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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第58話 竜神裁判 決着

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 思いもしない人物の登場に大聖堂・大法廷は増々喧騒が大きくなる。


 毅然とした態度で現れたその人物はカルディア公爵家の戦闘執事バトラー、クロノス・クロスであった。


「静粛に! 静粛に!」


 傍聴人たちのどよめきを抑えるべくルヒスが厳粛な態度を取り繕って呼びかけるも中々収まる気配はない。

 そこで何の許可も得ずに入場して来たクロノスに対して警告を発した。


「クロノス・クロス殿、如何いかなる理由で大法廷に現れたのか? 貴殿の入場を許可した覚えはない。即刻、退場し給え!」


 それに応えたのはクロノスではなく、彼の主たるカルディア公であった。

 見届け人席で立ちあがった彼は、ルヒスに対して悠然とした態度で言い放った。


「私はこの竜神裁判に対して異議を申し立てる者である。判決内容には大いに不満であると言わざるを得ない」


 あまりに急な展開に頭が追いつかないルヒスであったが、辛うじて問い質した。

 カルディア公が発する使徒特有の覇気に気圧されながらも、何とか威厳を保とうと必死である。


「カルディア公に問う。それは一体どう言う意味なのか?」


「言葉通りの意味だ。私は此度の竜神裁判に疑義を抱き、カルディア公爵家の総力を挙げて独自の調査を行った。その結果、判決内容を不服を申し立てることに決めたと言うことである」


 教皇、グリンジャⅦ世は固まったまま動かない。

 まさに前代未聞の出来事であった。

 アングレス教会にとって寝耳に水、青天の霹靂である。

 これまで見届け人が発言したことさえほとんど前例はなかったのに、介入するなどもっての外であった。


「そ、それは竜神裁判に介入すると言うことか? 如何に使徒であり6公爵家筆頭たるカルディア公とは言え、許されることではないぞ!」


 虚勢を張って負けじと強い言葉を絞り出すルヒス。


「許されるか否かなど些事に過ぎない。私がこの裁判に不満があると言っている。このような茶番劇など使徒として認められるものではない!!」


 絶句して二の句が継げないルヒスを差し置いて、カルディア公は話を続ける。


「まずは魔物や盗賊の流入問題だが――これは有り得ぬ。我々は騎士団を派遣して双方の領境を監視していた。その結果、ロードス子爵領からのケルミナス伯爵領への流入は一切なかったと断言しよう」


 根幹を否定する言葉に、ケルミナス伯爵が納得するはずがない。

 彼はすぐに挙手すると発言を求めた。


「異議を申し立てる」

「ケルミナスきょう……異議を認める……」

「そのようなことを言われても我が騎士団はカルディア公爵家の騎士団の姿を一切目撃していない」


 彼の反論にもカルディア公は怯む様子を見せない。

 むしろ想定通りの流れだとばかりに言い返す。


「領境と言っても距離があるのだろう? けいが見落としていたと言うことだ」

「そのようなはずがない! 見落としなど有り得ませぬ!」

「我々はロードス子爵領にいたのでな。卿らは気付かなかったのであろうよ」

「そんなバカなッ!! 領境にいれば気付かぬはずはございませぬ!」


 ケルミナス伯爵からしたら突然現れた闖入者に判決結果を否定された訳である。

 当然、認められるはずがなかった。

 彼はルヒスの方をチラリと見やる。


「カルディア公、いくらなんでも気付かなかったでは――」

「『少々離れていたところで結果は変わらぬと思うが?』と言うのが貴殿の言葉ではなかったか?」


『……!!』


 2人は共に絶句した。

 ルヒスは焦り始め、ケルミナス伯爵は悔しげに表情を歪ませている。

 まさに馬脚を現したと言ったところか。


 カルディア公は追撃を止めない。

 一切容赦する気などないのだ。


「異論はないようだな。では次の議題に参ろうか……。ロードス子爵領スターナ村をケルミナス卿の正騎士が盗賊に扮して襲撃したと言う。そんな者の存在は認められなかったと言ったな? だが既に我々が確保していると言ったら如何いかがか?」


