第11話 ロードス子爵家の令嬢
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は12時、18時の2回更新です。
レクスたちが暮らすスターナ村から東に6日程度の位置する都市。
その名前はロドスと言った。
名前の通りそこはロードス子爵家の領都であり、スターナ村は子爵家の領内にある。領内には大規模なガルド鉱山があり、その都市ガルドにて練成されるガルド鋼が大きな資金源になっている。
領土は隣国サンダルフォンと国境を面しているが、現在は両国の関係が良好なためそれほどの脅威はない。
古代竜信仰の強い王国内で古代神を信仰している数少ない貴族の内の1つである。と言っても歴史では12使徒の内の7使徒が集まって建国した国家なだけあって古代竜信仰が絶対的な国内では苦労が絶えない。
何故、古代神を信仰しているかについては、祖先が古代神や亜神の眷属であるとされている神人であったからに他ならない。
神人とはその身に宿星の種を宿す事で古代神の僕となり、世界に散逸した神の想い出や聖剣や魔剣、妖剣などを集める役割を持つ者のことである。
領都は過去に戦争があった側面から城塞のような都市となっているが、平和になった現在は森林の伐採、開拓が進み穀倉地帯になっており美しい農村のような風景は見る者を感嘆させる。
一歩、街に足を踏み入れれば要塞独特の無骨な一面を見る事もできギャップを感じる者も多いだろう。
領主はディオン・ド・ロードスと言い、齢55の壮健な男であった……のだが、現在は病に倒れ床についている。
そのため、現在は子爵夫人――アネットが領主代行を務めている。
ディオンには遅くして生まれた娘がいた。
彼女はセリア・ド・ロードスと言い、レクスと同い年の令嬢で職業は暗黒騎士であり、やや負けず嫌いの気があるものの見目麗しい女子である。
金髪に碧眼。整った容姿は王都でも話題に上がる程の令嬢であった。
しかし、就職の儀で職業が暗黒騎士だと判明するとその人気にも陰りが出る。
暗黒系の職業は忌避されやすいのだ。
そのせいもあって本来ならば王立学園騎士科の小等部に入学するはずであったが、11歳になっても領都に留まっていた。
とは言え、貴族は小等部に入らず家庭教師に指南を受ける場合も多いため、特段おかしいことでもないのだが。本来なら職業のせいで、まだまだ幼いセリアの人格に影響があってもおかしくはなかったが、彼女には幸いにも愛してくれる両親と善良なる領民、そして気の良い騎士団がいた。
ただ、その風聞は良い方向へ作用するはずがなく、あまり多くの誼を結んでいる訳ではない。そのため貴族の中では珍しく派閥には所属しておらず頼りとするのは寄り親であるスレイン伯爵家くらいのものであった。
つまり後ろ盾が弱いということである。
職業変更に必要なのは転職士の能力、『ハローワールド』だ。大抵は貴族に囲い込まれている。
貴族であるからお金さえ積めば職業変更くらい問題ないはずであったが、本人がそれを固辞したため未だ暗黒騎士のまま剣の修行に勤しむ毎日を送っている。
とある部屋の一室でガラスの窓から庭園を眺めながらセリアが尋ねた。
「ドミニク、スターナ村に聖騎士が誕生したんですってね?」
「はッ……お耳が早うございますな。数日前の就職の儀でガルヴィッシュ家の第一女子が聖騎士を授かったとのことです」
ドミニクはロードス子爵家に使える白嶺騎士団の騎士団長である。
セリアの剣の稽古をつけているのも彼であり、髪に白いものが交じってはいるもののまだまだ現役である。
「是非とも手合せしてみたいわ。スターナ村に行くことはできるかしら?」
「お嬢様。聖騎士になったとは言えど、まだ7歳。剣の腕は左程ではないかと存じます」
セリアには才能があった。それに努力を苦にしない精神力もあった。
そのお陰もあって11歳にして騎士たちよりも強くなってしまった。
今はより強い相手との対戦を求めている。渇望していると言っても良い。
「ただ、領内で聖騎士が誕生したともなれば祝いの言葉をかける必要もありましょう。村の者とは言え、騎士爵位を持つガルヴィッシュ家です」
「お母様は忙しいわ。その名代に私がなれないかしら?」
