初夏におこった顛末
そういやそんな話を聞いたことがあるな、なんて千紗さんのいつもながらの美味しい朝食をいただきながら考えていた。
するとおずおずと扉が開き赤色が目に飛び込んできた。
「おはようございます。昨晩はおせわになりまして」
ありがとうございますと千紗さんに頭を下げる北さん。
「礼儀正しい不良か、おばさん」
「大福が喋ってるー」
子供の喧嘩か、おい。そして昨晩ヒメと北さんになにがあった?
しばし世代を超えた舌戦が繰り広げられて、勝者の高校1年生が本題を切り出す。
「教職課程とってたんだって?」
「教育大卒で、友達もいなくて水泳もお休みしてた私がとっていないとでも?」
うわ、不憫。橋本ともやりあってたし、北さんって苛められっ子体質なのか?そういや舌禍事件も………。
「ウチの学校、先生が足りないのさ」
「え?」
「ついでに水泳界トップクラスが二人もいるのに、指導者もいない」
「………つまり?」
「働け、ニート!ってならない?」
「私が先生?」
「考える時間なんてウチらJKよりあるんでしょ」
すました顔でヒメさんはそんなことを言った。
ちなみに水泳界トップクラスの二人を問うと
「水泳界の美少女と言ったらさ、ウチと…」
「ヒメさんと?」
「マロ」
………うん、そんな気がしてた。
ほんのしばらくの間北さんは前の家に居候することを決めた。そしてなるべく早く賃貸をさがすのだとか。そのために髪も黒くしたし。
それと水泳教室に在籍して、偶然に居合わせる橋本たちにアドバイスもすることにしたとのこと。別にお互いにプロとアマの関係でもないんだろうけど。
結果的に現役復帰と教員採用をなぜかこの地で、日本水泳界の巨星は求めることにしたらしい。ヒメさんに感想を求めたら
「弱り目に祟り目」
と笑っていた。たぶん何かの言い間違いだろう。
これが通り過ぎる初夏におこった赤い髪の女性の顛末の一部始終だ。
いよいよ美也子編