「バカな……そのようなことが有り得るはずがないッ!!」


 ケルミナス伯爵が絞り出したような声で叫ぶが、カルディア公はすぐに指示を出す。


「クロノス!」


「はッ……貴様ら、入れ!」


 カルディア公の正騎士たちに連れて来られたのはケルミナス伯爵の正騎士数名であった。

 皆、ケルミナス伯爵家の紋章が刻まれた鎧を身に付けているようだ。

 そして彼らの傷付いた部位が露わにされる。


「あれは私の『暗黒剣』、【カースソード】の呪いの効果だわ!!」


 思わず立ち上がったセリアが興奮気味に叫んだ。

 カルディア公は彼女の声をが聞こえたのか、チラリとそちらに目を向けた後、正騎士の正面までやってくると真っ向から目を見据えて言った。


「これは一体どう言うことかな? 貴殿らに問おう。貴殿らはケルミナス伯爵が正騎士で相違ないな?」


「ま、間違いございません……」


 カルディア公が睥睨へいげいするなり、呆気なく白状する正騎士。

 だが、この程度で引き下がるケルミナス伯爵ではない。


彼奴きゃつらは私の騎士団の者などではありませぬ。そのような者は知らない」


 あくま白を切り、立場が危うくなるような言質げんちは取らせない。

 それでもカルディア公の追撃は続く。


「目の前に当事者たちがいるのだ。少なくとも『証拠は見つからなかった。呪いを受けた者はいなかった』で済ませられた判決よりも信憑性があると思うのだがな」


「では彼らが我が正騎士だったと仮定しましょう。果たしてその傷は本当にセリア嬢の『暗黒剣』によって呪いを受けたのですか? 失礼だがカルディア公の用意した暗黒騎士にやらせた可能性も否定できないのでは?」


 したり顔で言ってのける辺り、ケルミナス伯爵も大した精神力をしている。

 確かに当事者を名乗る者とその証言があったとしても、完全な証拠とはなり得ない。しかし十分な証拠がなくても無理やり押し通してきたのが、アングレス教会の名の下に行われる竜神裁判であった。


 カルディア公が沈黙したのを見て、ルヒスも勢いづいたようで彼から受ける重圧に耐えながらはっきりと告げる。

 どの口がほざくかと言うことを。


「証拠は見つからなかった。それが厳然たる事実であり、自白だけで信じることはできぬと言うことである」


 ずっとやり取りを見ていたレクスであったが、自分が調べれば彼らの呪いがセリアから受けたものであるかなど分かるため、言い出すタイミングを窺っていた。


 ただ、懸念点が2つ。

 果たしてレクスの証言が信用されるかと言うこと。

 何故なら当事者であるからだ。

 そして証明するために魔力波などの詳細を説明してしまえば、レクスの持つ優位性が1つ無くなることを意味する。


 だが――


「(ここで切り札を切らずにいつ切ると言うんだ。これでセリアたちを護れるならやるべきだ!)」


 覚悟を決めたレクスは挙手して立ち上がると、ルヒスへ向けて提案した。


「私なら証明することができると思います。やってみましょうか?」

「レクス殿、どうやって証明すると言うのだ?」


「人の魔力には個人差があります。つまり人によって魔力に違いがあるのです。個性のようなものですからセリアの魔力と、呪いを受けた正騎士の傷跡に残る魔力の残滓を調べれば必ずや一致するでしょう」

「……貴殿にその力があると言うのか?」


「はい。その通りです」

「しかしだな。例えそれが証明できたとしても貴殿は事件の当事者なのだ。その証言なり証拠なりは信用するに値しないのだよ」


 レクスの考えていた通りになってしまった。

 流石に総代司教だけあってしっかり気付いてくるかと思いつつ、どうしたものかと考えていると沈黙していたカルディア公が言った。


「レクス殿、その心配は無用だよ。こちらにはまだ切り札があるからね」


 カルディア公が細い目を更に細めてレクスを見ながら断言した。

 そしてルヒスとケルミナス伯爵の方に向き直ると意味有りげな発言をする。

               

