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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第2話 不可解な出来事

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 ジャグラート懲罰軍の出陣を見届けた後、カルディア公は戦闘執事バトラーのクロノスから不可解な報告を受けていた。


 王都貴族街の大邸宅の一室――カルディア公の私室に2人はいた。


 カルディア公は寛ぐためのソファに座っている。

 本来なら仕事の話は全て執務室で行うのだが、クロノスから緊急の報告があると聞いて自室へ移動したのだ。


 執務室はかなりの広さを誇り、普段は秘書官や文官たちと共に仕事に当たっているため、大人数が部屋にいる。仕事に励んでいる全員を追い出す訳にもいかない。


「それで突然の話とは何だ? 最近の私は竜神裁判以外は大人しくしていたと思うのだがな……」


 早速、普段なら誰にも見せないような態度でだらけながらカルディア公が切り出した。それに対してクロノスは少しいつもの悠然とした余裕ある態度とは違い、何処か落ち着かない様子だ。


「はい。その竜神裁判関係の報告がございます」


 そう言い聞かされてだらけていたカルディア公の顔付きが真剣なものへと変わる。

 まさかの竜神裁判の件と言うことで少しばかり驚いたのだ。

 ソファにしっかりと座り直すと彼が改めて問い直す。


「何があったんだ? あの件は既に私の中では片が付いたものと思っていたんだけどね」


「私もそう考えていたのですが……消したはずのケルミナス伯爵が未だ健在であり、王都を訪れているとの情報を掴みました」


「……!?」


 いつもは細い目がカッと大きく見開かれる。

 言葉にならないほどの驚きが彼を襲い、次に疑問が浮かんでくる。


「……何故だ? クロノスは仕事をした。それは間違いないな?」

「はい。伯の私室で確かに殺しました。死んだのを確認してから部屋に火を放ちました。邸宅にいた者も全て消しております」


 クロノスの腕は信頼しているし疑うことはないカルディア公であったが、だとしたら何故生きていると言う情報が流れるのか。


「しかし領都ではなく王都でか……何者かが奴を復活させたのか?」


「その情報を得た後に、すぐ伯を尾行しましたが接触した者がおります」


 当然、興味が湧いたカルディア公が押し黙る。

 クロノスは見たままの事実を口にした。

 それはカルディア公すら予想できなかったこと。


「大長老衆が1人、傲慢のスペルビア様でございます」


「あのエルフとヴァンパイアのハーフか……あ奴が関わっているのなら何でもありだな。だが何を企んでいる……たかが地方領主を1人どうにかしたところで何かあるのか? ……いや、奴が無意味なことをする訳がない。また聖遺物が絡んでいるのか?」


 カルディア公は自分に言い聞かせるように話すと、スペルビアの今までの言動を思い出そうとする。思考は加速し、彼の頭の中には様々な考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。


 政治に絡むような発言はしないし、特段権力に固執している訳でもない。

 何を考えているのか分からない不気味な存在であるが、王国にとって有効な助言をしてきたとされている。王国を害する気はないと考えるべきだろうが、相手は1000年近い悠久の刻を生きている化物である。

 何がきっかけで気が変わる可能性は否定できない。

 これを放置すれば王国にとって、いや世界にとっても一大事になるかも知れない


「長いこと生きている奴は碌なことを考えぬからな」


 そう言いながらも自分が考えたとんでもない計画のことを思い出してカルディア公が自嘲気味に笑う。

 そしてすぐに動くべきだと判断した。


「クロノス、すぐに〈狼牙デファンス〉を動かして情報を集めよ。もしかしたら壮大な計画を練って動いている可能性がある」


「御意にございます」


 〈狼牙デファンス〉はカルディア公爵家を影から支える諜報者集団である。

 諜報のみならず、暗殺から対人戦までこなすエリートで構成されている。


「相手はこちらが身辺に探りを入れてくることは予想しているはずだ。十分に注意して踏み込めぬと判断したら撤退せよ! 死ぬことは許さん! いいな?」


「御意」


 はっきりと返事をしてすぐに退室するクロノス。

 信頼できる腹心に任せておけば、情報は得られるだろうがそれでも不安が先行してしまう。


 心配事がなくなったと思ったら、次々と予期せぬことが起こる。

 ジャグラート懲罰戦争の計画を中止させられなかった件、そして何故か生きているケルミナス伯爵と傲慢のスペルビアの件だ。

 前者は自業自得なので文句は言えないが、後者はかなりの厄介事だと考えられる。


「杞憂であれば良いのだが……そんなことはないだろうな」


 カルディア公の呟きは誰かに届いただろうか。



 

