第7話 親睦会
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入学式と自己紹介が無事に終了して、レクスはカフェで親睦を深めるべく生徒たちを誘った。
来ることになったのはシュナイド、フィーネ、カサンドラ、リスティル、ディアドラ、テレサ、マルグリット・ファビウス、アレクシア、ランドルフォ、ローニャ・ヘルマン。
もちろん、セリアとローラヴィズも一緒である。
「いやー今日はありがとな。Sクラスの仲間になったことだし、仲良くしようぜ」
レクスがニコニコ笑顔でそう切り出すと早速、噛みついてくる者がいた。
「ぬわぁーにが仲良くだ。俺様は別に仲間なんて思ってねぇけどな!」
「コラッ! シュナイド! 別にいいじゃないの! せっかく同じクラスになったんだぞッ!」
予想通りの反応にレクスは計算通りと心の中でガッツポーズをキメる。
「うわッ……悪かったよフィーネさん……」
「分かればよろしい!」
一瞬で上下関係が理解できるやり取りである。
レクスは職業が魔人であるシュナイドの行動に常に注目していたため、2人の関係性にすぐ気付いたのだ。
「じゃあ、取り敢えずは乾杯!」
皆が注文したドリンクを掲げた笑いが広がる。
レクスが頼んだのはコーヒーである。
前世界からのコーヒー好きのレクスにとってこの世界にもあったのは非常に嬉しいことであった。
「それでな? 明日っから授業な訳だが……中等部って難しいのか?」
「えー難しいってことはないんじゃないの? ボクはチラっと先輩に聞いたんだけど大したことないって言ってたよ?」
「リスティルはもう知り合いがいるのか。まぁ貴族だし当たり前だよな」
「貴族同士の繋がりは小さい頃からある人が多いのよ。私も中等部には知り合いがいるし」
ローラヴィズも有力な侯爵家の令嬢だけあって繋がりを持つ家は多いようだ。
「いいなぁ……私はあまりいないのよね。友達作らなきゃ」
「セリアは良い子だからきっとすぐできるよ。俺が言うんだから間違いないぞ」
「ふぁッ!」
レクスが褒めると、何故か変な声を出して頬を赤く染めるセリア。
「セリアさんとは仲良くできそう……これからよろしくお願いしますね?」
カサンドラは平民だが、言葉遣いから所作まで丁寧な面が見て取れる。
見た感じは清楚なお嬢様なのだが、何処で身につけたのか気になるところだ。
「別にセリアって呼んでもらっても構わないわ。そもそも王立学園の校風はそんな感じだって聞いたもの」
「ええ」と言って頷くと改めて丁寧な挨拶をするカサンドラ。
「セリア。セリアね! 貴族なんだよね? どうしてあまり知り合いがいないの?」
アクレシアは疑問なようだが、分からないでもない。
貴族と言えば家同士の繋がりを重視する。
血縁に拘るのが良い例である。
「私は暗黒騎士だから……あまり社交界に出てなかったの。それに派閥にも入ってないしね」
「げぇ……派閥なんてあんのかぁ? 貴族ってメンドイのな。なりたくないわー」
「コラコラ。そんなこと言わないの! それにキミはなりたくてもなれないんだからねッ!」
貴族の一面を聞かされてシュナイドが嫌そうな顔になるが、すぐさまフィーネに突っ込まれている。質問したアレクシアはあまりピンときていないようだ。
「ふぅん。変なとこに拘るんだねぇ! 貴族って大変なのかぁ!」
「ほら、こいつもメンドイって言ってるぞ!」
「言ってないから! 勝手な解釈しないのッ!! 後こいつって言わないのッ!! アレクシアさんでしょ!!」
「わぁーった! フィーネさん、ゴメンって!!」
セリアがあまり社交界に出なかったのは暗黒系の職業だったからと言う点が大きい。幼少期から美しく、また可愛かったセリアは頭もよく、剣の腕も達者だったのだ。暗黒導士でなかったら今頃はレクスとの関係性はなかったかも知れない。
