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ローション無双! ~どこに行ってもキモイと言われる俺が世界を汁躙する……かもしれない?~  作者: 九傷


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第32話 策が尽きる前に限界が来てしまいました

 


 雪国などでは雪や氷を利用した遊技やスポーツが盛んになるもので、俺の粘液を滑る移動方法もそこから得た発想から生まれた技術だ。

 何事にも言えることだが、改善や改良のヒントはこの世のありとあらゆる事象に散りばめられているのである。


 速く動きたいのであれば、より速い生物や移動方法を参考にすればいい。

 優れた防御方法を身に着けたければ、防御力の高い生物や構造物を研究すればいい。

 俺は今まで、そういった創意工夫により自分に足りないものを補ってきた。


 この攻撃方法についても、以前研究したことのある遊技から発想を得たものだ。

 その遊技は厳密に言うと二つあり、一つは岩を転がして障害物をなぎ倒した数を競うもので、もう一つは氷の上に岩を滑らせ標的にぶつけるという内容だ。

 どちらも仕事の息抜きで生まれたと言われるシンプルな遊びだが、岩の形状や投げ方により軌道に変化を加えられたりと奥深い一面もあったりする。


 今回利用した漬物石は、ある程度の安定性を確保するため整った形をしていることから、地面を滑らせるには適していると言っていいだろう。

 しかしそれでも、距離が長ければ軌道が変わったり止まったりする可能性はある。

 他にもタイミングの問題や距離による減速も考慮し、可能な限り引きつける必要があった。

 ……そして恐らくは、その僅かな時間が発生したことで――、奴に足掻くチャンスを与えてしまったのだと思われる。



「クソいでぇ……がぁ、しのいだぜぇ……?」


「……大した機転だな」


「おれぁ、こう見えて、頭の出来はいいんだよぉ」



 ファティーグの知能がそれなりに高いことは重々承知していたつもりだが、どうやら動体視力や思考速度についても高水準なものを備えているらしい。

 ……いや、そもそも眼球が機能していないのであれば、動体視力という考え方自体が当てはまらない可能性がある。

 動体視力とはそもそも眼球運動や視覚情報の処理速度に依存するので、生物が持つ器官の多くが飾りでしかない悪魔は全く異なる原理で映像を捉えていてもおかしくないからだ。

 無論似たような原理の何か(・・)である可能性もあるが、脳からの電気信号を介していないのであれば反応速度も人間とは異なると考えた方がいいかもしれない。



「そんな……、タイミングは、完璧だったハズだ……」


「ああ、ピローの拍子取りも完璧だったし、俺の反応も遅れてはいない」


「じゃあ、何故!?」



 実のところ、漬物石を蹴りだすタイミングについてはピローにもフォローをしてもらっていた。

 岩を蹴るのは俺なので狙うために当然目視もしていたが、動く物体を狙うためにはテンポなども重要になるからだ。

 そういった狙撃手に必要な能力については、普段から森で生活し弓での狩りを得意とするダークエルフの方が俺なんかよりも圧倒的に優れている。

 だからこそピローに拍子を取ってもらったのだが――



「まさか、奴は加速した、のか……?」



 ピローにはわからなかったようだが、【超聴覚】を持つネイルは音でファティーグが何をやったのか気付いたようだ。



 今のファティーグは、厳密に言うとただ腹ばいに寝そべっているのではなく、尻と頭に多少の角度をつけて回転をしている。

 これは噴出孔の向きを調整するためだと思われるが、実のところ回転自体はガス噴出により維持されているワケではない。

 強いガス噴出は最初の加速時のみで、あとは炎の維持する程度の量だけガスを垂れ流している状態だ。

 理由は単純に粘液の滑りが良いため回転の勢いが衰えないからだが、それゆえに減速できないというのが一つのポイントであった。


 仮にファティーグがこちらの狙いに気付いたとしても、止まれないのであれば防御は困難と見込んだのである。

 腕で頭を庇われる可能性はあったが、回転中は回転を阻害しないため腕を後ろに組んで固定していたことと、もし防御が間に合っても腕ごと潰せるだけの威力は出せる見込み――だった。



「っ! そうか……、加速することで、当たるタイミングをずらしたのか……」


「まあ、そういうことだな」



 漬物石は当たらなかったワケではない。

 ファティーグの腰付近に深くめり込んでおり、まるで粘土のように陥没している。

 普通の人間であれば間違いなく致命傷ではあるのだが、残念ながら悪魔相手では内臓の損傷などにも期待できないだろう。


 頭に当たるハズだった漬物石が、何故あんな位置に当たったのか?

 その原因は、ファティーグが咄嗟の判断でガス噴射の勢いを増したことで、当たるタイミングがずれてしまったからである。

 奴はあの回転状態でこちらの攻撃方法を視認し、無理止まろうとはせず回転速度を増すことで、頭部に漬物石が直撃するのを避けたのだ。


 見た目が同じであるがゆえに、無意識下で自分と同じ物差しで考えてしまう――

 これは悪魔に限った話ではなく、全ての人族と亜人族にも言える偏見にも近い思い込みだ。

 種族によっては反射神経や五感を含む身体能力に大きな差があることも多いが、情報としては知っていても頭では「そんなことあるのか?」という疑問が無意識下にあるせいか信じ切れていないのである。


 あんな遠距離から会話が聞こえるワケがない、見えるワケがない、届くワケがない、間に合うワケがない……などなど。

 そういった自分の中の譲れない常識のようなものは、無意識であるがゆえに制御することが非常に難しい。

 特に戦闘中などの素早い判断が求められる状況では思考が簡略化されやすく、経験や訓練で身についた無意識レベルの動作や考えが表に出やすくなる。


 あれだけの回転速度なら三半規管がまともに機能しないだとか、視界もメチャクチャに違いないだとか、咄嗟に反応できるワケがないだとか――、どれも冷静に考えれば決めつけるに値しないただの予測(・・)に過ぎないというのに……

 状況的に仕方がないとはいえ、先程の反省が全く活かされていないことに自分自身腹が立ってしょうがない。


 ……まあ、戦闘中に思い付きで立てた作戦などやはり当てにならない――と、改めて教訓は得られた。

 もし生き残ることができたら、今後はそれを活かしたいものである。



「お、おい! まさか、今ので策が尽きたなんてことは……」


「尽きたワケじゃないが、すまん……。どうやら、今ので俺の身体は、限界みたいだ……」



 そう口にすると同時に緊張の糸が切れ、尻もちをついてから粘液の上に倒れこむ。

 それなりに強く背中を打ち付けたというのに、感覚が全くなくなっている。

 まるでそこに神経が通っていないかのように、自分の背中が全て空洞になったような違和感。

 手足は動くというのに、その違和感のせいで体を上手く動かすことができない。



「……ピロー、悪いが、アシュアさんをここに連れてきてくれないか?」


「っ!? い、嫌だ! 絶対に、絶対に嫌だ!」


「じゃあネイルでもいい。ファティーグはまだ満足に動くことができない。今しか機会は――」


「し、しかし! まだ策は尽きたワケじゃないのだろう!?」



 ……確かに、策は尽きたワケではない。

 先ほど咄嗟に立てた作戦とは異なり、事前に立てた策はまだ残っている。


 しかし、それは――――




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