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第9話 想定外の状況になってしまいました



「ア、アシュア様!? 何故立ち上がって――、い、いけません! すぐ部屋へ戻り安静に――」


「馬鹿を言うな。里の客人を、長の私が出迎えなくてどうする」


「し、しかし、この者はピローを! ……客人どころか、エルフ共の手先かもしれませぬぞ!?」



 ネイル氏は最初から俺のことをあまりよく思っていなかったようだが、どうやらさっきの件で最悪レベルにまで印象が悪化してしまったようだ。

 ここまで嫌われると、たとえ誤解が解けたとしても仲良くなるのは難しいだろうな……



「いや、客人で間違いない。……それも、この里を救ってくれるかもしれない、な」


「「っ!?」」



 その言葉に、ネイル氏だけでなく俺も驚かされる。



「え、もしかして俺のこと、どこかで聞いてたりします?」


「いや? 私はもう10年以上この森から出ていないので、外の情報には疎い。当然、ジェル殿とも初対面だぞ」



 そりゃそうだ。

 こんな超絶美人、もし一度でも会ったことがあるのなら、それがたとえ子どもの頃だったとしても絶対忘れない自信がある。

 だから俺も、間違いなく初対面だとは思うのだが……



「うーむ……、こういう不可解なことは大抵の場合特技(スキル)のせいと相場が決まっている」


「フフッ、その通りだ」



 ピローが【意思疎通】で予め情報を伝えていた――、というのは恐らくだがないと思われる。

 【意思疎通】は感情や思考はある程度伝えることはできても、念話のように会話をすることはできないからだ。

 便利な特技ではあるのだが、固有名詞や精密な情報を伝達することは不可能なため、情報収集やスパイ活動にはあまり向いておらず、狙って修得しようとする者は滅多にいない。


 しかし里長――アシュアさんは、俺のことを「ジェル殿」と名前で呼んだ。

 アシュアさんが本当に俺のことを知らなかったのであれば、何らかの方法で今――或いは直近に情報を得たということになる。

 可能性があるとすれば【鑑定】のスキルだが、それだけでは俺が里を救いに来たと判断することはできないだろう。

 となると、【鑑定】の上位互換か、或いは――未来視系か?

 ……なんにしても、大層な特技をお持ちのようだ。



「なら話は早いけど、施術は必要ですかね?」


「そう遠回しにに探らずともよい。ピローがここまで連れてきた以上、我々はもう一蓮托生だ。何も隠すつもりはないし、全てをジェル殿に(ゆだ)ねよう」


「っ!? アシュア様!?」


「……」



 何も知らなきゃ意味不明な確認をしてみたが、意図を見透かされてしまった。

 一応信頼もしてくれているようだし、これ以上試すような真似をするのは失礼になる、か……?



「……わかりました。ですが、実際にファティーグの呪いを見るのは俺も初めてです。アシュアさんがどこまで見えている(・・・・・)かはわかりませんが、厳しいと判断したら手を引かせてもらいますよ」


「……そうだな。私も絶対の自信があるワケではない。ただ、今よりは確実に良い状況になるとは思っている」



 まあ、そうじゃなきゃ恐らく門前払いされていただろうからな……



「ま、待ってください! 私には状況がまるでわかりません! せめて説明を!」



 ネイル氏が、俺とアシュアさんの視線を遮るよう割り込んでくる。

 何もわからず置いてけぼりにされているような状態だったから気持ちはわかるのだが、わざわざ視界に割り込んでこなくてもいいのになぁ……

 もしかして、俺が(よこしま)な目でアシュアさんを見ているとでも思ったのか?

 ……見てたけどさ!



「先ほど夢で、その男――ジェル殿が我々にかけられている呪いを解いているところを見た」


「なっ!?」



 夢――ということは、【予知夢】か?

 【予知夢】は未来視系に分類される特技だが、その名の通り未来の映像を夢で見ることができる、とても有用な特技だ。

 基本的には1~2日以内の映像しか見れないらしいが、それでも内容次第では運命すら捻じ曲げることができてしまう。


 それだけ有用なこともあり、未来視系はかなりのレア特技に分類される。

 どのくらいレアかというと、歴史上数人しか確認されていないというレベルだ。

 実際は確認されていないだけである程度の人数は存在すると言われているが、王家や貴族が秘匿している可能性が高いため世間に使い手の名が広まることは滅多にない。

 だからこそ本来であれば大っぴらに口にできる特技ではないのだが……、状況が状況とはいえ、まさかそれを躊躇(ためら)いなく口にするとはな……



「なんてことを……! こ、こうなれば、この男を殺して――」


「恐らく不可能だからやめておけ。それに、冷静に考えてみろ? もし私の特技を利用したいのであれば、余程の間抜けでもなければ呪いを解いたりはしないぞ」


「……っ」



 ネイル氏は反論したそうな顔をしているが、ここで考え無しに反論すればアシュアさんに「余程の間抜け」扱いされる可能性があるためか、ギリギリのところで踏みとどまったように見える。


 実際、呪いを解けるという前提であれば、現状は俺の方が圧倒的に優位な立場にあると言えるだろう。

 単純にメリットだけ考えれば、簡単に呪いを解かずに甘い汁を吸った方が色んな意味で良い思いができるからだ。

 さらに言えば、そのまま最後まで呪いは解かずに見捨てることで、恨まれるリスクすらもなくすことができてしまう……


 無論、俺にそんな鬼畜の所業はできないが、そうすると今度は俺に別のリスクが生じることになる。

 ダークエルフ達の呪いを解けば恩は売れるし、感謝もされるだろうが、それでもアシュアさんの特技を知った俺を無事に解放するとは思えないからだ。


 ダークエルフは基本的にお人好しが多いが、必ずしも全員が甘いワケではなく、長い迫害の歴史で精神的に病んでいる者も多く存在する。

 そういった者が不安に駆られて俺を殺しに来るという可能性は、残念ながらゼロではない。


 それに先ほどのネイル氏の反応を見る限り、そういう汚れ役を買って出る者だって確実に何人か出てくるハズだ。

 つまり、善意だろうが悪意だろうが、どっちにしても呪いを解かずに立ち去るのがベストということになる。


 それでも呪いを解く選択をしたのだから……、未来の俺はアシュアさんの言う通り「余程の間抜け」に違いない。


 いや本当、完全に想定外の状況だよチクショウ……



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粘液で解ける呪い?
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