「セリアさん、これを機に友誼を広げていけばいいじゃありませんか。わたくしもそれを望んでいますわ」
ディアドラが優しげな表情でニコッと微笑みながらそう言った。
大人気のセリアである。
彼女としても嬉しいのかいつもより笑顔が増えて可愛らしい。
「ディアドラさん、こちらこそよろしくお願いしますね!」
「うーん。皆まだまだ固いッスねぇ……さっき校風がどうとか言ってたじゃないッスか。皆、呼び捨てでいいんじゃないスか?」
そう言い出したのは聖女のマルグリット・ファビウスだ。
聖女にしては砕けたところがある印象を受ける。
自己紹介でティア聖教国出身と言っていたが、あの絶対神ガトゥ信仰のあった国の出身だ。
彼女には何かあるとレクスの直感がそう告げていた。
「そうかしら。でも確かに貴族も平民も関係ないんだから別に呼び捨てで構わないと私も思うわね」
ローラヴィズも同じ考えのようでマルグリットに優しく微笑みかけている。
「よく下の名前で呼べって強制してくる奴がいるけど、ボクは好きに呼べばいいんじゃないかなって思うけどね。あ、これはマルグリットのことじゃないよ? そんな風潮があるってだけでさ」
リスティルの言葉を聞いてレクスも思い出していた。
前世界でもあったよなぁ……と。
「帝、帝」と呼ばれたり、俺のことを下の名前で呼べと言われたり、それが当然であるかのような空気が何処か存在していたのは確かだ。
親しき仲にも礼儀あり。
ではあるが、当人同士が良いならそれで良いのだ。
各々の関係性に任せるのが1番良いとレクスは思っている。
「そうですよ! あたしなんてあだ名を付けちゃいますよー。セリアちゃん。ローラちゃん。マルグーちゃん」
ローニャ・ヘルマンが早速よく分からないあだ名を付けているが、マイペースな少女のようだ。
「自分、マルグーッスか!?」
マルグリットが何処か不満げな声を上げるが、ローニャはどこ吹く風である。
「わたしはラ・アルゴン帝國出身だからねー。皆、おおらかで豪快なんだぁー!」
「関係あります!? 単に大雑把なだけじゃないッスか!? まぁ自分は別にいいッスけど……」
ローニャはいつも機嫌が良さそうに笑っている。
周囲を明るくしてくれそうな、そんな少女だ。
「ふッ……このような場で不毛な議論など愚かなことです。もっと建設的な話をするべきです!」
まったく議論などしていないのだが、確かにくだらない話ではある。
この怪しく嗤う眼鏡の少年はランドルフォ。
レクスが注目する1人で召喚士である。
「(仲間にしたらすげー裏切りそう)」
「建設的? 建物のお話をするってことかな?」
ローニャが寝惚けたことを言っているが、ランドルフォは眼鏡をクイッと手で上げながら勝ち誇ったような顔で言い返す。
「ローニャ君……貴女はもっと勉強するべきだと思いますよ」
どことなく芝居がかった感じなのだが、自分の怪しさを演出しているのだろうかとレクスは少しばかり自分の見る目を疑い始めた。
「だー親睦会だってぇのに名前の話ばっかししてんじぇねぇよ!」
「おッ! ちゃんと親睦会だって分かってたんだねッ! あたしは嬉しいよ!」
「まぁそれはさて置き、今年から統合科になったみたいだけど何でか知ってるかしら?」
ランドルフォに気を遣ったのか話題を変えるローラヴィズであったが、誰も心当たりがないようで首を横に振るばかりだ。
「魔導士でも剣を振るって戦う時代が来たってことだろ。逆に騎士でも魔法を使えなきゃ生き残れない」
「レクスはどっちも強いものね。確かにそうなのかも知れないわね……私はちょっと苦手かも……」
心当たりはないがレクスは自分の考えは間違っていないと思っている。
