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第4話 涙なしには語れない話をしました



 俺は多少の脚色を加えつつも、何故こんな森に一人で入ったかの経緯を伝えた。

 ダークエルフさんは最初、「何故私は見ず知らずの他人の身の上話を聞かされているのだろうか?」という感じで平坦な顔をして話を聞いていたが、最終的に非常に複雑な味わい深い表情を浮かべていた。


 俺も他人に自分のことをここまで話すのは初めてだったので、今まで溜め込んでいた気持ちが爆発し、涙でボロボロの状態である。

 感情入りまくりの嗚咽交じりで、さぞ聞き取りづらかっただろう。



「……何というか、その、大変だったんだな」


「わかって、くれます?」


「まあその……、知っているとは思うが、私達ダークエルフも迫害されてきた歴史がある。貴様の気持ちは、理解できなくもない」



 そう、実のところ俺には少し期待があったのだ。

 ダークエルフの彼女であれば、もしかしたら俺に共感してくれるかもしれない――と。


 ダークエルフがエルフから酷い差別を受けているという話は昔から有名で、その過激さは正直ドン引きするレベルだったりする。

 手足を切り落とすのは当然として、想像し得る――いや、想像を超える内容の拷問をされたうえに、死んでからも(もてあそ)ばれるというのだから恐ろしい話だ。


 しかも、実は近年になってダークエルフとエルフの違いは肌の色だけということが研究により判明していたりする。

 だというのに、エルフはそれを認めず今も迫害を続けているのだから、もう事実などどうでもよく、ただただダークエルフをイジメたいのだとしか思えない。

 これは恐らく、エルフが長命で積極的に繁殖をしない種族であることも影響しているのでは? という説がある。

 要するに、老害ばかりだということだ。

 物凄く納得できる話なので、俺はこの説を信じている。



「しかし、にわかには信じられない話でもある。飛竜(ワイバーン)を一人で退けたなど、大口にも程があるぞ?」


「いや確かに、他にも街に残ってた冒険者はいたから完全に俺一人ってワケじゃないよ。でも、火球の雨から街を守るのは、多分俺じゃなきゃ厳しかったと思うぞ?」


「……想像できん。具体的にどうやったというのだ」


「別に難しいことじゃない。こうやって『泡』を利用しただけだ」



 そう言って俺は手のひらに泡を生成し、息を吹きかける。

 泡は風に乗りフワフワと飛び、そのまま森の奥へと消えていった。



「まさか、今の泡で火球を防いだとでも言うつもりか?」


「そうだよ。想像できないかもしれないが、実は泡って凄いんだぞ?」



 泡とは、石鹸などが混じることで粘性を帯びた液体が薄い膜となり、気体を包むことで発生する物理現象である。

 言ってしまえばただそれだけの現象なのだが、実はこれにより普通ではできないことが可能となるのだ。


 まず液体は、特技(スキル)などの超常現象でもなければ、普通空中に浮くことはない。

 しかし、泡を形成する液体の膜は非常に薄く、気体にも普通重さが無いので、風などの僅かな影響力で浮かすことが可能となる。

 つまり、この性質を利用することで、広範囲に液体を散布することができるのだ。



「つまり、泡で包んで街を守ったと? 正直、泡で火球を防げるとは思えないが……」


「火球自体は防げないが、着弾後に燃え広がるのを防げるんだよ」



 飛竜の吐く火球は特技により生成されたものだが、着弾したあとは世界の法則に基づいた現象となる。

 そして、原理はわからないが火は空気がないと維持できないため、空気と遮断してやれば鎮火することが可能となるのだ。

 泡はその役割を果たすとともに、水分による冷却効果もあるため抜群の消火能力を誇っている。



「消火と言えば真っ先に水使いが思い浮かぶだろうが、水使いが同じ規模で消火をしようと思ったら5人いても厳しいと思うぞ?」



 個人差はあるが、一般的な水の特技を持つ者が生成できる水の量は大体小さな池程度である。

 余程効率よく散布しなければ、瞬く間に底を突いてしまうだろう。

 恐らくS級の冒険者の中には街を丸ごと消火できるレベルの水使いもいるのだろうが、それは同時に津波や大洪水のようなダメージを与えることになる。

 俺よりも効率よく消火できる者がいるとすれば、天候を操るような化け物くらいなんじゃないだろうか?



「……なるほど。泡であれば生成する液体の量は抑えられるし、効率が良いということだな。それに、性質を考えれば中々に恐ろしい能力だ」


「だろ?」



 このダークエルフさんはすぐに気付いたようだが、これは液体の性質を変えれば他にも色々なことが可能となる。

 たとえば回復効果のある液体を散布すれば広範囲の回復も実現できるし、代わりに毒を散布することもできる。

 もちろん被害が大きくなり過ぎるためやるつもりはないが、そういった選択肢はやらずとも意識させるだけで十分に効果的だ。



「説明を聞いてある程度納得はいったが、なおさら理解できなくなったぞ。 何故それだけのことを成せる貴様を、街は追い出そうとしたのだ」


「……その問いに答える前に一点――いや、数点確認したい。蛙男(フロッグマン)を知っているか?」


「フロッグマン……? あの蛙のようなモンスターか?」



 蛙男(フロッグマン)は一見すると蛙の亜人のように見えるが、ゴブリンなどと同様のモンスターである。

 以前は亜人とモンスターの境目は難しいとされていたのだが、蛙男は魔王により活性化したことで正式にモンスターとして扱われるようになった種族だ。



「じゃあ、半魚人(マーマン)は?」


「それも知ってるが――って待て、まさか……、そういうことなのか……?」



 このダークエルフさん、さっきもすぐに俺の特技の応用性を見抜いたし、頭の回転は速いようだ。

 ……いや、流石に誰でも気付くか?



「ああ、俺の特技【粘液生成】は、俺の体液だと誤解されているんだ……」



 んなワケねぇだろぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!



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