第11話 入学後の鑑定!?
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結局、これから開始される〈血盟旅団〉討伐戦の部隊長を任されることとなってしまったレクスは憂鬱な表情でSクラスへと向かった。
「おはよ、レクス!」
セリアがはにかんだ笑顔で挨拶し、レクスの隣に並んで歩き出した。
彼女の顔を見れたお陰で少しは気分が良くなった気がする。
すぐに挨拶を返すと2人は一緒になって笑い合う。
「何かあったの?」
「ああ、うん。〈血盟旅団〉討伐隊の部隊長をやることになってしまった……」
流石に名前を知っていたセリアが驚きの声を上げる。
レクスが〈義國旅団〉とも戦っていたと聞いていただけに心配げな表情だ。
「えッ……あのテロリスト集団の?」
「まぁね。入学早々面倒なことになった」
そこへローラヴィズが後ろからテテテッと走って来て、セリアの反対側からレクスに軽く体当たりしつつ笑顔を向けた。
「おはよう! レクス!」
「おお、ローラか。おはようさん。朝から元気だな。嬉しそうだし」
ピトッと肩を触れ合わせてくるローラヴィズは確かに機嫌が良さそうだ。
いつものクールな感じより愛嬌があるように感じられる。
「え、そぉ? 今日、鑑定の時間があるからかしら。ちょっと楽しみなのよね」
それを聞いたレクスが衝撃を受ける。
今、鑑定などされたらレクスの異常性がバレてしまう。
職業も能力も熟練度も技能も使用できる魔法も全てが詳らかになってしまうのだ。
「マジで……?」
「あら、聞いてなかったのかしら?」
「うん。先生言ってたわよ?」
2人とも知っているようで楽しみだねと言い合っている。
隠蔽するような技能を持っていないレクスとしては防ぎようがない。
思わず頭を抱えていると、2人はその様子を変なものを見るかのような視線を向けてくる。
「いつ頃あるんだ?」
「えっと、Sクラスだし最初じゃないかな」
「ええ、1限目だと思うわ」
時間がない。
焦るレクスはどんどんと追い込まれていく。
教室に入って席に着くと頭をフル回転させ始めた。
「はッ……これしかない!!」
ふと思いついた方法を直ちに実行に移すべく、ガタッと席を立つと走って教室から出て行ってしまった。
その様子を見ていた者たちが不思議そうな顔をしていることにも気付かずに。
レクスが向かったのは学園長室だ。
ドアをノックすることもなく勢いよく開けると、ヒナノがいるはずの執務デスクのところへ一直線。
「おわッ……ってレクスっちかよー何だよービビったじゃんかよー!」
「すいません。実は急なお願いがありまして……」
「えー? 大事なことはあらかじめ言っといてって言ってたじゃーん。で、なんなの?」
「さっき知ったんですが、鑑定されるって聞いたんです! これはヤバい!!」
ヒナノも流石にレクスの言葉を聞いて事の重大さに気付いたようだ。
「あーね。あーね……。そいつはヤバいねー」
「ですよね! 何とか回避できませんかね?」
「んー今日休んでも後日あるしなー。ふっふっふ……鑑定からは逃げられない……」
「そんな大魔王からは逃げられないみたいに言わないでくださいよ!! 学園長権限で何とか!!」
「えッ大魔王とかいんの!?」
「そっちじゃない!!」
予想外に喰いついてきたヒナノにツッコミを入れていると背後で、頼りにならなさそうな声がした。
「ふッレクス君。話は聞いたよ。どうやら困っているようだね……」
振り返ると奴がいた。
そう。いつの間にか駆けつける女、テレジアである。
壁に背をもたれかけて腕組みをしているいつもの光景である。
今日もヒナノの部屋の精霊獣から受けた連絡で慌ててやってきたのだろう。
「そうなんです。これはもう権力使って黙らせてもらうしかないですよね?」
「僕も見たいな!」
一体何と言ったのか、耳を疑うレクスに今度はヒナノが反応を返した。
