待ってろ
(どうして…どうして来たの…!)
激情の奔流は時に人の意識を失わせる。
そのまま玲は気を失った。
(良かったよ。糞みたいなシーンを見られなくてすんだ)
…たかだか15才同士による、後のない殺し合いだった。
どこか適当なところで止めることなど微塵も考えない、理由はどうあれ狂った者たちの死がゴールの遊びだった。もしかしたら玲はきっかけに過ぎないのかもしれない。
やがて鉄パイプで頭を殴られ日向は気絶した。
「血ぃ吹いてやがる」
自負の頭から流れる血が最後の記憶。
日向が意識を取り戻したのはそれから一日後。
傍らに付き添っていた玲は泣いた。
やがて落ち着いた玲から聞いた。
二人が匿名の連絡で救急車で病院に運ばれたこと。
事件性も尋ねられずに現段階までいること。
糞の三人のうち二人が大量の麻薬を摂取した状態で川からあげられたこと。
残りの一人が行方不明であること。
(親父か…!くそったれ)
玲は家族に連れられ自宅に戻っていった。
日向もまたまだ三年目の家族に看護され、やがて退院。クラスに顔も出さず、遠い地域の学校の寮に向かった。
玲もまた近県の水泳名門校へと進学した。
不思議と日向も玲も、互いに連絡をとろうとは思わなかった。
遊佐は打撃を期待されて入部した。
日向は…依田日向は打撃と速球を期待されて入部した。
そして肘を怪我していた。あの時の傷。記憶にはない。あるのは頭の方、だけだ。
10km以上スピードが落ちた。それでも投げた。変化球があったからだ。高校野球ならある程度は通用する、そう監督は判断した。
夏の大会から二人はレギュラーになれた。名門校の入部者でも図抜けた素質は明らかだった。
夏の予選初戦の前日、玲から短信が届いた。
「応援に行く」と。
日向は返さなかった。
初戦の日向の初打席。スタンドまでボールは放物線を描いた。
そして年に数回玲から短信が届く度に、快投をし、時にホームランも打った。
日向は一度も返したことはなかったが。
三年の夏、甲子園の優勝の後、北玲は舌禍事件をおこす。
その後、アメリカ留学が報じられ旅立つ日の朝。
初めて日向は玲に連絡した。間に合うかどうかを運に任せて。
「待ってろ」
ただ一言のみ。
ところで彼の3人の先輩たちも、実は根こそぎこの世から消えていた。いつの間にか巧妙に彼らは姿を消していた。
無論そのことを不思議がる者は誰もいなかった。
日向の傷跡は今も髪に隠れている。
次が100話目です。拙い本作をお読みいただきありがとうございます。




