第10話 決着
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本日は12時、18時の2回更新です。
メラルガンドが信じられないほどの大跳躍で一挙に間合いを詰める。
その先に待つのは蛇に睨まれた蛙のように動けない傭兵たちのど真ん中。
そして瞬く間に2人の上半身が悲鳴を上げる事もできずに喰いちぎられる。
「テメェらッ! 死にたくなければ足掻けェ!! 【アイスソード】!」
剣に魔法を付与したガルガンダが吠える。
そして悔やむ。
いくら安全圏であるはずの王都周辺だったと言えども絶対の保証などなかったことを。精鋭部隊を領都ロドスに留まらせてしまったことを。
メラルガンドの魔鋼の尾が周囲の傭兵を薙ぎ払う。
鋼の中でもトップクラスの硬度を誇るガルド鋼すら両断してしまう尾の攻撃の前には、傭兵たちの装備など紙同然であった。
「【真空破】!」
疾風のようにメラルガンドに肉薄したレスタの騎士剣技が発動する。
剣の一振りが風の刃と化し、その巨躯に迫るがそれもまた尾で軽々と吹き散らされてしまう。
「なッ!?」
その一瞬にもまるで攻撃など受けていないかのようにメラルガンドのたてがみと化している大蛇から一斉に火炎が吐き出される。
その地獄のような炎が傭兵3人を火だるまにした。
それを見たガルガンダは攻撃用に発動した【アイスソード】の効果を火に巻かれている傭兵へと放つ。傭兵にもダメージは入るが、火を消すことを優先したのだ。
「【フローズンソード】!」
すぐに新しい魔法剣を作成するガルガンダ。
そして大きくジャンプすると魔法剣を体に叩きつける。
魔法剣は剣に魔法を付与したまま戦うこともできるし付与した魔法を飛ばすこともできる。つまり近距離にも遠距離にも対応した職業だ。
「(確かメラルガンドには氷属性が特効だ。流石の判断だ)」
レクスはガルガンダの攻撃が通ると判断し、スキルの【神魔装甲Ⅰ】を発動する。
グンとこれまでにない力がレクスの体を廻り、黄金のオーラを身に纏った。
力がみなぎる。
後はそれをぶつけるだけ。
レクスが子供とは思えない脚力を持ってメラルガンドに迫る。
「(ガルガンダさんの攻撃の後に追撃するッ!」
そんなことを考えるも事はそう上手くは運ばなかった。
パキィィィィィィィィン!!
澄んだ音と共に剣に付与されていた氷が砕け散る。
尾で剣を振り払ったのだ。
「なにィ!? こいつC+ランク級かッ!?」
ガルガンダが自身の攻撃が失敗に終わったことを悟り、驚愕の声を上げるもレクスは止まらない。
邪魔な尻尾を避けて側面から刺突による攻撃を放つ。
肉を引き裂く感覚がレクスの手にダイレクトに伝わってくる。
流石のメラルガンドも剣さえも強化された一撃は効いたのか一瞬動きが止まった。
「(一気に体重をかけるッ!)」
剣をそのまま体内に捻じ込もうとしたレクスであったが、ここでも尻尾に邪魔される。その身に迫りくる尻尾をバック転の要領で何とか躱し、一旦距離をとって魔法を叩き込む。
「2ndマジック【氷錐槍】」
氷柱のような氷の矢がメラルガンドの体に直撃し、鮮血が噴き出る。
流石に体は普通の獅子と同じような皮膚をしているため防がれさえしなければ攻撃は通るのだ。レクスの表情が自然と緩むが、すぐさま再び硬いものに変わる。
「グルァァァァァァァ!!」
近くにいた傭兵数人がその鋭い爪で引き裂かれ大地に倒れ伏す。
どう見ても致命傷だ。
「あの野郎、遊んでやがる。後衛は距離をもっと取れッ! 戦士共も退いて後衛の守りに徹しろッ!」
新兵ばかりの傭兵たちでは邪魔にしかならないと判断したガルガンダの指示であった。役に立たない仲間を囮にして戦うような人物だと考えていたレクスは少し意外に思う。
ゲームで見せる性格とは違うように感じたからだ。
もしかしたらこれから考えが変わるような出来事がガルガンダの身に起こるのかも知れない。
指示に従って傭兵たちが我先にとメラルガンドから距離を取ろうとする。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
背後を向けて逃げる者たちに興味対象が移ったのだ。
ガルガンダやレスタを無視して逃げる傭兵たちを攻撃するメラルガンド。
「(動きが速過ぎるッ!)」
たちまち傭兵たちに追いついたメラルガンドはその凶悪なまでの牙と爪、そして尻尾を使い虐殺の宴を開始した。
「【斬空破】」
「【フローズンソード】」
「2ndマジック【氷錐槍】」
レスタが騎士剣技を、ガルガンダが魔法剣を、レクスが暗黒魔法を発動する。
剣撃が残像を残して飛び、氷の剣が雨霰と降り注ぎ、氷の矢がメラルガンドに迫った。望みをかけたそれらの攻撃であったが次々と防がれてゆく。
