第8話 籠絡される漆黒龍派
いつもお読み頂きありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。もっと確認せねば……。
本日は12時の1回更新です。
グラエキア王国の王都グランネリア。
その貴族街のとある邸宅にて密談が行われていた。
参加しているのは、以前からカルディア公によって漆黒竜復活のための謀議に噛んでいた者たちだ。
「もうずっとカルディア公爵からの召集がない……これは一体どうしたことだ?」
「卿も多忙だ……そのようなこともあるだろう。だからこそ我々だけで事を進める刻だろう」
「我々は試されていると言うのか……?」
「まさかとは思うが、今頃になって心変わりされたのではあるまいな?」
貴族たちの口から出てくるのは不安の言葉ばかり。
そもそも漆黒竜の復活を目論むなど、強力な力を持つ貴族――使徒である公爵家の後ろ盾でもない限り無謀な話である。
アングレス教会に漏れようものなら異端審問を受けて異端者の烙印を押されてしまうのは間違いないだろう。いやカルディア公以外の使徒に漏れても断罪されるのは目に見えている。
それでも彼らがカルディア公に従ってきたのは、寄り親であったり、6公爵家の中でも彼の派閥であったり、同じ盟主派だったりする者ばかりであった。
彼が企むのだからよっぽどの理由があるのだろうと、誰も尋ねることができなかった。そうでなければ、かつて聖イドラによって古代竜の血と宝珠、そして伝説の武器や魔法を授かり、漆黒竜を滅ぼした意味がない。
敵対する古代竜――漆黒竜を復活させて良いことなど少し考えれば何もないのだが、参加していた貴族たちの多くはカルディア公の考えを理解すらしていなかったのだ。
それが単なる私怨から来るものだったのだとも知らずに。
「私は思うのはケルミナス伯爵のことだ……カルディア公は竜神裁判で彼を切り捨てた。これはそう言うことなのではないかとな……」
「つまり我々も切り捨てられたと言うつもりか?」
「馬鹿な! そんなことをしてカルディア公に何の得があると言うのだ?」
「そうだ。如何に使徒とは言え、多くの貴族を敵に回して良いことなどないはずだ」
場に沈黙が降りる。
誰もが正答を持っていなかった。
その中で1人の老年の貴族が重々しい口を開く。
「皆は知っておるか? 竜神裁判の後、ケルミナス伯爵の領都の邸宅が襲撃されたらしいのだ……」
「何ッ!? 切り捨てるだけではなく消したとでも言うおつもりか?」
「信じられんな。私は王都でケルミナス伯爵と会ったぞ? 以前と何も変わった様子はなかったと思うが」
「真か? わしは焼け落ちた邸宅からケルミナス伯の遺体すら見つからなかったと聞いたのだが……」
「襲撃を受けたが生き延びたと言うことか?」
皆が皆、矛盾したことを主張していた。
まとめ役のいない談義など意見が散らかって混乱を生むだけだ。
その中で、興味深い発言をする者が現れる。
「私はあの傲慢と共にいるところを見たぞ」
ほとんどの者が暗闇の中、ビクリと体を振るわせて驚愕に顔を歪めている。
「あの傲慢のスペルビアか?」
「あの人外か……」
「長老衆筆頭ではないか。何か別の思惑があると思うのだがな……」
貴族の多くが考えていることの1つに『長老衆と関わっても碌なことがない』と言うものがある。あの7人に絡まれたり目を付けられたりすると言うことは、必ず何らかの厄災に巻き込まれると皆が考えているのだ。
「聞いたことがあるぞ。ヤツは神を蘇らせてみせると豪語していたとな」
「そのようなことをどこで聞いたのですか? そのような大それたことを軽々しく口にして王家や公爵家から目を付けられないはずがないと思うのですが……」
「お若いの。あの7人は特別なのだよ。全員が深淵を覗く者たち……彼らに意見できる者など使徒でもおらぬ」
「神と言うのは古代竜のことではないのか?」
確かに古代竜も神として祀られているのは間違いない。
実際には神ではないのだが、それを知る者はここにはいない。
「私は奴の性格から考えれば古代神か漆黒神……どちらかと言えば漆黒神ではないかと考えている。それにケルミナス伯爵は神々のことを調べていた。それこそ禁書まで探ってな」