それを聞いたローラヴィズも何処か思い当たることでもあるのか、納得顔で頷いているのだが、彼女に剣のイメージが湧かないレクスである。
「剣なんか振っときゃなんとかなんだろーがよ。ま、俺様は闇魔法で瞬殺してやるがな」
「お、シュナイドって闇魔法習得してるのか? 何位階?」
「それが、魔人はレアな職業らしくてな。そもそも闇魔法の魔法陣がねーのよ。だから中等部に入った訳だが」
やはりこの世界は魔法陣を覚えてナンボである。
職業点で習得はしても魔法陣がないとどうにもならない。
闇魔法や古代魔法は秘境や遺跡などに行かなければ見つけられない。
そんなイベントも多いのだ。
「魔人ねぇ……貴方も差別されたりしたの?」
セリアはシュナイドに自分を重ねたのか、そんな質問を口にした。
暗黒系と言うだけで忌避されるのは納得できないのだろうが、レクスも暗黒導士なのでその気持ちは分からんでもない。
ただ運が良かったのか、村で差別を受けるようなことはなかった。
だからこそスターナ村は何としても護りたいと考えている。
「差別ぅ? んなもん気にしちゃいねーよ。イチャモンつけてくるヤツらは殴り飛ばすだけだぜ」
「まぁねぇ。偏見はあるよね。シュナイドも散々絡まれてたし」
2人の話を聞いてセリアは何を思ったのだろうか。
彼女は差別はされていないだろうが、貴族から陰で色々言われてはいそうだ。
「大体、闇魔法も暗黒魔法も最大の攻撃力を誇るんだぞ! その恩恵を受けんのは誰だって話だ」
「フッ……大いなる力を扱えるのは君たちだけではありませんよ。私の召喚獣で全てを薙ぎ払って見せましょう!!」
魔人と暗黒導士の名前しか出さなかったことが不満だったのか、ランドルフォが張り合ってくる。結構負けず嫌いな面もあるようだ。
「あーん? 召喚士なんか獣風情の力を借りてるだけじゃねーか!」
「それは聞きづてなりませんね。シュナイド君。幻界から呼び寄せるのにどれほどの魔力が必要か!」
「そうだよ! シュナイドも言い過ぎなんだからねッ!!」
「ちょッ!? フィーネさんはコイツの味方なのかよ!」
「流石はフィーネ嬢。見る目があるようです」
シュナイドとランドルフォが言い合いを始めたので皆、見て見ぬふりをし出した。2人に挟まれたフィーネだけが巻き込まれている。
「ま、職業が何で、能力がどんなものだろうが関係はない。俺が今日ここに呼んだのはここにいる皆が将来有望だと思ったからだ。まーもちろん仲良くしたいと思ったからでもあるけどな。皆は強くなる。俺が保証するよ」
何か突発的な、予想外のストーリー進行に備えておく必要がある。
その時に力を貸してくれる仲間を作っておきたいと言うレクスの打算的考え。
言葉通り仲良くしたいと言う気持ちももちろん持っているが。
「んー。光栄だね。キミにそう言われると悪い気はしないよ。でもレクスは女の子には誰にでもそう言ってそうだよねぇ。そんなことボクは許さないよ」
何だかリスティルが怖いので取り敢えず笑って誤魔化すレクスであったが、セリアとローラヴィズはジト目で見て来るしマルグリット、カサンドラからも変な視線を感じる。
唯一、関心がなさそうなのは古代法士のテレサのみだ。
彼女はずっと無表情なまま無言を貫いているので、レクスは話題を変えて彼女に話を振った。
古代魔法を操る者――古代法士のテレサの力が必要になる時は必ず来る。
そう考えながらレクスは会話を続けるのであった。
ちなみにその日の夜、カフェに誘われなかったとミレアが文句を言って来たのは言うまでもない。
と言うか普通に忘れていたレクスであった。
ありがとうございました。
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