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第6話 どこでも老害って大変だよねというお話をしました

 ダークエルフはエルフにより迫害されている。

 これは人族のあいだでも有名な話で、その過激さには正直ドン引きしている者も多い。

 しかし、同情して助けたり(かくま)ったりすると最悪巻き込まれかねないため、大抵の者は見て見ぬふりをしている。

 他の種族も似たり寄ったりの反応だが、中には同じような差別意識を持つ種族もいるため積極的に迫害に加担してくることすらあったりと、まあ中々に大変な状況だ。


 そして、これは問題と言っていいか微妙なところだが、実はダークエルフには人格者が多かったりする。

 それは言いかえれば人が好いということであり、結果として他の種族を巻き込むまいと助けを求めようとしないのだ。

 人が好いのも高潔なのも良いことではあるのだが、残念ながらそれが原因で文字通り「救えない」のである。


 戦場でも医療でも言えることだが、助かろうとしない者を助けるのは非常に困難だ。

 こちらから手を差し伸べただけでは届かないこともあるし、掴み返してくれなければ引き上げられないこともある。

 ただでさえダークエルフを救うのには多大なリスクを伴うというのに、そんな状態では「じゃあ助けないでもいいか」と思われても仕方がないと言えるだろう。

 ……俺なんて、助けを求めても冷たくされるというのに!


 まあ、俺のひがみは置いておくとして、要するにダークエルフが今も迫害され続けているのは自業自得な部分もあるということだ。

 イジメにしても犯罪にしても加害者側が悪いのは当然だが、自衛しなければいつまでも被害を受け続けることになる。

 災害やモンスター相手に善悪を論じても意味がないように、まずすべきは直接的な被害対策だ。



「私はダークエルフの中では比較的若い方でな、年寄り連中よりかは柔軟に現状の改善を考えていたのだ。そして、時には少し強い言葉で説得を試みたこともあった。……結果的に、それが悪い方向へ傾いた」


「……」



 声には出さなかったが、内心で思わず「うわぁ……」と(うめ)いてしまった。

 【意思疎通】の特技(スキル)を持つダークエルフさん――ピロー・テイルには、恐らくバレバレだっただろう。



「老害という言葉は、確か人族が作った言葉だろう? 私は実体験したことでその意味を初めて理解したよ」



 老害とは、老齢による弊害を略した言葉だ。

 元々は国や組織の幹部が高齢化しても実権を握り続けていることによる弊害を意味する言葉だったか、昨今は単純に周囲に迷惑をかける害悪のような年配者を指すことが多い。


 年配者の全てがそういうワケではないが、人は加齢とともに感情的になりやすくなったり頑固になったりする傾向にある。

 特に若い頃優秀だったり成功者だったりした場合、自分がまだ優秀なままだと勘違いしたり、過去の栄光ややり方を引きずることが多々あるのだ。

 そういった者は時代の変化にもついていけないので若者と感覚の差が生まれやすく、衝突したり煙たがられたりしやすい。



「つまり、ピローさん――、というより若手のダークエルフがどんなに訴えかけても、頑固者の老害エルフはそれを受け入れず対立関係になったってところか?」


「さんは不要だ。……対立だけであればまだ良かったのだが、我々の今の状況を利用し、弄ぼうとする存在が現れたのだ」


「っ! ……まさか、悪魔か?」


「そうだ」



 弱っているところを狙うのは、戦闘に限らずあらゆることに応用可能な効果的な戦略である。

 それはつまり犯罪などの悪事にも利用されるということであり、詐欺などはあの手この手で年々増え続けている。

 特に昨今は子どもや老人を狙った非道な犯罪組織も増えており、世間的には悪魔の集団だと呼ばれることも多い。


 ……しかし、ピローが言っているのはそういった詐欺集団のことではなく、比喩の元ネタである本物の悪魔のことだ。

 悪魔はモンスターの一種だが、その残忍さと非道さは他のモンスターと比較しても抜きんでており、討伐ランクもSS級と最上位に位置する危険な存在だ。

 幸い個体数は少ないが、一体でも国を滅ぼせるほどの力を有しており、神出鬼没なため天災と同じ扱いを受けている。



「……思った以上に最悪の状況だな。有名なヤツか?」


「わからない。我々は世情に疎いからな。ただ、奴はファティーグと名乗っていた」


「ファティーグ!?」


「知っているのか?」


「……まあな」



 ファティーグは、観測された時期が比較的新しい、悪魔の中でもかなり若い個体だ。

 それゆえに大した事件も起こしておらず、特徴などの情報もほとんど得られていないため知名度はかなり低いと言えるだろう。

 そんな悪魔の名前を何故俺が知っているのか?

 ……それは、前々から俺がコイツに目を付けていたからだ。



「まさか、こんな地元でその名を聞くことになるとは思わなかったぞ」


「有名な個体なのか?」


「いや、どちらかと言えばかなりマイナーな悪魔だな。近年観測されたばかりの個体で、まだ世間にはあまり認知されていない」


「……それを知っているのは、お前が勤勉だからか? それとも、何か他に理由が?」



 ピローの意思疎通の特技は心を読むほどの精度はないが、ある程度相手の心情を察することはできるらしい。

 だから、俺がファティーグの名を聞いて少し高揚していることには気づいたが、それが一体どんな意味を持つかは図りあぐねている――といったところだろう。

 何か因縁めいた関係でもあるのか? とでも勘違いされると申し訳ないので、早めにネタバラシをしておくことにする。



「別に大した理由じゃない。……ただ、この悪魔ならソロでも狩れるかもしれないとチェックしてただけだ」


「っ!?」



 いやだって、俺ってボッチだからさ?

 ソロで狩れそうな大物は小まめにチェックしてたんだよ……



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