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第7話 ダークエルフの里に案内されました



「お前……、正気か?」


「もちろん正気だ――と言いたいところだが、疑われても仕方ないと思ってるし、正直俺も自分が正気である自信はない」



 正気の人間は一人でこんな森に入ったりはしないだろうし、ソロで悪魔を討伐しようだなどとは考えないだろう。

 長いことソロ活動を強いられたことで、少しずつ一般的な常識から逸脱していっている自覚はある。



「さっきも言った通り、俺は基本的にパーティを組むことができない。だから必然的にソロで狩れるモンスターの情報を集めていたんだよ。ファティーグはその過程でピックアップされたってだけの話だ」


「愚かな……。断片的な情報で楽観的な想像をしているのだろうが、アレはそんな容易(たやす)い存在ではない。我ら戦士が束になってかかって、手も足も出なかったのだぞ……」



 ピローはそのときの恐怖や屈辱が蘇ったのか、苦々しい顔で小刻みに震えている。

 この反応だけで、本当に一方的な戦いであったことが容易に想像できる。



「『呪い』のせいだろ? それくらいは把握してるさ」



 悪魔は、個体ごとに異なる特殊な能力を持っている。

 これは特技(スキル)とは完全に別物の能力であり、悪魔のみが使用できる固有能力だ。

 人族のあいだでは『呪い』と呼ばれており、これこそが悪魔が討伐ランクSS級に指定されている理由でもある。

 しかも特技は特技でしっかりあるため、対処するのが非常に難しい。


 それもあって、討伐には高ランクの冒険者が数十人単位で動員されることもある。

 というか、この前の大規模討伐みたいな国家レベルの討伐依頼が、たった一匹の悪魔に出されることも珍しくない。


 ……まあ、俺はそんなレベルの存在をソロで討伐できると豪語してるのだがら、疑うのも無理はないか。



「……ヤツの『呪い』は、薬でも回復術でも癒せないのだぞ?」


「それも知ってるよ」


「じゃあお前は、アレに対処できると?」


「まあ、実際に見たワケじゃないから確証はないがな」



 ピローは疑わしげに睨みつけてくるが、その視線はどこか弱々しさを感じさせる。

 これは……、大分参っているな……



「なあ、これは提案なんだが、俺にそれを証明させてくれないか?」


「……」



 普通であれば、俺のようなどう見ても怪しい者になど、頼ろうとは思わないだろう。

 しかし、この様子だとピロー達は相当追い詰められた状況にあると思える。

 でなければ、わざわざ俺に悪魔のことなど話したりしないだろう。

 理由は単純に、どう考えてもリスクしかなからだ。


 もしファティーグに情報を漏らしたことがバレれば、死すら生温い無残な結末が待ってる。

 ……そんなリスクを負ってでも俺に話したのは、恐らく(わら)にもすがる思いがあったからに違いない。



「証明とは、どうするつもりだ?」


「簡単だ。実際に俺がファティーグ『呪い』を解呪できれば、対処できる証明になるだろう?」


「っ!? まさか、防ぐだけでなく、解呪も可能だというのか!?」


「むしろメインはそっちだよ。さっき言っただろ? 俺は元々、整体師だってな」





 ◇





「へ~、ここがダークエルフの隠れ里か……」



 ピローの案内で、俺は彼女達が暮らす隠れ里に招き入れられた。

 里の入口は巧妙に隠されており、案内がなければ絶対に見つけられなかっただろう。



 信頼も信用もしていないだろうが、ピローは少なくとも俺に賭けることを選択した。

 間違いなく大博打にはなるが、それでもマシと判断したということである。

 どんだけ酷い状況なんだと正直少しビビったが、冷静に考えればそれだけが理由でないことも理解できた。


 まず第一に、ピローは【意思疎通】の特技により俺の心情をある程度察することができる。

 【読心】のような精度の高さはないが、少なくとも俺に悪意や隠し事がないことは確認できたのだろう。

 それに、規模は違えど、俺はダークエルフと同じく迫害される側の存在だ。

 痛みを知る者は、同じ境遇の者に共感することができるし、優しくすることもできる。

 根っからのお人好しであるダークエルフは特にその傾向が強いので、もしかしたら俺に対し仲間意識に近い感情を持ったのかもしれない。


 ……まあ、俺には【意思疎通】の特技はないので全て想像に過ぎないが、そうであればいいなという思いはある。

 理由は単純で、俺は昔からダークエルフに対し仲間意識に近い感情を持っていたからだ。

 もはや世間体(せけんてい)などどうでもいいし、周りに気を遣う必要もないので、堂々とダークエルフの手助けをしてやろうではないか。



「っ!? ピロー! なんだその男は!」



 里に入ってしばらく歩いていると、民家と思しき家屋からダークエルフの男が飛び出してくる。



「……客人だ」


「客人!? お前、何を言って――」


「問答をしている猶予はない。……私を信じてくれ」



 ピローがそう言うと、男は不満そうにしつつも言葉を飲み込む。

 これは恐らく、ピローがこの男から一定の信頼を得ているからこその反応と言えるだろう。

 ……いや、【意思疎通】の特技は地味ではあるが非常に有用なので、ピローはもしかしたら里の中でも重要な役割を担っているのかもしれない。



「……あとで必ず説明してもらうぞ」


「わかっている――が、実際に見てもらった方が理解が早まるだろう。ネイル、お前も来い」



 ……いや、それは確かにそうなのだが、施術を他人に見せるのは結構気まずいぞ?



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