第9話 血盟旅団の乱・拡大
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〈血盟旅団〉は秘密裡に動き出した。
ヴィルヌーヴ侯爵領にある街や村落を襲撃してその勢力を広げていく。
人質を取って密告を推奨し、少しでも叛逆の意志を見せた者、逆らう者には等しく死が待ち受けていた。
更には街のならず者や爪弾き者を戦闘員に加えて、増々メンバーは増加する。
パスカル・レジスは完全に侯爵領を掌握し、北に広がる精霊の森を抜けて北西にあるジブリル男爵領へ侵入した。
剣を取り上げられて軟禁状態で同行させられているとは言え、何とかしたいギュスターヴはレクスに何とか渡りを付けたいと考えていた。
流石の守護騎士も剣がなければ『豪剣』を使いこなすことはできない。
「パスカル・レジス……あの女は危険だ。確か聖闘士だったか? 神聖なるその力を何故、民のために使おうとしないのか……」
パスカルはヴィルヌーヴ侯爵領を奪い取った余勢を駆って、ジブリル男爵の領都ジブラルタに攻め込んだ。そして前回の戦いと同様に領都内に伏兵を忍び込ませ、外からの攻撃に呼応させて一気に陥落せしめてしまった。
ジブリル男爵の妃と子女を捕らえたパスカルはご機嫌な様子で、その夜酒場に姿を見せる。
それに〈血盟旅団〉のメンバーたちは歓喜の声で出迎えた。
ギュスターヴも後ろ手に縛られたまま連れて来られていた。
早速、パスカルが酒を受け取ると呑み始める。
今回の作戦も上手くいったため、上機嫌な様子で笑いが止まらないようだ。
「ふふふ。なんともつまらんものだな。貴族の本拠がこうも容易く落ちるとは。どうだ? 今回も見ていたろう? そろそろ仲間になる気になったか?」
相変わらずギュスターヴを仲間に誘うパスカル。
それを聞いて憤りを強くした彼は、とても理解できないと言った表情で怒鳴り返す。
「なる訳がないだろう! お前は血を流し過ぎている。しかもこの地を治めるジブリル男爵は民を軽んじることなく、彼らのことを想い善政を行っていた。打倒する意味などないはずだ!」
「お前は馬鹿か? そんなことなど関係ないのさ。私は〈義國旅団〉のように貴族に平民の権利なんぞを認めさせるつもりなどないのだからな。認めさせると言う行為自体が貴族を上に見ているのが分からん訳でもあるまい。我々が貴族を滅ぼすのは当然であって逆らうのなら平民だろうがそこに区別などない」
平然とそう言ってのけるパスカルにギュスターヴはヴィルヌーヴ侯爵領で聞いた言葉を思い出した。
「!! お前の目的は国家の建設なのではないのか? そんなことをすれば国の支えとなる民はついて来ないのは明白だ!」
「強い者が弱い者から奪うのは当然の権利だ。我々は貴族が力を落とそうとしている今を逃さずに動いているに過ぎない。私は貴族に成り代わると言う訳だ」
「お前の勢力が弱まれば、途端に取って代わろうとする者が出てくるぞ! 永遠に続く安定を得るためには偉大なる指導者が現れるか、民が自ら協力して身分の上下のない国を作る必要がある!」
彼女が強さを持っていたとしても古代竜の血に連なる者たちの強さは想像を絶する隔絶したものだ。それは比較にならない。
「そうだな。では私が強いままであれば良い。そうして永遠の楽土を創り上げてみせるさ」
「これからどうするつもりだ……?」
「知れたこと。幸い今回は良い資金源を得た。大金も領土も手に入ると言う訳だ。次はアドラン公の領土でも攻めてやろうか? ははははは!」
わずかな間に酒を何杯も呑み続ける彼女が大見栄を張った。
それはギュスターヴにとって正気の沙汰とは思えない言葉であった。
「……!! 資金源だと? それに使徒を攻めると言うのか? お前はアレの強さを理解していない」
「まぁ見ておけ。資金はすぐに手に入るさ。お前の言うように善政を敷くような領主なら尚更だ。それに使徒を駆逐しなければ王国……いや世界は変わらんぞ? それを良く理解することだな」
