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第22話 悪魔の殺し方を説明しました

 


 ――悪魔の弱点というか、唯一致命傷を与えられる部位が「頭」である。


 失血死もせず、窒息死もせず、心臓を貫いても死なない悪魔は、はっきり言って生命体であるかすら怪しい存在だ。

 しかし、どうやら存在の核となる部分が頭にあるらしく、頭さえ潰すことができれば活動を停止させることができる。

 ただ、戦闘中に頭を潰すことはそれなりに困難であるため、まずは首を切り落とすことが一番有効な悪魔攻略方法として確立された。


 悪魔の脳が動物と同じように機能しているかどうかはわからないが、少なくとも頭から身体を動かす信号が出ていることは間違いないようで、頭と胴体を切り離せば行動不能にすることができる。

 行動不能にさえすれば被害が広がることはないし、あとはゆっくりと頭の破壊方法を検討すればいい。

 残念ながら『呪い』については止めることはできないが、幸い悪魔に再生能力はないので遠距離からチマチマ削ることも可能だ。



「……動かなくなったぞ?」


「粘液は練ると空気などが混ざりネバネバになる性質がある。つまり藻掻(もが)けば藻掻くだけ、脱出は困難になるということだ」


「……改めて、タチの悪い能力だな」


「誉め言葉と受け取っておこう」



 相手の嫌がることをするのは、戦闘における基本中の基本である。

 1対1の戦いでも、迷いなく弱みを突いてくる相手ほど厄介だし、卑怯な真似を多用してくる相手ほど面倒だ。

 それを小賢しいだとか、正々堂々と戦えと吠える者もいるが、実戦においてはただの戯言である。

 指揮する者であっても、直接戦う者であっても、大抵の場合性格が悪い方が優秀というのが現実だ。

 ……だから性質(タチ)が悪いと言われるのも、絶対に間違いなく完璧なほどに誉め言葉だと思って間違いない!



「それで、コレ(・・)は何に使うんだ?」


「ファティーグの頭を潰すために使う」


「頭を……? この鍋でか……?」


「そうだ」



 ピローに用意してもらったのは、料理に使う普通の鍋である。

 人族の一般的な家庭であればどこにでもありそうな両手鍋だが、人口も少なく、現状では子どものいる家庭も存在しないこの里では希少な調理器具なのだそうだ。

 有事の際に炊き出しなどで使うものらしく、かなりサイズが大きい。

 確認のため、少し持ち上げてみる。



「ぐっ……、重っ! よくこれを一人で運んでこれたな……」



 体感なので正確な数値はわらないが、恐らくこの鍋だけでも10KG近いのではないだろうか。



「私は普段から水汲みなどもしているからな。慣れている」



 男でもコレを一人でここまで運んでくるのは厳しいと思われるが、ピローはこれに加えて投石用の石まで運んできている。

 慣れで済むレベルではないと思うが……



「……まあ、これもお前の施術による恩恵だ。普通なら、休み休みでなければ絶対に無理だ」



 確かにその通りだとは思うが、それにしたってかなり鍛えてないとできない芸当であることは間違いない。

 やはり、自然の中で生きている種族は頼もしい限りである。



「ピローが若くて健康だったからこその恩恵だよ。じゃなきゃ、この作戦は成り立たなかった」



 実際、この里には俺の施術の恩恵を最大限活かせる者は、ピローとネイルしかいなかった。

 二人がいなければ、戦いはより厳しいものになっていただろう。



「それを言うなら、お前がいなければそもそも戦い自体が成立しなかったぞ」


「でも、その俺を里に連れてきたのは、ピローの判断だろう?」


「……結果的にそうなっただけだ」



 結果的(・・・)――、まあそう言えなくもないが、その結果はピローの行動あってのものである。



 ……恐らくピローは、僅かな可能性に賭けて森の外に助けを求めるつもりだったのだろう。

 しかし、もしエルフに目撃されれば、最悪の場合悪魔に殺されるよりも酷い扱いを受ける可能性すらある。

 それでなくとも、今までずっと引きこもりのような生活をしていたのだから、森の外に出るのは相当な勇気と覚悟が必要だったハズだ。


 確かに俺と出会ったのは偶然だし、俺がファティーグに対抗し得るすべを持っていたのも偶然だが、その偶然を引き寄せたのはピローなのである。

 結果的だろうがなんだろうが、この戦闘における立役者は間違いなくピローだ。



(……まあ、実力を測るために殺そうとするのはやり過ぎだと思うが)


「ん? なんだ?」


「なんでもない。ネイル! 動ける者を集めてくれ!」



 心で漏らした不満を【意思疎通】で拾われてしまったようだが、わざわざ説明する気はない。

 それよりも、動ける者がいるうちにさっさと作戦を最終段階に進める。



「ジェル、動けるのは俺を含めても三人だけのようだ」


「十分だ。ちなみに、この中に水とか土を生成できる人いますか?」


「わ、私が、【水生成】の特技(スキル)を――」


「素晴らしい。遠隔生成は?」


「それは、すまないが……」


「わかりました。であれば鍋持ち役はアナタにお願いします」


「ちょ、ちょっと待て! 頭を潰すと言っていたが、まさか――」


「ああ、たっぷり水の入った鍋で、圧し潰す」



 普通に生きていくうえでは絶対に必要ない知識だが、人族の頭は大体1000KGの重さで圧し潰すことが可能だ。

 このKGという単位はこの世界で使われる一般的な重さの単位だが、あの鍋100個分重さだと思うととんでもない重量に思える。

 そして、それだけの負荷を分散させることなく頭だけに与えることは、戦闘中だと非常に困難だ。

 だからこそ、普通は頭を切り落としたうえで、馬車や牛車(ぎっしゃ)などで踏みつぶすのが、悪魔を殺す基本方法とされたのである。


 しかし、この里には現状ファティーグの頭を切り落とす手段はなく、残念ながら馬車も牛車も存在しなかった。

 だからこそ、直接ファティーグを拘束し、別の手段(・・・・)で頭を潰す必要があったのだ。



「ファティーグの『呪い』は疲労により生物や物質には干渉できるが、重さには干渉できない。つまり、圧倒的な質量をそのままぶつけることができればいいってワケだ」



 とは言っても、疲労の影響を受けずにそれだけの質量をぶつけることは難しい。

 そこで着目したのが、この純銅製(・・・)の鍋である。



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― 新着の感想 ―
やはり圧倒的な質量……!! 圧倒的な質量は全てを解決する……!!
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