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おまけ2 透夜の誕生日&VTuberデビュー

 八月三十一日が透夜の誕生日だ。


「今年はびっくりするようなプレゼントを贈るからね」


 と、苺果には宣言されていたが、びっくりするようなプレゼントとはなんだろうか。あまり動じない自信があるが。


 ……などと考えていた透夜ではあるが、実はちょっと浮かれていた。


 というのも、両親が亡くなってから誕生日を祝ってもらった記憶がほとんどないためだ。


 小学生のときは両親が生きていたので、盛大に祝ってもらった。


 中学時代、親戚の家を転々としていたときは、お邪魔虫扱いされることが多く、自分自身すら誕生日というのを意識できなかった。


 高校時代、夜永の家にお世話になっていたときは、皆忙しいので祝うという余裕がなく、一切れ買ってきたケーキがその誕生日の主の夕食に出されるだけだった。

 これは夜永もだったので、不平等な扱いがされていたわけではない。


 誕生日をちゃんと祝うという宣言自体がうれしい。


 毎日、スマホ画面で日付を確認し、誕生日まで指折り数えた。


 ――そして八月三十一日。


「起きっろーーーーー!!!!!」


 部屋に無断侵入してきた苺果に布団の上から抱きしめられて、起きた。


 ぎゅうぎゅうきつく締められて、苦しい。


「今日はプレゼントを贈るゾ! ちなみにサカナちゃんと共同名義で。作ったのはサカナちゃんだから、サカナちゃんにもお礼のメッセ送っておいてクレメンス」


「なにその喋り方」


「サカナちゃんの最近の流行り」


 苺果に変なもの教えないでほしい。


 とはいえお礼メッセージは送った。


 透夜:プレゼントありがとうございます。まだ見てないんですけどね


 サカナ:受け取ってもらえたらうれしいけど、うん……


 秒で返事がきた。


 微妙な返事に首をかしげていると、


「こっち来てーこれ見てー」


 と部屋に招かれた。

 苺果のものが溢れる部屋に行くと、PCの前に座らされて、見せられたのが、Live2Dで動くVTuberの身体だった。


 長髪黒髪赤目、片目が髪で隠れた美少女――である。


「なにこれ」


 嫌な予感はもうMAXだった。


「透夜にVTuberの身体をプレゼントします!」


「えええええ……」


「うれしくない?」


「嬉しいというよりはびっくりしてるのが大きいかな」


「ふふん、驚かせるのに成功した!」


 苺果と暮らすようになって勉強したのだが、VTuberのLive2Dで動く身体は安くても十五万くらいから、追及すればするほど何十万もかかる。高価なものなのだ。


 誕生日プレゼントとして、これをもらうのは、たしかに予想外だった。


「透夜のチャンネルを勝手に作って、苺果のXで宣伝しておきました! 準備万端です!」


 見せられたスマホには、このモデルの美少女の顔がアイコンになっているチャンネルが映っていた。ハンドルネームは「ヨル」。


 苺果のXを監視していないので、いつから用意していたのかわからないが、登録者がすでに千人いて恐怖だ。


「僕は配信者にはならないよ」


「うん、いいよ、でも気が向いたら、この身体で苺果と絡もう! 彼氏だって公言しよう! 人前でいちゃいちゃしよう!」


「狂ってる……! 配信の空気が死ぬぞ!」


 ツッコミ属性ではないのに、つっこんでしまった。


「いや、もう苺果の配信にはユニコーンはいないからさ。バイコーンしかおらん」


「ユニコーン……? バイコーン……?」


「VTuberの処女厨がユニコーンって言われてて、バイコーンっていうのはユニコーンの反対で処女は乗ることができない不純の生き物なんだよ」


「リスナーを不純扱いしていいのか……?」


 癖が強いんじゃ。


「あとで透夜のパソコンでいじれるように設定してあげるね。オフコラボしようぜ」


「付き合ってることとか伏せるなら、まあ……雑談配信くらいなら……」


 言いながら透夜は、困惑していた。


 一般男性なので配信経験はない。なにを話せというのだろう。というかモデルも女の子だし。こういうのをバ美肉――バーチャル美少女受肉というのだっけか。


「とりあえず先にケーキ食べよっか。オードブルも用意したからね」


「ありがとう」


「誕生日おめでとう、透夜。二十三歳になったんだね」


 なんでもないふうを装って、透夜はケーキとチキンやポテト、エビチリのオードブルをいただいた。ケーキは予約して買ってきたもので、オードブルは苺果の手作りだ。


 料理はかなり嬉しかった。


「美味しかった」


「良かったーじゃあ配信いきますか!」


「気が乗らないけど……まあ、せっかくもらったものだし、一回くらいは」


 苺果が透夜のパソコンで設定し、ひとまず、動くようになった。配信に必要なソフトや、ディスコードなども入れて、けっこう時間がかかってしまった。