飛ぶ剣撃は尻尾によって吹き散らされ、氷の矢は大蛇が放った火炎に飲まれ届かない。唯一、魔法剣による攻撃のみがメラルガンドの巨躯に突き刺さりダメージを与えた。
「おいおいレクス、オメェがスキル持ちなんて聞いてないぜ。だが強いのは分かった。十分に戦力になるってのもなァ。スキルは身体強化系か? 攻撃力も防御力も跳ね上がってるはずだ。オメェは全力でアイツの首か尻尾を斬り落とせ。レスタは零距離で騎士剣技を叩き込むんだ」
「分かりました」
「はッ!」
すぐにレクスは走りだし、少し遅れてレスタもそれを追う。
既に傭兵たちに動いている者はいない。
最早、獰猛なる魔物の興味はレクスたちにのみ向けられていた。
「【フローズンソード】」
「2ndマジック【氷錐槍】!」
氷の矢を放ち、それを盾にするようにしてレクスが迫る。
知能が高いであろうメラルガンドの首回りの大蛇から一斉に火炎が吐き出され、氷の矢があっと言う間に融けて消える。
迫りくる炎を【神魔装甲】のお陰で潜り抜けたレクスが更なる魔法を発動した。
「2ndマジック【火炎球弾】」
火炎の球が着弾する前に尻尾がそれを薙ぎ払い爆散する。
当てるのが目的ではなく、最初から迎撃されることを見越しての目くらましだ。
そこに隙を見い出したレクスは一気に加速し尻尾の根本に剣を上段から斬り下ろした。
「(手応えありッ!)」
そう感じた瞬間、レクスは振り上げられた右足の攻撃を左からまともに喰らい吹っ飛ばされる。
――飛ぶ意識。
大地に叩きつけられ何度もバウンドし、ようやくレクスの体の勢いが止まる。
【神魔装甲】がなければ上半身と下半身が別れを告げていただろう。
「(まずい……つい……げきが……くる)」
追撃は……こなかった。
レクスの体は悲鳴を上げており、這いつくばって上体を起こすことしかできない。意識が朦朧とする中で何とか状況を把握しようと歯を食いしばる。
「【粉砕撃】」
そこへレスタ渾身の騎士剣技がメラルガンドの顔面に叩き込まれた。
その一撃は首を落とすまではいかないものの、その右目を文字通り粉砕し水風船が弾けたように破裂。
更にガルガンダの【フローズンソード】の魔法が反撃のために大地を蹴ろうとしていた後ろ足を凍りつかせ行動を阻害する。
好機と見たレスタは左側から回り込むと首を落とすべく見事なまでの上段攻撃を見舞う。
『(殺った!)』
ガルガンダとレスタが確信する。
が。
「ガルァァァァァァァァァァァァ!!」
メラルガンドが怒りからか痛みからか咆哮を上げ、レスタの剣は大蛇に巻き込まれた挙句、吐き出された火炎の渦に沈んでしまう。
「クソッタレェェェェ!!」
【フローズンソード】の魔法を放った瞬間、メラルガンドに向かってダッシュしていたガルガンダが特攻する。
しかし待っていたのは――絶望。
メラルガンドは強靭な後ろ足で跳躍し、ガルガンダの体に体当たりして吹き飛ばす。出会い頭に衝突した格好となり、受けた衝撃は計り知れない。
そして首回りの大蛇の口に火が灯った。
「(躱せん……)」
ガルガンダは頭から血を滴らせ、終わりを感じた。
体もどこかの骨が逝っているようで動かせない。
全てがスローモーションに感じられる。
――ドスッ
ガルガンダが覚悟を決めた瞬間、レクスの剣がメラルガンドの左脇腹に深く突き刺さった。全体重を乗せた体当たりのような一撃は、メラルガンドに苦痛の咆哮を上げさしめた。
が、それだけだった。
メラルガンドがレクスの方へ顔を向けると、その視線が交錯し時が止まったのような感覚に襲われる。
もちろんそれは錯覚であった。
ゆっくりとその大きな口がレクスに迫り、死の足音を聞いた気がした。
「(――死)」
――斬!!
3人がかりでどうしても斬り落とせなかった首が落ちる。
その致命の一撃の後にレクスの目に映ったのは鮮血が吹き出す首のないメラルガンドの巨躯であった。何が起こったか理解できず、また目の当たりにした事実を頭が認識し始めた時、大きな音と共に圧倒的強者は体を大地に横たえた。
「面白い! 面白いものが見られたわぁ! アナタやるじゃない!」
座り込んだまま立つこともできないレクスが見たのは、片刃の超大剣を手にした女の子であった。
燃えるようなセミロング程の赤髪が美しい。
服装は高位の神官が身に着けるような高級感のある仕立ての赤を基調とした羽衣で、その赤髪と相まって非常に似合っている。
「戦神……戦神ホーリィ・エカルラート……」
レクスはそう呟くと意識を手放した。
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明日は13時と20時の2回更新となります。