「さて、では呪いに関してとセリア嬢とレクス殿の不法侵入問題、そして関所内での争いの件についてだが……これは今回の事件の一連の容疑者――つまり()()に直接語ってもらうこととしようか」


 誰もその言葉の意味を量りかねていた。

 今では喧騒も収まり、大聖堂内は静けさが支配している。

 皆、裁判の向かう先が気になってしょうがないのだ。


「クロノス、連れて来てくれ」


「御意」


 すると担架に乗せられ白い布を被せられている物を持った騎士と、黒いローブを纏った者が入ってきた。

 彼らはそれをルヒスとケルミナス伯爵たちの前に置くと布を取り払う。


 それは氷漬けにされた物。

 レクスとセリアにとっては見知った物。


 それは――堕ちた聖者ジャンヌの遺体であった。


「なッ!? カルディア公……これは一体。これは死者に対する冒涜ですぞ!」


 ケルミナス伯爵はこれが何者なのか理解したのか、顔色が蒼白になっている。

 これをどうするか、察しがついているようだ。

 すぐさま理解する辺り、頭が切れる人物と言う話は嘘ではないらしい。

 当然ながらレクスもカルディア公の意図に気が付いていた。


「(よくやるよなぁ……しかし()()()()なんて用意するのが大変だっただろうに)」


 レクスの思った通り、黒いローブの男は死霊術士ネクロマンサーであった。

 クロノスがジャンヌを閉じ込めていた氷を破砕はさいする。

 粉々になった氷の欠片が周囲に飛び散り、大聖堂の中を照らす光を浴びてキラキラと煌めく。


 何処か美しいと場違いなことを感じてしまうほどだ。


「では、やってくれ」

「分かった。【喚び戻す】」


 黒いローブの男がその能力ファクタスを発動した。


 死霊術士の能力ファクタス、『死霊術』の1つ【呼び戻す】――死者の魂を呼び戻し再び体内に宿らせる高位階の術だが、死者を生き返らせる訳ではない。


 暗黒のオーラがジャンヌの遺体に纏わりつき、仮初かりそめの命を再びその身に宿す。

 ほどなくして彼女は立ち上がると、切り離されていた頭部を持ってその首にくっつけた。

 首と胴体が繋がり肉体が再生する。

 虚ろな瞳に光はなく、何処を見ているのかも分からない。

 まさに亡者と言う言葉が相応しいと言えよう。


 異様な光景に全ての者たちが息を呑んでおり、声にならない悲鳴を上げている。

 審問官も見届け人もこれからどうなるのか固唾を呑んで見守るのみだ。

 カルディア公は全てを明らかにすべく、竜神裁判に終止符を打つべく淡々と質問を開始した。


「では聞こうか。お前の名は?」

「ジャンヌ」


「お前と共にスターナ村を襲った者たちは何者だ?」

「寄せ集めの盗賊団。そしてケルミナス伯爵家の騎士団」


「セリア嬢とレクス殿をケルミナス伯爵領へ攫ったのはお前か?」

「その通りだ」


「その後はどうした?」

「逃げられたので後を追った。そこで戦闘になった」


「その場所には他に誰がいた?」

「ロードス子爵家の騎士団、ロードス兵、ケルミナス伯爵家の正騎士、ケルミナス兵」


「何故、ケルミナス伯爵家の正騎士がいた?」

「万が一に備えていた」


「お前を雇ったのは誰だ?」

「ケルミナス伯爵」


「ケルミナス伯爵に雇われた時からの経緯を話せ」

探求者ハンターを通じてケルミナス伯爵に雇われ、レクス・ガルヴィッシュの誘拐計画を教えられた。その際に神の想い出(ロギア・メメント)を与えられた。スターナ村を盗賊団と正騎士とで襲撃し、レクス・ガルヴィッシュを捕縛した。そしてケルミナス伯爵領に入り領都を目指したが逃げられてしまった。後を追って関所で追いついたが、レクス・ガルヴィッシュに殺された」


