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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第59話 後始末

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 ――聖地リベラ


 王国に衝撃をもたらした龍神裁判が終わっても教皇グリンジャⅦ世は怒りは治まっていなかった。


 頭は沸騰しそうなほどに煮えたぎり、側近の司教や司祭たちにも怒鳴って当たり散らす日々が続く。


 それほどの出来事だったのだ。

 判決は総大司教と審問官により執り行われ、教皇であるグリンジャⅦ世により総括されるはずが、全てをカルディア公爵にひっくり返されて手柄を持って行かれた。


 本来ならケルミナス伯爵が証拠をでっち上げ、あるいは抹消して、それをアングレス教会の聖堂騎士団が調査したように見せかけた結果、完全勝利を収めるはずだったのだ。聖堂騎士団はもちろん、審問官もアングレス教会の息がかかっており心配などする必要すらなかった。


 そしてケルミナス伯爵とジャンヌとの関わりの痕跡など出てくるはずもなかった。

 全ては裁判が始まる前に勝敗は決まっている。

 それがいつもの竜神裁判。


 それをまさか、あのような下法を用いて逆転してくるとは誰が想像できただろうか。


 死人に口なしではなかったのか。


 今回の竜神裁判のアングレス教会の体たらくを知っている者は、まだまだ少ない。だが審問官はともかくとして、見届け人や傍聴人、下手をすれば聖堂騎士団の中からも事の顛末が漏れる可能性があった。

 

 今日も態々遠くから礼拝に来ている人々がいる。

 毎日、訪れる敬虔な者たちもいる。


 彼らがそれを知ってしまったらと考えるだけで、はらわたが煮えくり返る。


 あの日、アングレス教会の権威は地に落ちた。

 そして更に地面にめり込んで埋もれていくのは確実である。

 それもこれも、カルディア公爵が悪い。


 グリンジャⅦ世は上級貴族にも負けないほど豪華な造りをしている自室で声を荒げる。この場所以外でこのざまを見られる訳にもいかないのだ。


「おのれ! 若造が! 使徒だからと言って出しゃばりおって!」


 新たな12使徒となる者を集めている最中だが、急がなくてはならない。

 古代竜信仰の総本山であるアングレス教会を潰すとは思えないが、権威が落ちた今、政治に介入しようとしても無視をされる可能性が高いと言える。だが苛烈なカルディア公爵のことなので、下手を打てばいきなり滅ぼされるかも知れない。

 そう考えてグリンジャⅦ世はすぐに否定する。


「いや、そんなことをすれば他の使徒が黙ってはおるまい……」


 室内をウロウロしていたグリンジャⅦ世が椅子に腰を降ろすと、集中して思考を加速させていく。しかし何故、事案に全く関係のないカルディア公爵が竜神裁判と言う聖域を冒してまで強引に介入して来たのかが分からないのだ。


 今回の裁判で得をしたのはロードス子爵家であり、損をしたのはケルミナス伯爵だ。


「ケルミナス伯爵に恨みがあったのか……? それともロードス子爵に借りがあったのか……」


 両貴族は昔から因縁を抱えていた。

 そのどちらかにカルディア公爵が付いたのか。


「いや、使徒たる公爵家がたかだか地方の伯爵や子爵に味方しようとは思わんはずだ。それにどうせするなら財力もあり準備に余念がないケルミナス伯爵の方であろう。派閥もない、古代神信仰のロードス子爵に付く理由がない」


 グリンジャⅦ世は何度も何度も自問自答を繰り返す。


「そもそも何故、ケルミナス伯爵が動いたのか……係争地問題や魔物の流入問題があったな……いやしかし……」


 ここでふとした思いに気付く。

 そう言えば、と。


「そうじゃ……ケルミナス伯爵がジャンヌと繋がりを持ったのには意味があったではないか……あれは……そう、あの子供をさらうため!」

 

 ここに至ってようやく彼は思い出した。

 最初からケルミナス伯爵が狙っていたのはあの子供ではないかと。

 眉間に皺を寄せてその名前を必死に思い出そうとするが、中々出てこない。

 たかが、木端こっぱの者のことなど気に留めてはいないのだ。

 普段、使わないほどに頭を使っていた彼の脳裏に閃きが走る。

 思わず彼は、椅子から勢いよく立ち上がった。

 ガタッと言う音がしてそれが倒れる。


「レクス……そうじゃ! レクス・ガルヴィッシュじゃ……こやつについて徹底的に調査する。ケルミナス卿もあれには強い執着心を持っておった!」


 となれば――グリンジャⅦ世の思考は調査の人員を誰にするかに移っていた。

 脳裏にある情報に寄れば、レクスはロードス子爵家令嬢と同い年だったはずである。


「誰か、参れ! はよう参れ!」


 大声で叫ぶと同時に部屋にあった呼び出しベルをやかましく鳴らした。

 怒れる教皇に対して常に気を張っていた側近たちがすぐに駆けつけるとそこには神聖なる聖職者に似つかわしくない邪悪な笑みを浮かべた男が立っていた。


「ステファを呼んで参れ! あ奴に特別任務を与える」


 レクス・ガルヴィッシュは12歳くらいだったはず。

 となれば同年代の修道女シスターに身辺を洗わせるのが良い。

 そう判断したグリンジャⅦ世は修道女ステファ・コレーガに調査を任せることに決めた。彼女はただの修道女ではなく、諜報員としても育てられているアングレス教会の優秀な駒なのである。


