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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第53話 イベント『愛を取り戻せ!』

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 ピエールはずっと独りだった。


 両親はここグラエキア王国のエリート。


 父親は平民にして王立大学部を卒業し国務卿の下で国務官僚として国を動かす仕事をしている。


 母親も王立大学部を卒業後、そのまま研究職として残り、魔導に関する研究と魔導具開発に携わっていた。


 幼い頃からその期待は大きく、小等部、中等部、高等部と優秀な成績で突破してきた。しかし両親は納得しない。


 優秀な成績では駄目なのだ。

 『トップで有り続けろ』それがピエールの両親が課した任務であった。


 元々、彼は勉強が嫌いな訳ではなく、むしろ好きな方で知識欲が旺盛でな子供だったのだ。

 いつの頃からだろうか。

 その勉強が苦になってきたのは。


 小さい頃は良かった。

 熱心な彼が頑張れば常に1番を取ることができたし、何より両親が褒めてくれた。そこに愛を感じることができたのだ。


 だが不安もあった。

 些細なミスがあれば罵倒が飛んで来たから。

 幼い彼は親から見限られることを極端に恐れるようになった。

 そのため、学力を常に磨き続けてきた。


 しかし高等部ともなると王国内のみならず、他国からも優秀な人材が集まって来る。そんな中で常にトップの座に君臨し続けることなどできようはずがなく、両親からの叱責が飛ぶようになっていく。


 精神に多大なる負荷を掛け、好きだった勉強が嫌いになるほどにまで追い込まれながらも両親と同じ王立大学部へと進学を果たした彼であったが、結局自分が何をしたかったのかを見失っていた。しかも大学部に入っても尚、求められるのは『トップ』である。


 最悪だったのは大好きだった――そして1番の味方だった兄が最大のライバルであったことだ。


 兄は何でもできた。

 文字通り何でもこなして見せた。

 常にトップをひた走り続けた結果、両親は兄を愛した。

 そしてそれはピエールにも向けられるはずであった。

 両親は兄がこれほどまでに優秀であれば、自分たちの血を引いている彼ならば必ずや同様にトップを狙うことができると確信していたのである。


 だが、期待は失望に変わり、諦念を経て、ついには無関心へと昇華した。

 最早、ピエールに目を向けてくれる者などいないと彼は奈落の底へ落ちるが如く絶望した。


 そして彼は夢を忘れた。


 そんな彼は現在、自分の夢が何だったのか探しながら魔導具関係の仕事をしている。

 母親がその関係の仕事をしているからと言う理由だけで。

 哀れなピエールに向ける最後の情け。


 勉強だけが友達だった故に、頼れる友達などいないし、目的を見失って結果のみを追求した結果、彼自身を支える物がない状態。

 両親は既に見放され、1人だけ家族からいない者のように扱われると言う仕打ち。


 父親の言葉――『お前は一体何者になりたいのだ? 我が家の恥さらしめ!』


 母親の言葉――『あなたはピサロの搾りカス。産んだ意味なんてなかったわ』


 そんな彼の本来の役割はイベントキャラ。

 トリガーが来たら起こるフリーイベントで踊る演者である。


 しかし奇跡が起こった。

 起こってしまった。

 ゲームが現実となったのだ。


 そしてそれを知る者がいた――言わずと知れたレクスである。


 レクスはイベントのトリガーがピエールの兄だと知っている。

 ピエールが唯一の味方だと知っていたにもかかわらず、忘れてしまっていたその存在を。


 ギルドハウスに兄ピサロが訪れたのだ。


「弟を救ってほしい。その深遠なる絶望の闇の中から。ピエールは幼少期からずっとトラウマに囚われ身動きが取れなくなってしまっているんだ」


 そしてレクスはその依頼を受けた。

 彼にとって家族から愛を受けられないほど哀しいことはないと思っている。

 そこにかつての自分を重ねた彼だからこそ、この依頼を達成し、ピエールの心を救済しなければならないと強く思ったのだ。

 もちろんイベント達成で得られる報酬のためでもあるが。


 ピサロは彼の境遇をレクスに詳細に語ってみせた。

 こんな子供に話して本当に弟を助けることができるのか戸惑いながら。

 しかし溺れる者は藁をも掴む。

 ピサロはギルドハウスのレクスに一縷の望みを賭けていた。


「簡単なことです。まずは貴方がピエールさんの味方になってください。愛を示してあげてください。彼は貴方が大好きなんですから、後のことは私が何とかしましょう」


 返ってきた言葉は単純なものであった。

 その日からピサロは積極的に弟に絡み、関わるようになっていった。

 ピエールを幼少期のトラウマから解放するためには、彼の承認欲求を満たし、自己肯定感を高めなければならない。


 そしてレクスも動く。

 『職業神クラスしんの欠片』を求めて。


 職業神クラスしんの欠片――これを使用すればその欠片に宿る力が備わり、それに封じられている職業クラスに就くことができる。


 例えば王都の喫茶店『ラグナル』でアルバイトとして働いているニナが欲しがっていた古いペンダント。

 あれこそが職業神の欠片であった。

 見た目は綺麗なクリスタルのため、それと分からずに装飾品に使用されることが多い。ちなみにニナが見ていた職業神クラスしんの欠片に宿る職業クラスは『死霊術士ネクロマンサー』である。


 閑話休題。


 レクスはそれが何処にあるのか知っていた。

 聖地リベラにある聖ダンジョン――世界中にあるロンカ・ダンジョンの内の1つだ。


 貴重なアイテムが眠っており、古代の秘宝や遺産が存在すると言われている。

 古代人こだいびとが残したダンジョンなので謎が多く、アイテムを得ても出現する魔物を倒しても、無限に湧いてくるのだ。

 職業神クラスしんの欠片の発見率はそこまで高くはないが、このイベントを受けていた場合、目的の欠片の発見率は跳ね上がる。


 竜神裁判までの残り僅かな時間を使って、レクスはCランクパーティの〈凍てつく焔(フロズ・フレア)〉のメンバーであるエサイアス、ロヴィーサ、カレルヴォ、そしてカインと共にダンジョンに潜った。

 地下第99階層まであると言われている聖ダンジョンだが、そこまで深層に行く必要はない。と言うか、現在の位階レベルではとても深層には行けないのだが。


 9日間の刻を掛けてレクスは目的の物を手に入れることができた。

 ピサロと共にピエールの元へ向かうと、それ――職業神の欠片(学者)を手渡した。これを取り込めば彼の職業クラスは『学者』となる。


 その間にピサロはピエールの心をほんの少しこじ開けることに成功していた。

 ほんの少し愛を取り戻した彼にもたらされた学者の職業神の欠片。


 これによりピエールは愛の一部を取り戻すことに成功した。

 これによりピエールは夢を思い出すことができた。


 そして彼は大学部で古代史から現代史までの歴史を調べ、その魔法の変遷と研究を行うべく夢に向き合い始める。


 後は両親との関係がどうなるかに係っているが、兄ピサロの助力があれば必ずや目的は為るだろうとレクスは考えている。


 イベント『愛を取り戻せ!』


 レクスは今後、その報酬を得ていくことになる。

 イベントはイベントを呼び、とてつもない価値を持つ報酬が待っている。

 古代の大いなる力が手に入るのだ。


 イベントこそ達成したが、ピエールが両親の愛を取り戻し家族としての絆を再構築するためにはまだ時間が掛かるだろう。


 ピエールたちの戦いはまだ始まったばかりだ。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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