 最後まで話終えるとジャンヌが混乱を始めてぶつぶつと呟き出す。


「殺された? 私が殺された?」


 うわ言のように同じ言葉を繰り返すジャンヌを無視して、カルディア公がケルミナス卿の前までやってくる。


「と言う訳だが、何か言いたいことはあるかね? ケルミナス卿よ」


 その一言でケルミナス伯爵はガックリと椅子に腰を落とし項垂れた。

 口からは悔しそうな呟きが漏れる。


「……まさかこのような手があったとは――」

「カルディア公よ、まさか亡者の言葉を信じろとは言うまいな?」


 ルヒスがなおも抵抗の姿勢を見せるが、カルディア公の容赦なく切って捨てる。

 必死に睨みつけていた彼は使徒の覇気をまともに受けて威圧され、その場にへたり込んでしまった。


「今は亡者ではない。仮初の命が宿った生者である」


 大聖堂はシンと静まり返り音の1つもしない。

 そんな中、レクスは1人だけ「使徒筆頭(こえ)ぇー、絶対敵対したくねー」と場違いなことを考えていた。


 アングレス教会の名の下に行われる竜神裁判は、既にカルディア公に取って代わられていた。

 教会関係者が何も発言しないので、仕方なく彼が口を開く。


「審問官よ。異論はあるか?」


 流石に審問官程度にどうにかできる相手ではない。

 それぞれが青い顔をぶんぶんを左右に振って反論が、敵意がないことをアピールするくらいしかできないようだ。


 ここに至ってはアングレス教会の頂点にして竜神裁判の最高責任者に直接話を通すしかない。

 そう判断したカルディア公は教皇へ直言した。 


「教皇よ。グリンジャⅦ世よ。アングレス教会の、古代竜の名の下に行われた竜神裁判の不正は正した。結果を示して頂きたい」


 完全に面子も何もかもを潰されてしまった教皇ができるのは1つ。

 この場で示された事実を受け入れて正しい判決を行うことのみ。

 最後に全てを取りまとめる役割を与えられたカルディア公からの慈悲にすがる外ない。


「全ては覆された。正義が示された以上、我々はそれに従わなければならぬ。全ては古代竜の御導きである!」


 強くならねば、そう強くならねばならぬと言う想いが気迫を生み出す。

 舐められてはならぬ、必ずや目に物を見せてやると言う想いが言葉に力を生む。

 権威と権力を取り戻し、必ずや神聖アングレス帝國を創り出して見せると言う想いが鬼気迫る凄みを生む。


「判決を伝える! ケルミナス伯爵はロードス子爵家を取り潰すべく策謀を張り巡らせ、何の罪もない者たちに艱難辛苦かんなんしんくを与えた。多数の者を巻き込み、その運命を弄んだ罪は重い! よってアングレス教会の名の下にケルミナス伯爵を奪爵だっしゃくに処するものとする!」


 教皇グリンジャⅦ世は荘厳なる雰囲気を醸し出しつつ、威厳に満ちた声で判決を言い渡した。


 その凛々しい仮面の裏に威信踏みにじられ、屈辱を味わった憤怒を隠しながら。

竜神裁判ついに決着!!


明日2025/9/4(木)で第二章は終幕となります。

そして第三章へ。いよいよ双龍戦争勃発編に入ります。

お楽しみに!


ちなみにカルディア公が裁判に敢えて介入した理由は今後明かされます。

中世レベルの裁判なので価値観も違います。

なので現代日本の価値観で語ること自体が無意味なことですね。


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

少しでも面白い!興味がある!続きが読みたい!と思われた方は是非、

評価★★★★★、リアクション、ブックマークなどをして頂ければと思います。

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モチベーションのアップにも繋がりますのでよろしくお願い致します。

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教会に爵位を剥奪する権限があるのも怖いですね
上位者がゴネたら覆る裁判とか何の信憑性も無いのを宣言しちゃったよな。 教会に対する信用ガタ落ちですわ。
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