 二十時、配信が始まる。


 なぜかディスコでサカナお姉さんと繋がり、三人で配信を始めることになった。


 苺果とサカナお姉さんは声だけの出演。この三人のなかでVTuberとして身体が動くのは透夜だけだ。


「こんみる~」と苺果がマイクに向かって挨拶すると、コメントが【こんみる~】で染まった。やはりほとんどが苺果のファンらしい。


「バイコーンのみなさん、こんばんは。今日は男性とコラボです。察してください」


「いや、ボクもいるけどね! 二人っきりじゃないから! 勘違いしないでクレメンス!」


「ええっと、今日はこの正体不明の新人VTuber『ヨル君』とコラボです」


【ガチ恋勢涙目】

【カップルチャンネルと聞いて】

【まあコラボはなんでも楽しい】

【ナチュラルにバイコーン呼びは草】


 コメント欄は比較的ゆっくり流れていく。


「今日はどきどきクイズをやろうと思います。ヨル君といちごみるるちゃんはいろいろと思い出があるはずなので、二人の思い出が一致するかどうか試します! あとヨル君といちごみるるちゃんと、終わったらボクといちごみるるちゃんとやります。ボクは基本、司会です!」


 と、サカナお姉さん。 


 透夜が画面に見えるところに文字を打って、いちごみるるちゃんと答え合わせをするゲームシステムらしい。


「じゃあ、いきます。一問目! 思い出に残っている場所は?」


 隣の苺果を見ると、なにやら腕組みをして満足げだ。

 透夜は少し考えて――


「仙台の海を見ながら散歩した場所」と書いた。


 苺果の実家に言った際に、話しながら散歩したのだった。なんだか記憶に残っている。


「デデデー、はい、時間! いちごみるるちゃんからどうぞ!」


「えーっと、思い出の場所はね! 田端の駅かな! ヨル君が帰りに田端まで送ってくれてね。思い出に残ってる」


「おおっと、ヨル君の答えは――仙台の海を見ながら散歩した場所! 外れちゃったけど、この場所の思い出について聞こうかな!」


「それはいちごみるるちゃんだけ知っていればいいのでノーコメントで」


 端的に透夜が答える。


「なんかある意味熱い……! 熱の壁を感じる! では第二問、いちごみるるちゃんの好きな食べ物は?」


 考えるまでもない。透夜は「中華料理」と書いた。


「デデデー、はい。いちごみるるちゃん、答えをどうぞ」


「チョコレートマシュマロ!」


「ででん、これも外れ!」


「いちごみるるちゃんは中華料理が得意なので、錯覚してました」


 認めなければならない。あやまちを。


「では、第三問! これで最後! いちごみるるちゃんが好きなヨル君の特徴!」


「難しい質問ですね……」


 さすがに透夜は悩んだ。

 全問外れというのは悲しい。


 でもこれしか思いつかなかった。


「ありのまま受け入れているところ」と書いた――これに賭ける。


「デデデー、ここまで正解はないぞ! 解答一致となるか!? では、いちごみるるちゃん、解答をどうぞ!」


「えっとですねえ、そのぉ、いちごみるるの全部を否定しないで、受け止めてくれるところが好きです! お、解答あってる?」


「たぶん合ってる! おめでとう!!」


 苺果とサカナお姉さんは拍手する。


【両想いてえてえ!】

【やっぱりカップルやんけえ! 爆発しろ!】

【お幸せに~】

【カップルチャンネルを立ち上げてくれてもいいんだよ?】


 などと騒ぐコメント欄。


 おめでとうなのかはわからなかったが、とりあえず合っていて良かった――というところである。


 そんな感じで初配信は幕を閉じた。時計の針は二十二時を指していた。


 意外と楽しかった。


 VTuberの身体はあっても、トラッキングに浸かっているのが精度の悪いWebカメラだったせいで、あまり動かない上に判開きの目だった。そういった改善点は見受けられるが、そこまで追求したいとは透夜は思わない。あくまで苺果とのコミュニケーションツールだ。


 ちゃんと配信を終わらせたのを確認して、苺果はうきうきと弾んだ声を出した。


「『いちごみるるちゃんだけ知っていればいいのでノーコメントで』ってカッコよくない!? どこで覚えてきたの!?」


「本心だよ」


「うえーん、カッコいい!!」


 苺果は透夜に抱き着いた。


「なんかこういうの楽しいね。解答が外れちゃってても、お互いのことが知れるし、悪くない……と思う」


 透夜はどきまぎとした気持ちを抱えたまま、言った。

 配信は緊張したけれど、サカナお姉さんのリードもあり、苺果もいつも通りで、受け答えに苦慮することはなかった。


「そう言ってくれて、ありがとう! 企画した甲斐があったよ! また遊ぼうね!」

 

「うん」


 透夜は苺果の言葉に、うなづいた。


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