「あーいいねー。あーしも気になるかも」
「ちょっとちょっと! 人の弱みに付け込むなんて酷くないですか?」
「レクス君……権力を振るうには対価が必要なのだよ……」
「それな」
「はぁぁぁぁ!? 前に死なないように情報教えましたよね!」
「ハッ……」
「そんなこともあったよーな、なかったよーな」
息ピッタリに惚ける2人だが、流石は相弟子である。
と言うか、分からせる必要がありそうだとレクスは考える。
「チッ……アングレス教会と神殿騎士団に言って歴史変えてやろうか」
「ふふふ……協力は惜しまないよ」
「あーしの力を使えば1発よー!!」
この変わり身の速さよ。
こいつら後で泣かしてやろうかと本気で考え始めてしまうレクスである。
しかし言質は取れたので、早速、担任始め関係各所に圧力を掛けてもらわねばなるまい。
時間はもうないのだ。
「よーし、じゃー行きますかー!」
「僕たちが行けば大丈夫さ。安心しなよ」
自信満々の2人はレクスを連れてSクラス担任のアスターゼの元へと急ぐ。
◆ ◆ ◆
「駄目です」
ヒナノとテレジアが絶句して固まってしまった。
権力をチラつかせた瞬間に間髪入れずに拒否されましたから。
「あーしは学園長だぞー!! ちゃんと従いなさいコラー!!」
「ふッ……僕は統合科長なんだよ? 即ち学園トップの2人が言っているんだよ?」
それでもめげずにチャレンジしてくれる辺り有り難いのだが。
2人の前には得体の知れない圧を与えてくるアスターゼが微笑むのみ。
「あらあらうふふ……いくら学園長たちの指示とは言え、何の理由もなくレクス君だけを特別扱いすることはできません」
ぐうの音も出ないほどのド正論で殴られて追加ダメージを受けるヒナノとテレジア。彼女たちは膝から崩れ落ちるとポツリと呟くように言った。
「そ、そんなぁ……先生は僕が死んでもいいのかい?」
「あーしももうちょっとくらいは生きたいかなーって」
「生きる? 死ぬ? なんですかそれは?」
もちろん、他人からすれば意味不明な発言である。
レクスはこいつら本当に天才なんか?と思い始めていた。
「レクスっちーここはもう先生も巻き込んでしまうしかないのでは!?」
「そ、その手があったかーーー!!」
駄目だこいつら。
レクスは自分が頼ったのが馬鹿だったと素直にそう反省した。
「いやいや。鑑定自体がアレなんですよ。鑑定士にも分かるんですから!」
「!! そーいやそーね。いやーさっすがレクスっち」
「君は学園No1だ!」
最早、自分の力で何とかするしかない。
そうは思うが一体何ができるのかと問われれば何も出来ないと言うしかない。
「先生、ここ最近は、個人情報保護が叫ばれてるんです。自分のデータが明るみに出て、しかも多くの人に共有されるなんて僕は耐えられません! 個人の権利が尊重される時代なのです……僕は鑑定を受けません。諦めてください」
「あらあら、個人情報保護ねぇ……確かにそんな考え方もありますね。やはりレクス君はそうなのね。それじゃあ仕方がないかも知れませんね」
「え?」
「えー?」
「はぇ?」
苦し紛れ……と言うより苦しさしかない言い訳に、何故か納得するアスターゼ。
それを聞いた3人は思わず耳を疑った。
「えーえっと……俺は鑑定を受けなくても良いと言うことでいいでしょうか?」
「はい。いいですよ。アナタの事情は分かりましたから」
レクスは狐につままれた気分である。
本当に何故かは不明だが、謎回避することができてホッとするレクスであった。
同時に今後もヒナノとテレジアを頼っても良いものだろうかとも考えてしまうのであった。
本格的に血盟旅団戦に入ります。
ありがとうございました。
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明日も12時の1回更新です。