 ◆ ◆ ◆




 ときは少し前にさかのぼる。


 ここは王都にあるスペルビアの邸宅の1室。


 滅多にお目に掛かることなどできないガラス板を使った洒落たデスクの席に座りながら、スペルビアは目の前に立つ男と会話していた。

 それは死んだと目されていたケルミナス伯爵。

 彼が恭しく腰を折ると、深い礼をして感謝の言葉を述べる。


「此度は私を今際の際(いまわのきわ)で救って頂き感謝の念に堪えません。このまま無念を抱いて死んでいたかと思うと地獄でも悔しさに身を焦がされていたことでしょう」


 対するスペルビアはケルミナス伯爵の言葉を訂正し、認識を改めさせる。

 それは必要な作業。

 まずは自分が何者であるのかを自覚させることが肝要。


「グハハ……なに、気にすることはない。だが勘違いするな。貴様は既に死んでいた。それを蘇らせたのがオレだ」

「な……なんと! スペルビア様は反魂の術をも扱うことができるので?」


 ケルミナス伯爵もそのような術は噂でしか耳にしたことはない。

 驚くのも当然の話だ。

 人間は死ねば生きかえることはできない。

 それが世界の摂理であり、セレンティアにも適応される。


「グハハ……ちと違うがな。外法ではある。貴様は既に人間ではなく人間の皮を被った者、最早人間と言う枠に収まらぬ存在なのだ」

「し、しかし、何故私などを蘇らせたのでしょうか? お役に立てるか正直不安がございます」


 彼の自己肯定感と自己評価は高いが、それでも目の前の人物からすれば無価値同然であり、それが奇異に映る。


「役に立つと思ったからこそそうしたまでよ。貴様には漆黒神の復活のために尽力してもらうぞ」

「漆黒神ですと!? そのような存在がいると言うのですか?」


 驚き慌てふためくケルミナス伯爵に面白いものを見るかのような視線を向けるスペルビア。親切にも彼は忘れている事実を教えてやることにした。


「グハハ……何を驚いておる。貴様もヤツに与えたではないか。神の想い出(ロギア・メメント)をな。それは取りも直さず古代神が存在することを意味する。そしてそれは漆黒神についても同様だ」


 誰に与えたのかなど興味もないので聞いた瞬間に忘れている。

 スペルビアにはジャンヌを目にする機会があったが、ただの人間だったので既に頭の中から消え失せていた。

 彼女などその程度の存在。


 ただの人間には興味がない。

 あるとしたら宇宙人、未来人、異世界人、超能力者くらいのものだろう。

 必ずやオレのところに来い!と言っているはずだ。


「では私に聖遺物を探せと仰るのですな?」

「グハハ……話が早い」


「そこまで仰られれば分かりましょう」

「そうか? グハハ……まずは聖遺物『深淵なる真実(アビス・トゥルー)』を探せ。後は憑代よりしろとなる人物が必要だ。大きな器を持つ者でなければ漆黒神は顕現できぬからな」


「なるほど……しかし私個人の力など儚きものでございます。個人でできることなど限界があります故」

「竜神裁判だったか? グハハ……あのような茶番など無かったことにすれば良い。国王と教会には言っておく。貴様の地位が剥奪されることはない。あっても降爵こうしゃく程度だろうよ」


 アングレス教会など眼中にないと言った尊大な態度だ。


「はッ……ありがとうございます」

「しかし中々に見つからんものだな。国内はもちろん、海底都市ファナゴリアにも赴いたが見つけることは叶わなかった」


 礼を述べるケルミナス伯爵だが、人外ともなればその胸中は複雑だ。

 だがそんなことなどおくびにも出さずに、早くも進言する。


「……聖遺物ではございませんが、人物については1人心当たりがございます」

「何ッ……早速の働きと言う訳か。グハハ……本当に貴様は面白い」


 何もないところから全てを発見しなければならないのだ。

 世界はまだまだ広く大きい。


鉄樹開花てつじゅかいかとはよく言ったものよ。少しでも可能性があるのであれば、そこから当たるが良い。復活した貴様には力の根源を探る程度はできる」

「承知致しました。では私はこれからずっと探索に当たればよろしいので?」


「貴族としての務めを果たしながらでも良いが、下らんことに時間を労するな。貴様は隣領と争っていたな?」

「はい。ロードス子爵家とは浅からぬ因縁がございます」


 釘を刺された形にはなったが、いつか仕返ししてやると既に心に決めている。

 だがその気持ちに気が付かないスペルビアではない。


「グハハ……人間と言うのは本当に下らぬものに固執する……まぁいい。その人物と言うのは誰なのだ? オレが知っている者か?」

「いえ、恐らく存じ上げないかと。その者はロードス子爵領スターナ村のレクス・ガルヴィッシュと申す者でございます。今は王都にいるはずです」


 言わずと知れたケルミナス伯爵が固執していた少年である。

 現在は王都にいるため、監視するのは容易だろう。


「ふむ。オレも機会があれば足を運んでみるとするか。グハハ……」


 レクスの話題が出たところで話は終わった。

 ケルミナス伯爵は貴族街の邸宅に戻るべく廊下を歩き出す。


「(人間を辞めるつもりなどなかったが……死ぬよりはマシなのかも知れん。障害は全て叩き潰し必ずやもう1度成り上がってみせる!)」


 1人が去り、静かに酒を呑み始めたところに総代執事が部屋に入ってくる。


「スペルビア様、如何いかがでしたでしょうか?」

「ふん。野心を隠せぬ男のようだが、使えそうではある。だが、いきなり心当たりがあるとまで言いおった」


 スペルビアは、込み上げる高揚感に期待に胸を膨らませる。

 まだまだ楽しみは多い。

 アングレス教会と神殿騎士団の暗躍。

 泳がせている漆黒大司教ガルダームと公爵家。

 嫉妬のインヴィディアの動向。


「グハハ……焦ることはない。慎重に進めるのみよ。じっくりとな」


 そう言ってスペルビアはグラスを傾けた。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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