何の問題もない
今話と次話は過激な表現を使っています。ご注意ください。
些細なできごとが男たちにはムカついた。
気に入らないやつを泣かす、それが嗜虐的であると男たちを興奮させた。誰も止めなければ、エスカレートするばかり。
先日大柄な気に入らない女に蝉を食わせた。
同級生でやたら水泳が早いことが取り柄の、気の強い女だった。
女は泣いた。
だから所詮押さえつけて暴力さえちらつかせれば、そのことが俺たちは中学でなら無敵だと、錯覚をおこさせた。
その日兄貴分のチンピラにさんざんどやしつけられて、不相応な金額を要求された3人は町をうろついていた。ずいぶん荒れた心で。
こんな気分で夜を明かすのはごめんだった。
だから犯す女を探そう。
俺たちがやっちまった後で先輩にもやらせるか、やばくなりそうなら殺せばいい。先輩たちもさんざん遊びつくした女をコンクリートに詰めて沈めたと、又聞きで聞いたことがある。
一人くらいやっちまっても少年法が守ってくれると高をくくった。
幸い獲物はすぐに見つかった。
あの蝉の女。俺たちビッグになる男にふさわしい最初の獲物だ。
だから…攫った。
どんなに運動神経が良くても、男3人に敵うはずもなく、北玲は夜の町の廃墟に連れ込まれた。
泣く暇も、助けを求める声を出す時間すらないまま、玲は観念した。
(もう少し生きたかった)
浮かぶのは、同級生の顔。悪い噂が絶えないが、浮きがちな玲を仲間に引っ張りこんでは、自分を悪者にしてみんなと同じ笑顔にさせてくれる彼。
(依田くん…!)
「けっ!あんな優男より俺たちのが優しくしてやるぜ」
「明日の朝には俺たちのがほしくて堪らなくしてやるよ」
押さえつけていた6本の腕が、玲の体を這おうとした時…。
「呼んだか?北」
いつものごとく夜に徘徊していた依田日向が、最近学校で見かけない同類(つるむことを嫌っていた日向はいつも一人だった)たちの話を偶然聞き合わせたのは、必然だったのかもしれない。
当初は無視するつもりでいた。既に野球名門校へ推薦が決まっており、下手をうつつもりはない。ただ荒れ狂う心のまま自宅にいるのは、今の家族に申し訳なかった。最低限ながら、それが彼の自負だった。
彼女に求められた。
誰でも良かったわけではない。
真摯にスポーツに向き合う北玲に憧れたからだ。
ならばそれ以上の理由などいらない。
「おー。ヒーロー気取りか?依田」
「会っても俺たちに挨拶もできないようなビビりのくせに」
いやらしい笑い声。
「そんなんだから親に捨てられるんだろ」
笑い声がまた重なった。
(殺してもいい、何の問題もない)
どこか狂っていた日向は、妹の美也子に謝りながら駆け出していた。




