第12話 戦神ホーリィ・エカルラート
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何とかメラルガンドを倒したガルガンダたちであったが、生き残ったのはレスタとレクス、ミレアと商人たちだけで、他の傭兵たちは全員助からなかった。
幸いミレアは光魔導士だったので治癒の魔法が使える。
大怪我を負ったレスタを回復させているところだ。
ガルガンダはと言うと突如として現れメラルガンドの首を落とした者へと近づく。怪我で余裕はないが、彼女がとんでもない存在であると知っていたからだ。
「戦神ホーリィ殿、ご助力感謝する」
戦神ホーリィ・エルカラートは古代神の下につく亜神であり、少女のような風貌をしているが実際は齢800越えの化物だ。
それを知っているガルガンダは柄にもなく丁寧な言葉を選んで話しかけた。
「別にいいわぁ……。面白い子も見つかったことだしね。この子について教えてくれるかしらぁ?」
首を落とした片刃の超大剣を背中に担ぎ直しながらホーリィが尋ねる。
「オレが知ってるのはスターナ村のガルヴィッシュ家の嫡男で名前はレクス。暗黒導士ってェ事だけだ。スマンが細かいことァ知らないな」
「スターナ村ぁ……? 暗黒導士ぃ……? その割に剣の腕が良かったわぁ。さしずめ田舎に現れた英才って所かしらね」
「アンタにそんな評価をされるとは光栄だろう。レクスが聞けば泣いて喜ぶだろうさ」
レクスは渾身の一撃を入れた後、力尽きて気絶している状態だ。
ホーリィはそんなガルガンダの言葉を聞きながら、レクスの傍にしゃがみ込むとその頬をつんつんと突き始める。
その表情はまるで面白い玩具を見つけた子供のようににこやかで晴れやかだ。
「ほーれほれ。レクスぅー? そろそろ起きなさーい」
「むぐむぐ」
そんなどこか平和的な行動にもガルガンダは油断しない。
亜神など気まぐれで人間のことなど何とも思っていないと考えているからだ。
助けに入ったのもどうせ気まぐれだろうが、救われたのは事実。
レクスに興味があるのなら、それでいいし全て押し付けるつもりでいた。
ガルガンダがホーリィを知っていたのは過去に聖ガルディア市国、通称西方教会の祭典で偶然見たことがあったからで、その強さや性格などにかんしては全くの無知であった。
以前から古代神の存在に懐疑的で、亜神などと言っても情報が大袈裟に流布されているだけだと考えていたガルガンダだが、メラルガンドにトドメを指した所を見ても未だ信じられない。
だが1つだけ分かることがあった。
その身から圧力をかけられたかのように感じる圧倒的な神聖力だ。
いや神聖力に似た何かか?
「(しかしレクスが戦神ホーリィのことを知っていたのは何故だ……?)」
それだけが解せない。
たかだか10歳程度の田舎の子供が亜神を見たことがあるとは思えずにいた。
「団長。ご無事なようで何よりです……」
「あ、ああ……オメェさんも回復したようで良かったぜ。あのお嬢ちゃんには感謝だな」
「しかし仲間が全滅してしまいました」
「仕方ねェ……王都周辺にC+ランクが出るとは……。オレの油断だ」
全身に火炎を喰らって大火傷を負ったレスタが無事に回復できたのは僥倖であった。火傷の痕は残っているが生き残れただけ儲けものである。
「そんな……誰にも予測などできませんよ。どうしますか?」
「取り敢えず、次の村でロドスに使者を出して全員を王都に向かわせる。俺たちはこのまま王都まで護衛を続ける」
「このままですか!? 2人……レクスくんを入れても3人ですよ!?」
「なァにホーリィがいる。何とかなるだろ」
「なッ……彼女が亜神だと言うのですか……? 俄かには信じられませんが……」
「本人だ。恐らくなァ。何だか知らねェがヤツはレクスを気に入ったようだ。アテにさせてもらうぜ」
レスタはレクスの横にいる少女が亜神とは信じられないようでその表情は冴えない。まぁ無理もないかとガルガンダは心の中で呟く。
「お嬢ちゃんに回復を頼む。レクスの後でオレもしてもらわねェとな」