そう言ってパスカルは酒場の床にギュスターヴを転がすと、本格的に呑み喰いを始めた。彼女の中では既に1枚の青写真が描かれており、それに沿って動いているのだが、ギュスターヴにはそれが理解できていなかったし上手くいくとも思っていなかった。
◆ ◆ ◆
「何だと……? それでは領都が落ちたと申すのか!?」
たった今受けた報告のせいでジブリル男爵は思わず怒鳴り声を上げてしまった。
温和な彼がここまで鬼気迫る表情を見せることはない。
自分が王都にいたことで領都を護れなかったと言う口惜しさがあるのだ。
「……はい。抜け出した家の者が知らせて参りました」
「相手は〈血盟旅団〉だと言うのか。最悪な相手ではないか……それでは私の家族は、民はどうなったのだ。皆殺しにでもされたか?」
怒りが溢れ出てくる心を何とか抑え込みながらジブリル男爵は冷静になれと自分に言い聞かせながら尋ねた。だが返ってきたのは無情な答え。
「いえ、ご夫人とご子息、ご令嬢は監禁されているようにございます」
「すぐに王国へ報告だ。討伐隊を直ちに出して頂かねばならん」
何とか怒りを沈めたジブリル男爵は即断した。
既に各地で討伐部隊が〈血盟旅団〉と戦っているのだが、戦況は芳しくない。ジャグラート遠征軍に多くの兵が割かれ、地方貴族領にそれほど多くの兵が残っていないせいでもあるのだが。
「閣下! 〈血盟旅団〉を名乗る者から書簡が参りました!」
「何ッ……? 書簡だって? このタイミングでか?」
「使者が直接持ってきたようです」
「ほう。〈血盟旅団〉の者が来たと言う訳か。しかも貴族街にまで侵入できるほどの者が。とにかく書簡を見せてくれ」
手渡された書簡をの内容を読み進める内に、ジブリル男爵の手がワナワナと震え始める。
「閣下……書簡には何と……?」
「奴らめ、身代金を要求してきおった。王国へ報告すれば皆殺しだそうだ」
「なんと……!!」
「これでは大々的に動くことはできん。ここはローグ公に……いや、イヴェール伯爵家に頼むしかあるまい」
ガイネルの部隊が動いていたのはあくまでローグ公の命令によってである。
王国が直接命令した訳ではない。
「イヴェールにでございますか?」
「彼らの部隊は〈義國旅団〉を壊滅に追い込んだ。裏で動いてもらうには彼らが適任だろう」
ジブリル男爵はそう決めてから、使者に会うことにした。
「どんな奴か見定めてやる」と意気込んで使者を待たせている応接室へ向かうと、中には爽やかな印象を受ける紳士然とした人物が座っていた。ふてぶてしい態度の無頼漢だろうと考えていたジブリルは大きく外れた予想に警戒感を高める。
「よくものうのうと顔を出せたものだな」
「これも運命でしょう。男爵閣下は奪われる者へと変わったと言うことです」
そう嫌味ったらしく言葉を掛けるが、相手もいけしゃあしゃあと言ってのける。
ジブリル男爵からすれば心外な言葉であった。
民から奪ったつもりなど毛頭ないからだ。
「領都や領内の者たちには手を出していないのだろうな?」
「ええ、今のところは……ただ身代金をお支払い頂けないようならご家族が死んでいくことになりましょう。期限を過ぎても……ですね」
「地方の弱小男爵家にはちと大き過ぎる額なのだがな」
「奪えば良いでしょう。領内から掻き集められるのでは?」
「そのようなことはせん。できるはずもない」
「では他のご貴族方から借りるしかございませんね?」
淡々と話をする男にジブリル男爵の腸が煮えくりかえるが、表情には出さない。
絶対に殺してやると心に誓ったはいいが、男はニコリと笑って更に逆なでするような言葉を吐いた。
「いやぁ、本当に良い邸宅だ。私もしばらくご厄介になるとしましょう。部屋や食事の用意をお願いしますね。あ、私が死ねばすぐに伝わりますので無駄なことは考えられぬよう……」
この後、怒りに燃えたジブリル男爵はすぐにイヴェール伯爵家の邸宅へ向かうこととなる。
血盟旅団の動きが活性化します。
討伐隊にレクスがまたまた組み込まれて……
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