おまけ3 お好み焼きパーティ+野球拳罰ゲーム
Q.お好み焼きパーティで野球拳をするとどうなるか。
A.コスプレ罰ゲームをさせられる。
「野球拳で負けた人は、コスプレねー!!」と苺果が言い始めたのが始まりだった。
「はーい」とサカナお姉さん。
「負けなくてもコスプレがしたい」と夜永。
十八時。
ここは透夜と苺果の家である。透夜も含め、四人はテーブルを囲んでいた。テーブルの上にはサンリオのくじで当たったピンクのホットプレート。お好み焼きがじゅうじゅうと音をたてて、焼けている。
今日は苺果はもこもこの着ぐるみで、サカナお姉さんは大人っぽいセーター、夜永はシックなワンピースである。
いつものメンバーに夜永が加わっているのは、夜永が長期休みに帰省し、サカナお姉さんのところに遊びに来たので、ついでに会うことになったのだった。
「じゃあみんなでじゃんけんねー」
「大人数じゃんけんは野球拳ではない」
と、透夜はツッコんだものの、止める気はとくになかった。
みんなが拳を振り上げるなかで、透夜だけお好み焼きの焼き加減をヘラで突いて確認していたところ――みんなの視線が集中して、透夜は顔をあげた。
「え?」
「透夜も」
「え?」
え?――と口にすることで免れることはできなかった。みんなじっと透夜を見つめるので、負けた。
透夜も渋々片手をあげる――そして負けた。
負けるまで一分くらいしかかからなかった。
「どれを透夜に着せようかな!」
楽しそうな声を出し、苺果はコスプレ服を選んだ。
フリフリの中華ロリータ、チャイナ服、キョンシー、裸に巻き付けるのであろうリボン(!)、ナース、制服などなど……たくさんある。
透夜は身長160cm、体重55kg。このときばかりは女性服を着こなせてしまう自分の体形が憎かった。
リボンを取り出す苺果に、透夜は「ハムになるのは嫌だ」と断った。
「メイドさんなんてどう?」と、苺果。
「セーラー服もあり」と、サカナお姉さん。
「ねこみみメイドがいい」と、夜永。
「じゃあ多数決でメイドさんね」
「屈辱的だ……」
「負けを認めて、はやく着替えてきてくださ~い」
と苺果に言われたものの、透夜はすぐに着替えることはしなかった。
酒の缶を開けているので、みんながべろんべろんになるまで待つ。それが透夜の戦略的作戦だった。
……だが。
「着ーてー来ーてー!」
苺果に衣装を押し付けられて、自室の扉まで押され、透夜は着ざるを得ない状況になってしまった。
というわけで、嫌々着た。
白い猫耳のメイドである。スカートはひざ丈で、生足が見えないように長くて黒いソックスも貸してもらった。
「わあああああああかわいいいいいいいいいい!!!!!」
「写真!!!!!写真撮れ!!!!!罰ゲームだ!!!!!」
「ウケる」
という声に出迎えられた。
「辱めを受けている気分だ……」
透夜はスカート部分を引っ張った。下にパニエを履いているのでスースーはしない。女の子ってスカート膨らませるためだけにこういうものを履かなくちゃいけなくて大変だなと思いました、まる。
そこからサカナお姉さんに写真撮影をねだられて、拒否しているうちに、話題は転がって意図せず結婚式の話になる。
「それにしても同棲なんて、おめでたいね。ついにここまで来たかあって感じ。結婚式にはもちろん呼んでくれるんだよね? ご祝儀いっぱい包んじゃうぞ」
「うんうん、夜永も気になってた。結婚式、呼んでほしい。ブーケトスは目玉だよ。目玉」
「まあ、まだ結婚式は挙げるか未定ではありますが……。まだ叔父さん叔母さんのところにも挨拶してないし……。とりあえず来年、籍は入れる予定ですけどね」
「絶対挙げようよ。ウエディングドレスは一生に一度しか着れないとされている、女の子の夢だよ。ね、苺果」
サカナお姉さんは苺果に話題を振る。
苺果は神妙な顔でうなづいた。
「白いドレスは無垢の象徴で苺果には似合わないけど、大義名分をもって苺果がこれを着れるのは一回しかない。特別な日を味わってみたいって気持ちはある。フォトウエディングでもいいけど。フォトウエディングだと十万くらいで済むみたいだし」
「まあ……安く済ませようなんて特に思ってないよ。少人数の結婚式なら金額もたいしたものじゃないだろうし」
「その格好でまじめな話してるのウケる」
「あなたたちがさせたんだろう」
ドライな声音で透夜は文句を言った。
とはいえ、ウエディングドレス。なかなか値は張るというが、苺果に着せてみたい気持ちはある。ドレスも、指輪も、苺果に贈れるのは透夜だけだから。
時間は二十二時を指していた。
「そろそろお邪魔するねー。愛の巣に泊まるわけにはいかないし」
「じゃあまた。結婚式、期待してるから」
少し赤らんだ顔のサカナお姉さんと、飲酒しているのに素面にしか見えない真っ白な顔の夜永が出ていく。サカナお姉さんに勝手に腕を組まれて、夜永は若干迷惑そうにしていた。
「今日は来てくれてありがとう、またね!」
苺果と透夜は手を振って見送る。
二人がいなくなったあとの部屋に戻ると、急に静かになった気がして、物寂しさが漂った。
後片付けをする前に、苺果は急にipadを持ってきて、「月のワルツ」を流しはじめた。
透夜の手をとり、不思議なワルツの旋律に合わせて、踊り始める。透夜は苺果にされるがまま、雰囲気で踊った。
二人とも踊り方の作法なんて知らない。ぐだぐだなダンスだ。
「踊りたい気分だから」
苺果がそういって笑う。
「結婚の話だけど、苺果はどうなっても、どこまでも、ついていくから安心してね」
「……うん」
笑みを浮かべようとして失敗したみたいな顔になる透夜である。
透夜はまだメイド服だし、苺果はもこもこの着ぐるみで、なかなかにカオスな状況だった。
でもこのカオスさが、透夜は居心地よく、安心した。
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これよりおまけ話の更新は不定期となります。
ここまで連載を追いかけて、感想や評価をくれた方々に深い感謝を伝えたいです。
ここまで読んでくれた方々、ありがとうございました。
あとがき(設定の裏話など)カクヨム近況報告→
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