記憶はまだ胸にある
球場に着き、担当の世話人が注意やらお願いごとやらを二人に説明する。積極的にこういう行事に参加する二人にとっては慣れたものだ。
説明が終わりユニフォームに着替えてグランド内に入る。
「おー、今日も満員御礼だ」
整然と並ぶ選手たちを見て依田は軽く笑む。
「ちゃんと仕事しろよ」
「たりめーだ。ちっこいのから…ん?」
ひときわ目立つ長身が三名。
「なあ、参加は俺たち二人だけだったよな?」
「その通りだが。確かにデカいな」
一人はジャージ。二人は同じチームらしく揃いのユニフォーム。
「資格って今回中学生までって聞いてるぜ」
「まあ中学生だろうな」
「期限ギリギリに獲得した3Aの選手が混じってるみてーだ」
二人は明らかに異民族の風貌だった。だがよく見ると同じユニフォームの選手たちが他にも複数いて、皆で和気あいあいと話している。
「ジャージの方がぼっちみたいだな」
「知り合いがいないようだ」
「気にかけてやれよ、アキラ」
当然二人は知らないのだが、ジャージは大杉光太郎だった。
1時間は短い。だから実際は技術指導よりモチベーションアップが目的になる。
素振りをしたり、キャッチボールをする選手たちに声をかけながら、気がついたことがあれば一声かける、そんな教室だった。
やがて実戦風の打撃。3球までと区切られた打席をプロに見てもらい、寸評をするのが遊佐の仕事だ。長身の一人が打席に入る。やたらに落ち着きがないようにバットを動かしている。だが初球を待つ瞬間にピタリと静止し、真ん中に投げられたボールは綺麗なスイングの後、とてつもないスピードのライナーで外野のはるか先に飛んでいった。
「ナイススイング。君、名前は?」
「ロゼタロ」
「ん?」
「ロゼが姓で太郎が名前」
「おお…そうか。このまま楽しく野球続けてな」
「はい、ありがとうございます」
嬉しそうに少年は(少年?)、打席を後にする。
次もまた異国の風貌の少年。今度は先に遊佐が問うた。
「君は?」
慣れているのか、淡々と少年は答える。
「ブート・キャリパーです」
太郎とは逆にきちんと態勢を構えると、少年は不動のままやはり初球を捉えて、美しい放物線を描いてスタンドまで届いた。
「仲間を大切にしてな」
「はい」
ブートは打席を退いた。
遊佐が少年だった頃に数年だが、鮮烈な活躍をした二人の助っ人外国人の名。再び聞くことになるとは。
「当分は辞められないな」
少年の日の記憶はまだ胸にある。
橋本はくしゃみが止まらない。
「おかしい。風邪かな?」