※※※
ガルガンダに頼まれるまでもなくミレアはすぐにレクスの下に向かい、光魔法を行使していた。未だ気を失っているレクスの傍ではホーリィがどこか楽しげな表情でその様子を眺めている。
「――ス! ――クス!」
誰かに呼ばれるような気がして沈殿していた意識が浮かび上がる。
「んあ?」
どこか間の抜けた顔で上体を起こしたレクスにミレアが抱きついた。
「よかったぁ! よかったよ~!」
「ん? ああ、ミレアか。何がどうなった?」
そう言いつつも、少しずつあの時の状況を思い出したレクスがミレアの後頭部を優しく撫でる。お陰で少しだけ落ち着きを取り戻しながらも、より強くぎゅっと抱きしめると体を離してレクスの顔を見つめ、その頬をつねった。
「いだだだだだ!」
つねられたこともそうだったが、未だ痛む体が悲鳴を上げたのだ。
「もう! 心配したんだからねッ! もうあんな無謀なことはしないで……」
「仕方ないだろ。あそこで踏ん張らなきゃ皆死んでたんだぞ」
「そこはもうしません!でしょ!」
「分かった分かった!」
そんな2人を生暖かい目で見守っていたホーリィが口を挟む。
「ちょっとお2人さぁん、いちゃいちゃするのはそれくらいにしときなさぁい」
「えっと……誰なの?」
ミレアが恐る恐る尋ねる辺り、ただ者ではないことくらいは理解しているのだろう。そういうレクス自身もあまり自信がないのだが、徹底解説ガイドに乗っていたグラフィックからも間違いないと見ていた。
本人からの自己紹介があるかと思い、チラリと一瞥するもホーリィは何も言う気がないようであった。
仕方がないのでレクスが口を開く。
「亜神だよ。このひ、この方は戦神ホーリィ聖下だ」
ミレアは神話に興味がないのか、ピンときていないようだ。
頭の上に?マークが浮かんでいる。
亜神は長き刻を生きた後、神となる運命にある。
もちろん神と言っても古代神の従属神であるが。
「それにしてもアナタぁ……面白い魂の色をしているわぁ。是非、神人になる気はないなしらぁ?」
神人というのは宿星の種と呼ばれる物を宿すことでなれる古代神や亜神の僕である。動けない古代神の代わりに亜神や星を導く者によって見いだされ、神人になる資格を得ることができる。神人はその身に膨大な神星力を宿すと言われている。
「ないですね。人間辞める気はないので(俺は人間辞めるぞーー!!とは言わないぞ)」
「それは残念ねぇ。まぁ無理にとは言わないわぁ……でも私のことを知っていたのは何故なのかしらぁ?」
また答えにくい質問を……とレクスは面倒臭そうな表情になってしまう。
まさか徹底解説ガイドに載っていましたとは言えない。
ここは適当に話をでっちあげるのが最善手だ。
「王立学園の図書館にあった本に載っていた記憶があります」
「ふぅん……本に載るようなことはしてないはずなのにぃ?」
言葉から納得していないのが伝わってくる。
確実にしていると思うレクスであったが面倒なので言わない。
その表情から何も言う気はないと理解したのか、ホーリィはため息をつくと何かを企んでいるような不敵な笑みを浮かべる。
「まぁいいわぁ。アナタのスキルも見たことないし興味が沸くわぁ。しばらく一緒に居させてもらうから覚悟しなさいぃ?」
「残念ですがもうすぐ学校が始まるんです。寮生活ですし聖下は入れませんよ? それに古代竜信仰のこの国にいてもいいんですか?」
「問題ないわぁ。人間の振りをしていれば何とかなるでしょうし」
「まぁ俺に止める権利はありませんね」
諦念を込めてそう言うとホーリィは満足げにニッコリと笑った。
その後、ミレアがガルガンダの回復を終えるとすぐに王都へ出発することに決まる。このまま2人だけで護衛する気なのかと少し驚いたが、その意図に気付いたレクスは何も言わずに馬車へと乗り込んだのであった。
王都への旅は順調で、魔物の襲撃もなく予定の通りの到着となった。
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