「可能性はあるかと存じまする。それにガルヴィッシュ家のご当主殿はもちろん、ご嫡男も剣の腕が立つと聞き及んでおります故、手合せする機会もあるでしょうな」
1人娘であるセリアを溺愛するロードス子爵夫妻である。
彼女が望めば、受け入れられる可能性は高いだろう。
それに子爵夫人は領主代行として多忙な毎日を送っている。
「あら。ガルヴィッシュ家の嫡男は暗黒導士と聞いていましたが、私の聞き間違いだったかしら?」
「いえ、その通りです。魔導士ながら剣の稽古も受けているとのこと」
セリアは職業が同じ暗黒系であることに親近感を覚えるも、魔導士がまともに剣を扱えるとはどうしても思えなかった。
「魔導士が剣をねぇ……。強いの?」
「ご当主殿は私と張り合える程度の実力はございます。彼の御仁が稽古をつけているのですから決して弱いとは言えますまい」
「ねぇ。何て名前なのかしら?」
「確か、レクスと言う名だったかと。お嬢様と同い年ですよ」
それを聞いたセリアの心は大きく揺さぶられる。
スターナ村の少年が自分と互角かも知れないと言う期待と興味が胸に去来していた。
「ふふ……それは楽しみね」
無意識の内にその表情は綻び、本来の11歳の少女らしい笑みがこぼれた。
その様子を微笑ましい目で見つめるドミニク。
しかし、そんな態度も束の間の話。
セリアはすぐに凛々しい表情を作るとドミニクに切り出した。
「ではドミニク。今日の稽古と参りましょうか」
「む。そろそろ時間ですな。では修行の時間としましょう」
そう言うと2人は練兵場へと足を運んだ。
そこには騎士団の面々が顔を揃えていた。
「集まっているようだな。よし。いつも通り、各自、素振りから開始しろ!」
『はッ!!』
騎士たちにとってはいつものルーチンなので慣れた様子で練兵場内に散ると早速素振りを始めた。ドミニクはその反応に満足して頷くと、隣のセリアに乱取りを開始しようと促す。そしてお互い、刃を潰した剣を持つと戦闘態勢に入った。
「お嬢様、では打ち込んできてください」
「今日こそは参ったと言わせて見せるわ」
そう言うが速いかセリアが疾走する。
真正面から来たかと感心しつつ、その下段からの払いを軽くいなすドミニク。
しかしそれは彼女の想定内。
崩れることなく体勢を整えて左右からの連撃を打ち込む。
それを難なく弾きながらタイミングを見計らいカウンターの突きが放たれるが、それを必要最小限の動きで躱しドミニクの懐へと侵入する。
「ハッ!」
気合一閃、セリアの横薙ぎがドミニクの銅へと迫る。
それをバックステップで紙一重で躱すと、剣を上段から振り下ろして彼女の空ぶった剣へと叩きつけた。澄んだ音がして剣が持って行かれそうになるのを何とか耐えた彼女は右足で大地を踏みしめて踏ん張り再び右からドミニクの胴を狙う。
そこからは打ち合いとなる。
一合、二合、三合と剣と剣との殴り合いがしばらく続いたかと思うと、キーンと高い音と共にセリアの剣が弾かれて宙を舞った。
ドミニクの剣先が彼女の首筋に突きつけられる。
「お嬢様。私の勝ちのようですな」
「くッ……」
セリアの表情が悔しさで歪む。
その瞳にはまだやれるという強い意志の力が見て取れる。
やはり負けん気の強さは人一倍のようだ。
それを真っ向から見返しドミニクが冷静に告げた。
「確実に技術は向上しておりますが、剣を離してはいけませんな。武器の喪失は死に直結します。能力の『暗黒剣』も剣がなければ使えません」
「分かっているわ。それにしてもまだまだ余裕ねドミニク」
「はっはっは! この老骨、腐ってもまだまだ現役にございますぞ」
豪快に笑うドミニクをジト目で睨みつつ弾かれた剣を手に取るとセリアは再び構えと言い放つ。
「もう一度よ! 絶対に勝ってやるんだから!」
「はっはっは! いつも通り、お嬢様が満足するまで付き合いますぞ」
「言ったわね! いくわよッ!」
こうしてセリアはドミニクに挑み続けるのであった。
ありがとうございました!
また読みにいらしてください!
面白い。興味があると思われた方は是非、評価★★★★★、リアクション、ブックマークなどをして頂ければと思います。すごく嬉しくなっちゃいますので!
モチベーションのアップにも繋がりますのでよろしくお願い致します。
明日は13時と20時の2回更新となります。