しかし若くして当主になったばかりの貴族は納得がいかないようだ。
「そのような大それたことを考えるとは思えませんが」
「道を簡単に外れてみせるのが長老衆と言う存在なのだ。あれを人だとは思わぬ方が良い」
その時、部屋の窓に掛けられていたカーテンが風に靡いて大きく揺れた。
突然の出来事に貴族たちの注意が逸れる。
そこに――いた。
仕立ての良い漆黒のローブを身に纏った老いた男が。
開いたカーテンからの窓から覗く月の光に照らされて。
しかし月を背にしているのと、フードを深く被っているためにその表情を窺い知ることはできない。
「ククク……グラエキア王国貴族諸侯の皆様……今宵は神々の談義に華が咲いておるようですな」
「何者だ!」
「ククク……わしの名をカルディア公から聞いてはおりませんかな?」
「貴様のような者は知らんな。話を聞かれたからには捨て置けん。斬り捨てるまでよ」
「わしの名はガルダーム……漆黒の大司教と呼ばれる者でございます。このような老いぼれを斬るなど話を聞いてからでも遅くはないと思いまするが?」
得も言われぬ迫力に圧されて誰も動くことができずにいた。
皆、ガルダームの言葉によって体を縛められているのだ。
「カルディア公は動きたくても動けぬのです。彼が漆黒竜を復活させようとしているのはカルナック王家との力の均衡を保つため。全ては国のために行っていることなのですぞ」
「王家との均衡だと? カルディア公は盟主派だ。カルナック王家に害となることなどするはずがない!」
「ククク……王国は盟主派と使徒派に分かれて勢力争いをしておりますが、使徒派の思いは単純なもの。王家の力が強くなり過ぎないように調整しようと言うただそれだけなのです。そもそも古代竜は皆、同じ存在であり、そこに序列など存在しませぬ。序列を生み出したのは我々人間なのです……そこでかつて敵対していた漆黒竜を復活させ使徒の1人として覚醒させることで王家を牽制し、各使徒の力を平均化してしまおうと言う簡単なお話でございます。現にカルディア公を除く5公爵家は現状のバランスに不満を抱いている。それは皆様方が1番ご存知のはずではありませぬかな?」
「均衡を図ると言うが、それなら何故、漆黒竜でなくてはならんのだ? 他の古代竜を呼び出せば良い話であろう」
「ククク……王家の黄金竜アウラナーガと漆黒竜ガルムフィーネは対なる存在でございます。両者は必ず対立しましょう。しかし他の古代竜には漆黒竜との間に確執などないのです。これなら対立する両者を調停する形となり3勢力の力は拮抗する。そう言う訳でございます」
「漆黒竜は孤高なる存在と言うことか? もし彼奴が暴走したとしたら何とするのだ?」
「最早、漆黒竜が暴走することなど有り得ませぬが……もしそうなったとしても使徒が協力して封印してしまえば良い話ではございませぬか?」
暗い部屋の中でガルダームの瞳がヌラリと煌めく。
その言葉にそれもそうかと貴族たちは納得する。
たかが漆黒竜が復活してかつてのように暴れ始めたところで12使徒がいる限り問題など起こり様がない。そう考えた貴族たちから意見が出なくなったところで、ガルダームが締めくくりの言葉を掛ける。
「動けぬカルディア公との間をわしが取り持ちましょう。皆様には引き続き漆黒竜復活を支持して頂きたい。それが世界の安定化に繋がるのですからな。ククク……」
今、世界は荒れている状況だ。
特に王国の状態は極めて悪いと言える。
世界の安定化と言う甘い言葉によって貴族たちは絡め取られていく。
ガルダームはカルディア公が築いてきた信頼を使って貴族たちの心を繋ぎ止めることに成功した。
全員が解散した中、外に出たガルダームは愉快そうに笑った。
「ククク……嘘ではない。漆黒竜復活の暁には世界は1つにまとまるであろうよ……」
漆黒の帝國復活を目論む、邪悪ムーブのガルダームさんが何か思わせぶりなこと言ってますね。貴族さん信じんのかな?
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。