「これで何か手がかりが得られよう……はてさて、何が出てくるか……?」


 カルディア公やケルミナス伯爵の狙いを知れば、何かが見えてくるだろう。

 そう考えながらグリンジャⅦ世は小さく呟いた。




 ◆ ◆ ◆




 ここはケルミナス伯爵領の領都にある伯爵邸。


 竜神裁判で判決が言い渡されたとは言え、まだ正式な刑は王国から下っていない。


 外は大荒れで、叩きつけるような暴風雨が屋根に、大地に打ちつけていた。


 執務室では1人、ケルミナス伯爵が酒を呑んでいる。

 竜神裁判での敗北――まさかの想定外。

 根回しに根回しを重ね、万が一にも備えていたのだ。


死霊術士ネクロマンサーだと……まさか、あのような手段でくるなど想像もつかんわ」


 大体、カルディア公爵が直接加入してくるなどとは考えてさえいなかった。

 今、思い返せば第1回の竜神裁判で彼の配下であるクロノス・クロスが発言をしていたが、それにもっと注視しておくべきだったか。

 そう考えると、悔しさと怒りで唇を強く噛みしめてしまう。


「何なのだ。漆黒竜を復活させるために密かに我々を集めておいてあの仕打ちはなんだ!」


 怒りが段々と強くなっていくせいで語気が荒くなり、最後には吐き捨てるような口調になってしまった。とは言え何故、ロードス子爵家を助けるように動いたのか、その理由が分からない。


 だが、このような状況で頭が正常に働く訳がない。

 ケルミナス伯は冷静になるべく、酒を一気にあおった。

 そしてもう1度考え始めた。

 使徒であるカルディア公がどの派閥にも属していない弱小貴族に肩入れすることになった経緯。


 ロードス子爵家は漆黒竜復活に傾倒していた彼を、動かす何かを持っている?

 昨年から秘密集会を繰り返していたのに、ここのところは全く開かれていない。

 竜神裁判までに得た何か――

 そこまで考えてケルミナス伯の口から小さな呟きが漏れる。


「まさか……神の想い出(ロギア・メメント)か……? 目的は古代神なのか?」


 となれば――古代竜の使徒が古代神に信仰を変える?

 否! 確か、過去に調べたことがあった。

 あれはカルディア公の公女が病気だと言う話だったはず。

 神聖力が暴走して死にかけると言うものだ。


「レクス・ガルヴィッシュがジャンヌを倒して手に入れた神の想い出(ロギア・メメント)をロードス子爵を通して入手したのか」


 竜神裁判でもレクスは神の想い出(ロギア・メメント)の効果を知っている様子であった。


「やはりあ奴は重要な存在だったと言うことか」


 今、ケルミナス伯が考えていることが本当ならば、邪魔な存在となった者たちをどうするのか。黄金竜アウラナーガを筆頭にした古代竜たちにとって漆黒竜の存在など許せるはずがない。


 カルディア公の中で心変わりがあったのだ。


「このままでは漆黒竜復活に集められた者たちは不穏分子として一斉に粛清される!?」


 思わず大声で叫んでしまった。

 慌てて口を噤むも、心配した誰かが駆けつけて来るかもしれない。


「まぁ良いか……どうせ私に待っているのは恐らく判決通り、奪爵だっしゃくだ」


 もしかしたらそれだけでは済まないかも知れないが、どちらにせよ貴族としての自分は死んだ。

 混乱した世界で成り上がろうと、探索者から貴族、伯爵位まで賜った。

 そう過去を振り返りながらケルミナス伯爵はもう考えても詮無きことかと、ふうッと溜め息をついた。


「しかし誰も来んな……嵐のせいか……?」


「誰も来ませんよ」


「!!」


 その無機質なまでの声色に、ケルミナス伯の身に戦慄が走った。

 誰もいなかった。

 そこには誰もいなかったはずなのだ。

 今、この瞬間までは。


「お前は……いや貴様は!!」


 対峙する2人の男。

 グレーの髪に顎鬚――白髪交じりのその男は漆黒のスーツに身を包み、紳士然とした態度をしている。


「この屋敷にいるのは後は最早、貴殿のみ。ご覚悟召され」


「都合が悪くなったら切り捨てると言うのか。流石は大貴族様様だな……」


「貴殿も今までそうやってきたのでは?」


 ケルミナス伯の嫌味にも動揺することもなく、表情1つ変えることはない。

 執事風の男は腰に差していた双剣を抜き放つと、その場から消えた。


「!!」


 驚きと同時に鋭い痛みがやってきた。

 斬られたのだと認識したケルミナス伯の口から鮮血が吐き出される。

 斬られただけでなく、刺されたようだ。

 段々と目が霞んで行く。

 探求者としてそれなりの腕を持っていると自負していた彼であったが、レベルが違っていたらしい。ケルミナス伯が床に倒れ込むと周囲が突然明るくなり影が揺ら揺らと揺れ始めて、徐々に大きくなっていった。


「燃えろよ燃えろ……全てを焼き尽くせ」


 その言葉を最後にケルミナス伯の意識は消失した。


 次の日、大半が焼失した伯爵邸を騎士団の者が発見。


 火元は執務室らしく何もかもが燃え尽きていた。

 だが肝心のケルミナス伯の遺体さえも発見されることはなかった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

第二章はこれにて了です。

明日からいよいよ第三章の『双龍戦争勃発編』に入ります。

ちょうどきりが良いところなので是非、評価★★★★★をして頂ければと思います。

また、レビューもあればかなり嬉しくて喜びます。

引き続き感想、リアクションもお待ちしておりますのでこれからも拙作をよろしくお願い致します。

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