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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第6章:輝ける闇

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頑張ってみるさ

 他方、遊佐家控え室。

 ごろんと長髪の男が寝転んでいた。

「あーつまんね。アキラのやつ、義弟の結納ならそう言えよ。部外者が料亭でなにしてりゃいいんだよ」

 確認もせずにくっついて来た俺が悪いのか…


(あれ?奥さんが俺を連れてこいって言ってたような)

(さっき挨拶した時も何も言ってなかったしな)

 すぐに終わるってことみたいだから、待ってみましょうとテレビのリモコンを手にする。


 同時に部屋をノックする音が聞こえた。

「んー?開いてますよー」

 寝そべりながら答えたが、一応結納の控え室だと思い直し、果たして誰だろうかと扉を引く。


「すみません、本日早名千種さんの関係でこちらの控え室に来るように承った北玲と申しますが…」

「あーみんな出払ってて……っ…玲か?」

 北玲は固まった。

「何固まってんだよ、久しぶりだな」

「………?おい、玲?」

「………バカ」

「え?え?」

「…どこにいたのよ、あなた!」

 玲は涙を拭おうともせず、日向に抱きついた。

「ずっと待ってるのに…」

「あー…っとそんな約束したっけ?」

 信じられないと言う顔で、玲は日向から離れた。


「お互い大人になったんだ。今すべきことは?」

「近況報告」

「他にもある気がするけど問題ないな」

「変わらないね、あなた」

 玲はため息を吐き、二人で部屋に入った。


「どこにいたかって言われれば、まあ、その…なんだ」

 玲は所属球団の名をあげる。

「知ってるじゃん。いつ帰ってきた?」

「今年の春だけど…」

「それまでは?」

「ちょっとアフリカとアラスカに」

「…なあ、どうしたら俺がアフリカやらアラスカやらに探しに行くと思う?」

「アメリカにもいたかな」

「旅行してた、とか言わないよな?」

「私ジャーニーマンだから」

「居場所がないってか」

 ふーっと息を吐くと、日向は

「綺麗になったな」

「化粧を覚えたの」

「ああ、中学や高校のおまえよりずっと綺麗だ」

「泳いだらメイクなんてめんどくさいだけ」

「今なにしてる?」

「ここで先生になれたらいいなって」

「おまえは先生にむいてるって言ったよな」

「昔のこと、でしょ?」

「水泳は?」

「復帰するつもり」

「そうか」

 日向は上を向き考える。


「約束覚えてるか?」

「忘れたことないよ。さっきまで覚えていた」

「じゃ問題ないな」

 指を数えながら

「一緒になる。現役復帰を妨げない。シンプルに二つだ。つけ足すなら、結婚の決め手を質問されたら旦那がかっこいいからだって答えること。簡単なことだろ?」

「それなら最後のだけ、私も一つ。結婚の理由は相手に惚れたからって答えて」

「マジ?」

「全力で」

「じゃあ明日ヒーローインタビューあれば発表だ」

「もう?」

「7年だ。遅いか?ダメって言うなよ?」

「ヒーローになれたらね」

「頑張ってみるさ。今だって、高校の時だって活躍したのはいつだ?」

「あなたがニュースになるたびに生きようって思った」

「理解のある妻で嬉しいよ」

「あなたのためにメダルがほしくなったから復帰したって言う。私だって頑張れるもの」

「誰かへの皮肉じゃないよな?」

「…ううん、ほんとだから」

 それきり黙り込み、玲は日向の長髪に隠れる傷跡を優しい手つきで正確になぞった。


 阻むものはない。静かに二人の時計が再び動き出した。



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