第52話 セリア、王都へ
火曜日、水曜日とPV伸びてました!
読んで頂きありがとうございます!
感謝!
本日は12時の1回更新です。
聖グローリア暦1329年も2月を過ぎ、増々寒さが厳しくなる頃。
セリアがロードス子爵領から遥々王都へとやってきた。
王立学園中央部騎士科への入学試験のためである。
後は3月に控える竜神裁判へ出席するためでもあった。
中東部からは普通に貴族の子女たちが入学してくることも多い。
それまでは多くの貴族が家庭教師をつけている。
貴族のエリート階級は中等部卒業後は、貴族士官学院に進む。
中等部からは他国の貴族の子女も入学してくることも多い。
グラエキア王国の王立学園と貴族士官学院は他国からも評判が良いのだ。
そしてこの地にて勉学のみならず様々なコネクションを作って卒業していく。
むしろそちらの方をメインと捉えている貴族も多いらしい。
事前に到着日を聞いていたレクスは王城の巨大な門のところまでセリアを迎えに来ていた。
着込んできたが寒さが身に堪える。
誰も外に出たがらなかったのも当然と言えば当然だ。
それにセリアとは面識がない者ばかりなのでしょうがないと言えばしょうがない話だろう。ミレアは会ったことがないし、カインも恐らくスターナ村での剣の稽古の時に少し会ったことがあるかどうかと言ったところか。
ただプラダマンテだけが、にっこにこの笑みを浮かべて「強い?」と聞いて来たので強いと答えると、レクスの後に付いて来た。
寒風が吹き荒ぶ中、待っていると格式の高い馬車が到着する。
派手ではなく質素、質実剛健と言った感じで無駄な装飾がないのでレクスとしても好ましく感じる。窓からレクスを見つめていたのはよく見知った顔。
馬車の扉が勢いよく開かれると、弾けるようにセリアが飛び出してきてレクスの胸に飛び込んだ。あまりの勢いにレクスが尻もちをついた。
「痛たたたた……」
「レクス、久しぶり」
胸に顔を埋めていたセリアだったが我に返ったのか、素早く離れた。
気のせいか心なし顔が赤い。
「セリア、よく来たな。やっと王都に来れたんだなぁ」
「ここが王都なのね! 新鮮だわ!」
「あれ? 王都に来たことないんか?」
「小さい頃に来たことがあるらしいけど覚えてないの」
「そうなのか。残念だったなこの寒い中、殺風景な景色だし」
「いいよ。レクスと一緒なんだもん」
そう言っては目を細めてはにかむセリアを見ると何故か心が温かくなる。
寒風が気にならなくなるほどだ。
「さっ乗って乗って。レクスの秘密基地に連れてってくれるんでしょ?」
「ああ、そうだ。でもその前にっと……プラダマンテ!」
「はいな! ふっふっふ……やっと私の出番が来たようだね! キミがセリア様? 私はプラダマンテだよ! よろしくね!」
今日もいつもの元気印の彼女がはしゃぎ出した。
寒空の中と言う程度では彼女は止まらない、止められない。
「よ、よろしくね……セリアでいいですよ。プラダマンテさん」
その勢いに押されて、跳ねっ返りな方のセリアもたじたじである。
「やだなもう! プラダマンテでいいよ! レクスくんの友達だからね!」
「ええ……お互いにそうしま、そうしよっか! よろしくね」
望んでいた反応を得られてご満悦な彼女がサムズアップして頷いている。
セリアに促されて馬車に乗ると王都内に入る。
レクスはすぐに屋敷までの道を伝えようかと思ったのだが、せっかくなので王立学園と第三騎士団の兵舎も見せておこうと、そちらを伝えた。
今日は寒い方なので大通りに人通りは少ないが、それでも十分多くの人が足早に歩いている。
流れる街並みを車窓から眺めていたセリアが嬉しそうな声を上げる。
彼女が見つめていたのは中央広場にある大時計塔だ。
「すっごい高いわね! でも上に行ったら寒そうね……」
「いつでも来れるよ。皆で行こう」
竜神裁判の判決次第ではどうなるか分からないが、心配させないようにレクスが笑顔で答えた。そして王立学園の前をゆっくりと通り過ぎていく。
「思ってたよりも大きいのね。それに変わった形……」
「ああ、小等部と中等部が併設されてるからな。2つを繋ぐ回廊にあるのが学園長室だな」
「私は今年で中等部2年だから先輩だね! 先輩って呼んでもいいよ! ふっふっふー!」
「よろしくね! プラダマンテ先輩!」
セリアもプラダマンテも同性の友達はいないはずだ。
これを機に仲良くなって欲しいとレクスは思わずにはいられない。
特にプラダマンテはよく笑うようになった。
どんな時でも心に余裕を持ち、心底楽しげな空気を作ってくれる。
彼女を救出ルートで助け出せたのは大きいとレクスは考えている。
自分の判断がキャラクターの命運を左右するなど烏滸がましいと思うが、なるべく多くの人が救われる未来であればいいなと考えるようになった。
要はレクスも変わってきていると言うことだ。
それが成長なのかは分からないが。
「でも学園長室の場所を知ってるなんてレクスくんは問題児だよね!」
「ち、違ぇーよ! たまに呼び出されるだけだよ!」
「それを問題児と言うのよ」
馬車の中が笑顔で満ち溢れていく。
外の寒さとは違う空気。
温かく、暖かい。
「あれは俺が剣を教えてもらってる第三騎士団の兵舎だな。レイリア師匠とはよく手合せしてる。セリアのことも話してあるから一緒に修行だな」
