千種とともに
わずかな時間で姉の意図を推察する。
照れくさいようで、守られなければならなかった自分の弱さに恥ずかしくなる。
だが、俺はそれで生きなければと思う。
彼女ー千種ーと一緒に。
立ち位置を決めた。美也子を守る。
⋯千種とともに。
「先輩は知らずにあげたんでしょう?」
我に返る、美也子から放たれた一言。
「田舎の風習としてなら知らなかった」
「なら…」
「大切にしたいと思った。千種が可愛いと思ったからな」
「優柔不断の先輩がぁ?」
千種ですら「あたしとは別格」と評した美貌の美也子に皮肉で煽られると心が痛いな。迫力が違う。よくまあ表情も変えずに千種は渡り合えるものだよ。かなわないなあ。あの姉とすら互角だもんな。
美也子を守る決意が早くも揺らぎそうになる。
「何か決めたの?幸平」
おう。そんな千種の言葉に励まされる。強くあらねば。
「美也子。俺は兄さんの代わりじゃない」
姉流に、千種流に核心から入る。
「………」
ごめんな、美也子。答えられる訳ないよな。同意なしに他家に養子として出された六条家長男の兄の幻影を、俺を求めるのはおまえのせいでは決してないはずだ。肉親の情を求めるなんて世間では可愛らしい情感のうちだ。
「だから頼れ。六条だろうが俺が近くにいて守る。ただ千種がいないと俺がダメだ」
「…なんか先輩弱くなりました?」
「やっぱり俺じゃ説得力ないかな」
「…たかだか半年でこんな程度の顔の女に騙されるなんて、ほんとバカですね」
「もうちょっと穏やかな言い方あるだろ」
「たぶん…先輩が選ぶなら…本物の女性なんでしょ?」
さあて、どうなんだと千種を見ると。
「また増えるの?愛人候補」
「またって、高校でもモテてるんですか?婚約者がいても?」
「中学でもまさか?」
「情報の共有が必要ですね、姉さん」
「そうね」
どうやら妹分に収まることにしたらしい。もともと虫除けに俺の近くにいたフシがあるからな。割り切りが早いと言うか、器が大きいと言うべきか。
それにしても千種が群れのリーダーみたいに見えるのは暑い夏の幻影だろうか。
ちなみに六条から改姓した兄とは、六条日向。現在は依田日向さんだ。とりあえずそれを知るのは美也子と俺と…姉夫婦くらいだろう。
美形は遺伝する例として教科書に載せてくれないかな。いずれ美也子も世に出ることになるだろうから。それほどに美しく育つはずだ。




