表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

第2話 森で休憩してたら襲われました



 この世界の生物は、種族を問わず必ず何らかの特技(スキル)が発現すると言われている。

 発現のタイミングには個体差があり、生まれてすぐに発現する個体もいれば、老後になってから発現する個体もいたりと条件は様々だ。

 ただ、一応種族ごとにある程度の平均値のようなものがあり、人間の場合は多くの場合10歳前後で発現することがわかっている。


 特技の種類は千差万別だが、完全なランダムというワケではなく、種族の特徴が色濃く反映されたり、人族であれば遺伝や趣味嗜好が影響する傾向にあるようだ。

 全く脈絡なく怪しげな特技が発現する場合もあるので確実に狙うことはできないが、血統や教育によりある程度は絞り込むことができるため、貴族なんかは有用なスキルを所持していることが多い。


 俺はガキの頃から親父に整体の技術を教え込まれていたこともあり、遺伝的な意味でも教育的な意味でも順当な特技が発現することになった。

 それがこの、【粘液生成】である。



「グギッ……、グギギギギ……」



 俺の足元には、粘液まみれでネトネトになったゴブリン共が転がっている。

 どうやら休憩中の俺に奇襲をかけるつもりだったようだが、(あらかじ)め周囲に展開していた粘液罠にハマってしまったらしい。



「……自分で言うのもアレだが、大分酷い絵面だな」



 ゴブリンはサイズこそ人間の子ども程度しかないが、その顔はかなり醜悪なオッサン顔をしている。

 つまり今俺の周囲には、緑色のキモ顔のオッサンが粘液まみれで(うごめ)いているような状態であり、端的に言って非常に気持ち悪い。

 昔は無心でこうやって荒稼ぎしていたのだが、何故今はこんなにも嫌悪感を感じるのか……



「ん~、なんか近い感覚があった気がするんだが…………、あっ! わかった! 昔は平気で虫を触れたのに、大人になると無理になるアレに近いのかも!? ――っと」



 自分の中でイイ感じの答えが出た瞬間、狙いすましたかのように矢が飛んでくる。

 恐らくは息を潜めて俺を狙っていたのだろうが、気配を殺す技術といい、矢を放つタイミングといい、ゴブリンの仕業とは思えない。

 矢は俺が避ける間もなく俺の頭に到達し――、次の瞬間あらぬ方向に飛んで行った。



「っ!?」


「ん、そこか」



 矢の飛んできた方向、そしてそれが俺に突き刺さらなかったことによる動揺から発した気配から、射手の位置を特定する。

 射手は動揺しつつも危険を感じたのか、追撃はせず瞬時に撤退行動に移る。

 判断も速いし、足も速い――が、逃がすつもりはない。



「なっ!? 馬鹿な!?」



 純粋な速度で追い抜き、目の前に立ちはだかった俺に心底驚いたのか、射手は初めて言葉を発した。

 その声は意外なことに高く、今度は俺の方が驚かされた。



「もしかして、女か?」


「チィッ! 死ねぇ!」



 女(?)は声を出してしまった不覚を恥じてか舌打ちをしつつも、裂帛(れっぱく)の気合を込めて矢を放つ。

 その威力は先ほどの矢を遥かにしのぐものだったが、残念ながら俺には通用しない。



「そ、そんな……!?」



 本気で放った矢が先程と同様に突き刺さらず逸れていったことに、女(?)の手は今度こそ完全に止まってしまった。

 その隙を突き、俺は女(?)の手足に粘液を当て動きを封じる。



「また逃げられても面倒だし、一応拘束させてもらうぞ」



 女(?)は一応抵抗したが、先ほどのゴブリン共の有様を見たからか、すぐに脱力し抵抗をやめた。



「……これが、お前の特技(スキル)か?」


「そうだ。鑑定結果によると、【粘液生成】というらしい」



 特技の名称は、人物鑑定の特技により初めて本人も知ることとなる。

 整体をやっていた頃は特技名など別に知る必要もなかったため、俺も親父も【化粧水生成】とか【オイル生成】だと思っていたのだが、冒険者登録する際に人物鑑定したところ、正式名称が【粘液生成】であることが判明した。

 一体どんな基準で命名が行われているかはわからないが、そのせいで俺は誰からも気持ち悪がられる結果となったので、鑑定士の印象が非常に悪い。



「ね、粘液……? い、いや、それは理解できるが……、さっきの速度はどうやって――」


「アレは単純に、滑って追いついただけだ」


「す、滑って!?」



 女(?)はかなり驚いたようだが、実際のところはそんなに難しい話ではない。

 俺の【粘液生成】は、その粘度を任意に変えることができる。

 それを利用し、表面を滑るように移動しただけの話だ。

 もちろん練習は必要だが、慣れればどんな場所でも自由自在に滑れるようになるため、非常に有用な技術である。

 ……まあ、立つ鳥跡を濁しまくるため、街中では使用禁止だったが。



「さて、今度は俺が質問させてもらうぞ? お前は、何者だ?」


「…………」


「だんまり、ね。いいよ別に、勝手に調べるし」



 そう宣言して、俺は真っ先に女(?)の顔を覆う装束を取り払う。

 いやだって、気になるし?



「おお~、もしやとは思ったけど、やっぱりダークエルフか~」



 森で弓を使う種族となると、真っ先に思い浮かぶのがエルフだ。

 しかし、普通のエルフがゴブリンを使役するなど考えられないので、もしかしてダークエルフかも? くらいには予想していた。



「クッ……、殺せ……」


「嫌で~す」



 いや、そんなこと言われたら、むしろ絶対生かしたくなるでしょ!

 ぐへへ……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 そーか、「生成」はするけど消せないんだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