることが多かったが、今回は相手が腐れ外道の集団であり、容赦することは有り得ない。
それにギュスターヴには惨敗を喫したガイネルだが、着実に強くなっている。
それには大きな理由があるのだが、本人は知らないことだ。
ガイネル本隊はヴィルヌーヴ侯爵領に入ると、都市マッケスへ攻め込んだ。
速やかに見張りの兵を排除した本隊は旅団員のたまり場となっている酒場へと襲撃を掛ける。
「殲滅だッ! 敵は悪逆非道なテロリスト! 慈悲など必要ないッ!」
ガイネルの叫びと共に強襲され、彼らはすぐに大混乱に陥った。
指揮官が先頭を切って突撃しているのだ。
その士気は高く、まだ子供だと舐められる戦闘力ではない。
ガイネルは見つけた傍から斬って斬って斬りまくっており、その形相は修羅の如しである。
「3rdマジック【凍結球弾】!!」
一番手前で敵と斬り結んでいた仲間が太古の言語を聞いて大きく後方へ下がる。
その瞬間に全てを凍結させる氷球が飛来する。
気付いた時にはもう遅く回避することすらできずに、氷の彫像と化す旅団員。
しかも酔っぱらっている者が多く、次々と斬り伏せられていく。
酒場の中へ死体が散乱して、血だまりができるほどであった。
「クソ生意気なガキ共がッ!!」
少しでも威圧しようと強面を更に般若のように変えて凄むものの、その程度で怯むような討伐隊のメンバーではなかった。
「2ndマジック【雷撃】!」
「【魔封剣】!」
ガイネルの力強い言葉に封魔騎士の能力が発動する。
途端に【雷撃】は標的から外れ、彼が掲げる剣へと吸い込まれる。
これは封魔騎士の能力『封剣』の1つで、敵味方の区別なく周辺の魔法を取り込んで自らの魔力へと変えると言うものだ。
あっさりと無効化されてしまったことに茫然とした一瞬の隙を逃さずに、ガイネルが魔導士に躍りかかると上段から斬り下ろした。
彼は敢え無く体を左右に真っ二つにされて落命する。
「酒場内は制圧した! 2階を当たれ!」
「ガイネル! 街の外に逃げ出そうとしている奴らがいる!」
「追撃だ! 全員狩るぞ!」
こうなると後は一方的である。
街の出入り口は全て封鎖済みなので、逃げる者は皆殺されるか捕縛された。
弱い者には強いが、強い者には弱い典型的な狗である。
〈血盟旅団〉に奪われていた拠点は、ガイネルたちの同時多発的な攻撃により次々と陥落していくのであった。
血盟旅団戦です。レクスが頑張ってます。
ありがとうございました。
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