食卓にヒメ
千種の正面に日下部さんが向き直って話しかけようとした時、金髪の黒船が訪れた。
「ねえ、早名さん」(この時はまだ橋本は千種を名前呼びしてなかった)
「なにかあった?ゆなちゃん」
「次の古典の訳を忘れて…」
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また頼りに来たな、橋本よ。主に学習面で良い先生を見つけたとばかり、困ったら千種頼みになるのはどうなんだ。
気づけば四人で話し始めていて漫然とそれを眺めることになった。
放課後。
千種と橋本が話していて、さらに児島姉がそこに加わっている。
「…じゃあ選手登録もされてなかったってこと?」
「結果的にそうなるのかな」
「いじめはするし、登録もしないとかどんな高校?」
橋本が怒っている。美形で金髪の橋本だと迫力が増すね。対してリボンを低い位置で結う千種はジャージ姿で表情を変えずに話す。
「美樹ちゃん、なんとかしたい」
いたずら好きのみささんが珍しく真剣に言う。
「あの子が苦しむなんておかしいよ」
「お父さんがあちこち当たってみてるから」
「環境がクソだなんて…そんなのあたしだけで…」
普段シニカルな橋本が率直な物言い。
おっとりとした妹さゆりさんが加わる。
「なんとかしないと」
「ねえねえ、なんの話だい?」
爆弾娘ヒメさんがクビを突っ込み、マロさんを呼んだ。
その結果なのか、大杉は現在に至る。
ぎりぎり選手登録に間に合い、県大会においてリレー1番手で県記録を更新、インターハイにいきなり高高から3人の選手が出場することになった。これはある意味衝撃をもって世間に認知されることとなったのだった。
さてそんなことを回想しながらの北さん二日目である。
起きて一階の食卓に行くとなぜかヒメさんがお茶を召し上がっている。まあ千種と幼馴染みたいなものだし、以前にも何気なく朝食に混じっていたことがあったからな。
「おはよう、ヒメさん。今日も丸いね」
「幸平くんの心の角で傷がついたよ」
「責任は取らない」
「嫁にもらってくれるんだろ?」
「あんたたち、バカよね?」
「名台詞だね、それ」
千種の珍しい突っ込みにもゆっくりと笑い、ヒメさんは続ける。
「赤い髪のおばさんに話があって来たけど、まだ早いかなと思って幸平くん家に寄らせてもらったんだよ」
北さんをそんな風に言えるのはたぶんヒメさんだけだよ。ついでに俺の家は今北さんが寝てる家だ。めんどくさいからもう突っ込まないけど。
「ウチの学校さ、先生が足りてないじゃん」




