金髪の寂しい女の子
橋本によれば、北さんの恋愛は彼女の片思いに終わったらしい。中学の時期に同級生だった…それだけのことだと言う。
児島姉妹にいいように茶化されて、やっと話した内容は小学生のような拙い恋心だった。
コイバナはJKの栄養素みたいなものらしい。
三々五々帰っていく夜すがらに、児島姉妹もヒメさんマロさんコンビもゆっくりと影を伸ばして消えた。
「またおまえ一人か?」
「仕方ないじゃない」
帰る方向が一人違う橋本に声をかける。
「送っていこうか」
「やだ」
「千種と一緒に」
「もっと、や」
子供じみた橋本に千種は笑顔を向ける。
「幸平に送ってもらお?」
驚いたように千種を見やる橋本。
しばらく考えて
「う…うん」
…やけに素直に返事をした。
「どこにいたの?」
「へ?」
「大杉さんも千種ちゃんもいなかったし」
「縁側で月を見てた」
「ふーん」
と橋本は空を見上げ
「月を見て楽しいのかな」
「俺は楽しくなかったかな」
「今夜は月が綺麗ね」
「漱石先生もくだらないミームにされて苦い顔してんだろうな」
「このタラシ」
と笑いながら橋本は髪をかき上げる。
ふと見える耳は赤く、それでも橋本は笑った。
「ね、あなたに恋をしたらだめかな」
「本人に言うの、それ」
「私が誰かに愛されないタイプなのは自覚してるけどさ…」
「んなことはないぞ、ただ性格がちょっと悪いだけだ」
ふうと橋本は息を吐き
「ほんとなら怒らなきゃいけないようなことあっさり言うんだ?」
「何度も言ってる気がするけど」
「愛人でいいかなと思ってたけど…」
「15才で本妻に愛人とかなんだかねぇ」
うーんと橋本は考えはじめ
「千種ちゃんってなんか不思議だよね」
「不思議?」
「私と出会ってまだ数ヶ月だけどさあ、あの子気がつくと誰かに寄り添ってるの」
「お母さんかよ」
「全然違う感じなんだけど…」
確かに御地の一件以降、ずいぶん大人びた印象は俺にもある。
「千種ちゃんがしたいことってなんなのかなあ」
そうやって呟いた橋本は空を見上げる。
月は雲に隠れていた。
「ま、いっか」
「いいのか?」
「自分のことで手一杯なんだよ」
「みんなそうなんだろうな」
「私の居場所を見つけたいな」
「ここにあればいいけど」
「今は十分かな。友達なんて贅沢なものができたし、水泳も続けられてるし」
「あと三年もないけど」
「冷水ぶっかけんな」
「日本3位の言葉かよ」
「1位が言うと嫌味よ」
お互いにしばらく黙って歩いていた。
やがて月がまた現れた。
月光に照らされた橋本を見て、俺は不意に千種に言う初めて出会った夜を思い出す。
…ああ、そうだ。
橋本に対しても今夜のいま、なにかがハマった感じを受ける。
橋本結菜。
金髪の寂しい女の子。
切れ長の目を見て思う。
こんなに美人だったのかと。
そう言えば千種の内面にあえて触れていません