第3話 ダークエルフの女の子を捕獲しました
さて、冗談はさておき色々と聞き出したいところだが、この状態じゃまともに話してくれるとは思えない。
かといって拘束を解くワケにもいかないし、これ以上触れようものなら舌でも噛み切りそうな雰囲気だ。
「あ~、一応言っておくが舌を噛むのはなしな。無駄だから」
舌を噛んだからといって、一瞬で死ねるワケではない。
死因は失血か窒息によるものなので、治療が早ければ助けることは可能だし、脳や心臓を破壊されるのとは違い下位の治癒術でも十分に対応可能だ。
「フン! そんなことをするくらいなら、噛み千切ってでも一矢報いてやるさ」
おいおい、どこを噛み千切る気だよ……
やめてよね? ヒュンってなるから……
「まあ、自害する気がないなら、口は拘束しないでおく」
「……大した自信だな。私が特技を狙っていたらどうするつもりだ?」
「そんなのあるなら、今頃とっくに使ってるだろ? そのチャンスは、いくらでもあったハズだ」
「…………」
恐らく先程放たれた矢は、確実に俺を殺すつもりで放たれたものだろう。
つまり、必殺のタイミングで頼ったのは特技ではなく、一番自信のある矢だったということだ。
この時点で、殺傷能力のある特技を所持している可能性はかなり薄れたと思っていい。
無論、距離制限がある可能性や言霊系の特技である可能性もあるが、それはについては一応警戒していたし、こうして触れられる距離に近付いても何もないのだから、このダークエルフが何か特技を秘匿していたとしても非殺傷タイプの特技である可能性が高い。
「だとしても、あまりにリスクを軽視し過ぎている。自らの命を狙ってきた者は、原則として問答無用で殺すべきだ。貴様、それでも冒険者か?」
「……耳が痛いな。確かに、若干自暴自棄気味になってたのは、正直否定できねぇわ」
こんな街、こっちから出て行ってやる! ……と飛び出してきたものの、段々と落ち着いてくるとギルド長や街の人々から言われた心無い言葉を思い出し、俺のメンタルは徐々に病んでいった。
わざわざ街道を離れこんな森を通っているのも、人の目を避けたかったがゆえである。
普通なら、ソロでこんな危険な森に入るなど自殺に等しい愚行だ。
「信じてくれなくてもいいが、俺は別に何か目的があってこの森に入ったワケじゃない。強いて言うなら、ここを通った方が近道だし、人の目にも触れないだろうと思っただけだ」
「……は? 近道? 貴様、何を言って――」
「だって、ここを通った方が港までは早いだろ?」
港町『ヴリス』は、この森をぐるっと迂回した先にある。
そのため、単純に距離だけを考慮すれば森を突っ切った方が近道となるのだ。
ただ、当然だが普通は整備された街道を通る方が楽だし安全なので、森を突っ切ったからといって近道になるとは限らない。
というか、この森は危険区域に指定されているのでそもそも誰も通らず、公式な記録は何も残っていないため普通なら近道にするという発想にすらならないだろう。
他人事のようだが、如何に俺の精神状態がヤバかったかよくわかるな……
「正気か? ここに住んでる我々ですら――あ」
「ほぅ、ここに住んでいると。それは初耳だなぁ」
この森にダークエルフの集落があるなんて情報は、国にも冒険者のあいだにも出回っていない。
恐らくこれはかなりの秘匿情報のハズだが、流れでついポロっと漏らしてしまったようだ。
わかる、わかるぞ~、普段喋り慣れてないと、言っちゃいけないと頭でわかっていても言っちゃうんだよな~
「っと、そんな絶望的な顔はしないでくれ。俺はこのことを誰にも言う気ないからさ」
「そ、そんなこと、信じられるワケ――」
「いやマジで。とりあえず俺が聞きたかったことも、今ので何となく察したしな。あ、でも生死に関わることを想像で判断しちゃダメか……」
重要な仕事や、人の命に関わるようなことは、絶対に想像でやるべきではないと思っている。
多分こうだと思ったから――と軽い判断で作業する者は、どの業界でも嫌われるのだ。
「俺が聞きたいのは、何故俺を狙ったかだ。それ以外は割とどうでもいい。だからアンタを殺す気もないし、エッチなことをするつもりもない。ここにダークエルフの集落があることを誰かに言う気もないし、もちろん襲撃する気もない」
「…………」
ダークエルフの女は俺の真意を推し量っているようだが、まあ普通に信用することはできないだろう。
もし俺が同じ立場でも絶対信用できないから、別に信用して欲しいとも思わない。
ただ――、
「さっきも言った通り信じてくれなくてもいいんだが、一つだけ頼みがある」
「頼み?」
「ああ。正直こんな話されても複雑だと思うし、面倒だと思うんだけど……、俺の身の上聞いてくれないか?」
「……はぁ?」
いやだって、愚痴る相手欲しかったんだもん!