「望むところよ! 私だってずっと鍛えてきたんだから! 見てなさいよね!」
「ふっふっふ……キミたちは私には勝てないのだよ……。それを思い知らせてやろうじゃないか!」
セリアが負けん気の強さを発揮すれば、プラダマンテもそれに乗ってくる。
良い関係性になりそうで何よりだ。皆こうあれば良いのだが。
とは言え、皆で騒げば良いと言う訳ではなく、お互いを知って尊重し合って欲しいとレクスは考えている。
そんなこんなであっと言う間に馬車はギルドハウスへと到着した。
馬車から降りて屋敷を目にしたセリアの反応は思いの外大きいものであった。
「何これ!! 大き過ぎでしょ! え……これってレクスが買ったの……?」
「ああ、手ごろな値段だったからな。さ、寒いしさっさと入るぞ」
「ふいー炬燵炬燵っと……」
しれっと言うレクスにセリアは愕然としていた。
どれだけ稼いでるんだこいつは……と。
探求者の活動もしていると聞いてはいたのだが。
まさかこれほどとは思ってもみなかったのだ。
「学園に剣の修行に探求者活動ってどれだけ動いてるのよ……」
セリアは何故か可笑しいような嬉しいような感覚になって自然と笑みが零れていた。
レクスが手招きしているので慌てて荷物を降ろすと後を追う。
持ち物は最小限にしたが、それでも貴族の令嬢としてある程度は必要なものもある。残りは付添の従僕と侍女たちが屋敷の中へと運び始める。
セリアが玄関ホールに入ると1人の小柄な侍女が出迎えた。
その周囲には年下の少年少女が10人ほど彼女の様子を窺っている。
侍女のシャルが丁寧に頭を下げて歓迎の挨拶をセリアに掛けた。
その淡い青色の髪がさらりと垂れる。
「セリア様ですね。私はレクス様に仕える者。シャルと申します。以後お見知りおきを」
シャルが見惚れるほどの笑顔でそう述べると、セリアはレクスを引き寄せてひそひそと小声で話し出した。
「こんな可愛い娘まで一緒に住んでるの!?」
「ん? ああ、シャルはこの家に憑りつく霊体なんだよ」
「そうなの!? 訳が分からないわ……」
「まぁ俺の仲間だから気にしないで」
レクスはそう言って気にしたら負けやでと言いつつ部屋の中へとセリアを誘った。プラダマンテはさっさと部屋の中へ姿を消している。
「姉ちゃん貴族なの!?」
「すげー美人だなぁ。レクス兄ちゃんも隅に置けないね」
「ちょっとあんたらジロジロ見たら失礼でしょ!!」
「お姉ちゃんだぁ!」
レクスはスラムにいた子供だとだけセリアに教えたのだが、当然経緯など分かるはずもなく彼女の頭の中は?で埋め尽くされる。
聞くまでもなく彼らは先を争うように自己紹介を始めたので、名前だけは分かった。戸惑うセリアだが、レクスが信用しているのなら問題などないのだろうと思うことにする。
子供たちに手を引かれ、レクスが先導して居室にしている大部屋へ入る。
温かな空気がセリアの頬を撫でた。
大きな部屋だが十分に温められている。
しかも中央には布団のようなものが掛けられた大きなテーブルが置かれており、そこに体を潜り込ませてだらしない表情をしている者が数名。
ミレアとホーリィ、カイン、それにプラダマンテも加わっていた。
何だあれはとセリアが困惑していると、レクスもそれに気付いて説明する。
「炬燵とは……」
「取り敢えず入ってみれば、良さが分かるよ。大き目に作ってあるから大人数でも入れるからさ」
セリアはレクスに促されるまま、炬燵にそっと足を入れて座る。
「あったか~い」
こんな物がこの世に存在したのかと凄まじい衝撃に襲われて驚きを隠せない。
レクスはそんな蕩けたセリアの表情を見て満足気に頷いている。
「この部屋はいつも温かくしてあるから、セリアもここで勉強すればいいよ。あ、後、セリアの部屋も用意してあるから心配しなくてもいい」
セリアを再び衝撃が襲う。
こんな場所で勉強など出来るのか。
否。気持ち良過ぎて即寝落ちしてしまうだろう。
「受験までもう日もないしな。まぁセリアなら余裕だろうけど」
レクスも一応、受験対策の書物の内容に目を通してみたのだが、楽勝レベルで申し訳なくなるレベルであった。であれば彼女も同じだろうと考えたのだ。
「おい。それより起きろよお前ら。セリアが来たんだぞ! 出迎えくらいしろよ……」
「いいのよ別に。気にしないで」
そうは言うが、レクスとしてはこのような出会いと言うものは大切にすべきだと考えているため納得がいかない。セリアに免じてこの場は叩き起こさずに済ますが、後で炬燵から追放の刑に処そうと考えていた。
「あーっとそこの青い銀髪がミレアね。俺の幼馴染。その豹族のでかいのがカイン。あっちの赤い髪の少女みたいなのがホーリィ聖下。亜神だ。あとは……今日はマールはいないのか」
レクスの超雑な説明にセリアは嬉しさを感じていた。
貴族令嬢としてではなく、気の置けない仲間として接してくれるレクスには感謝しかない。
「まぁ長旅で疲れたでしょ。ゆっくり休むといいよ」
セリアはその好意に甘えて荷物を自室に運び込むと炬燵を堪能するのであった。
炬燵信者がまた1人誕生した歴史的瞬間である。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。




