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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第5章:みんな居場所を求めてる

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痩せた月

 禅問答のような不思議な会話を経て赤髪の北さんは、千紗さんに挨拶を終えると帰り際にパネルを中指で弾いた。

「お父さん怒ると思うな」

 千種はそう詰る風でもなく呟く。 


 まっどっちにしても早名の一族(言うなれば行朝さんと千紗さん、娘の千種に遠縁の葉姉ちゃんに俺に配偶者の遊佐晶さん)と、晶さんの盟友依田日向と元?恋人の北玲さんとはまさに赤の他人…と言う訳で。

 年上の人たちの過去の恋愛に興味を持てるはずもない。


 ………俺だけだった。甘かった。

 児島姉妹をはじめとした10代半ばの女子にとっては、水泳界のスターと野球界のスターの過去である。

 普段はクールビューティ風の橋本まで料理を食べる間を惜しんで、北さんの言葉に耳を傾けている。 

 なんだかねぇ…と一人飯をかっ込んでいて、ふと気がつく。千種と美樹がいない。

 大杉美樹は普段からもの静かのうえ、社交的でもなく大柄の印象の割には存在感が薄い。

 賑やかな場をそっと離れて庭に出てみると、千種と美樹は縁側に腰を下ろして夜空を見上げていた。

 今夜は痩せた月。


 二人は黙ってそこにいた。俺もなんとなく千種の横に座る。特に話題を振る必要を感じなかった。


「光太郎くんは?」

「母のところ」

「そか」


 10分以上いて交わされたのはそれだけだった。俺もまた言葉を発しなかった。費やす時間は静かになにかの養分として降り積もっていく…そんな感覚がした。夜は怖い。



 ふと美樹は俺を見ながら千種に聞いた。

「もう………したの?」

「二人で………ってこと?」

 一息吐いて美樹は見上げたまま呟く。

「うらやましいとか思わないくらい家族みたいなんだもの」

 苦笑する千種。

「幸平のお姉さんからね、男に振り回されない自信がついたら、その時考えなさいって」

 美樹は意外そうに俺を見る。

「まだなの…」


 気まずさから堪らず俺は言う。

「好きなものは最後にとっておくタイプなんだ」

 千種はすぐに一言。

「嘘つき」


 堪えきれずに美樹は笑う。

「私にもいたらなあ」

「ゆなみたいなこと言わないで」

 千種は真面目に続ける。

「旦那ちょうだいとかほんと困る」


「橋本さんは…」

 美樹は、言い淀んだあと珍しく断定するように続けた。

「本気になったらすごく強敵だよ」

「そう…だよね」

「怖くないの?」

「たぶん一番の友達だから」

「いいの?それで」


 千種は考えながら言葉を紡ぐ。

「あたしは選べないな」

「早名くんに任せるの?」

「分からないけど…とりあえず一人前の男にしなきゃ」


 俺?

「そうは分かってるんだけど」

 千種は笑いながら

「嫉妬しちゃうんだなあ」

「まるで正妻だね」


 千種はいまだ美樹を大杉さんと呼ぶけど、その後初めて

「美樹って呼んでいい?」

「うん、私も千種って呼ぶ」

「友達になろ」

「私で良かったら」


「あの丘で大きな木を見たとき」

 千種2回目の豹変の時か。

「何があったの」

「いつかちゃんと説明するよ」

「そか…うん…」

 それきり無言の二人。

 この二人はどんな距離感を持って、どんな風に互いが映っているんだろう。

 それを考えながら空を見上げる。およそ考えが及ばない。


 そんな夜。

 見上げると痩せた月はまだ空にあった。


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