このお茶は人生の味
一方依田はキャッチボール組を眺めていた。
「ジャージくん、俺の方かよ」
明らかな小学生ににこやかな笑顔を向けながら、目はジャージくんを追う。
やはり投手主体となると野手組は数が少ない。
その中で長身はひときわ目立つのだった。
一応グラブは持参している。
依田に遊び心が湧いた。
「そこのジャージ」
不思議なことに周りの子供たちは誰も話しかけるどころか、誰こいつと言った視線を光太郎に投げかけている。
「僕ですか?」
「ああ、そう。どこのチームだ?」
「所属はないです。近所の高校生のチームに混じらせてもらってます」
「そ。ちょっとだけやろうぜ」
とボールを投げる。光太郎がキャッチしてゆっくりと素直なフォームから幸平が以前驚嘆した、縦回転の山なりのボールを投げ返してくる。3度ほどやり取りして、依田は舌を巻いた。
(とんでもねー逸材じゃん。こんなサウスポーいたのか)
「背はまだ伸びてるのか?」
「途中です」
「ウェートはほどほどにな。無理に筋肉を付けないでおけ。それと指先のボールの感触を忘れるなよ。温度も湿度も味方にすればおまえが助かるはずだ」
びっくりしたように光太郎は頷いた。
「あざす」
照れ隠しに依田は周りに声をかける。
「よーし。時間ないからな、希望者10人だけキャッチボールしようぜ」
殺到したのは言うまでもない。
教室後。
クールダウンした二人は再び控えにいた。眼前には小さな湯呑みにわずかなお茶。
「クーラー効いてるけど温かいお茶ねえ」
「おい、日向。失礼だろ」
案内係がチラッと依田を見て
「この辺でしか採れない植物を煎じた茶ですよ。冠婚葬祭で欠かせないものでして。話のタネに一口どうぞ」
そう言うことならと二人は口にする。
なんとも不思議な味わい。清らかでいて深い苦みがわずかに残る。
「美味い…っていいのか、これ。バカ舌の俺にはわかんねーな。どうよ、アキラ?」
「人生の味だ」
「おまえのがバカ舌じゃねーか」
案内係は笑ってこの植物の名前を教えてくれた。
曰く「キイロバナ」と。
二人の美少女はSNSでこんなやり取りをしていた。
(くしゃみが止まんないだけど。千種、幸平くんとあたしの悪口言ってるでしょ?)
(なによ、ゆな。言ってないよ?幸平、朝からどっか出かけてる)




